どうも、
翔です。
2017年になって、
アメリカではウィンターカップが始まり、
今週にはW杯シリーズも始まりますね。
白井くんが新しいルールにどんな構成を用意しているのか気になる日々です。
これから始まる新しい体操の相貌にも注目したいところですが、
今回はルール改正に当たって難度表から消滅してしまった宙返り転を取り上げてみようと思います。
宙返り転は縦に1回体を回転させたのちに直接もう半回転加えて、頭を下に向けた状態で両手で支持局面を作り前転の要領で起き上がるという技です。
もっとも標準的なものがこちらですね。
この1回転目の空中局面で姿勢を変えたりひねりを加えることで難度が上がってきます。
転系の技は難度が重視されるようになってから頻繁に見られるようになった技です。
また、それよりも前には独創性の観点から取り入れるといった使われ方もしました。
大幅な流布ののち、特に10点満点が廃止されてからは1つの演技に2回も転系の技を入れてくる選手も現れました。
宙返り転は難度が高いものが多く、Dスコアを稼ぐのにうってつけです。
また、ひねり技や2回宙返り技と違い着地という要素がないので演技全体の減点を少なくする目的でも使われますね。
しかし、2011年に東京で行われた世界選手権で決定的な事故が起きます。
加点狙いの連続技のシリーズで宙返り転を実施した選手が、頭をゆかに大胆に打ち付け、演技中に脳震盪を起こしたのです。
これを機に宙返り転は2回以上の実施を制限(1回のみの実施)され、更に別の宙返り技との組み合わせとしての実施が禁止されました。
そのほか、両手で支持する際に手の甲を床面に添えて支持する実施が減点対象になるなどの設定もなされました。
日本国内では18歳未満のジュニア選手に対して宙返り転系の技を禁止するなどの処置も取られたほどです。
競技としてのメリット以上に肉体的なリスクの大きい技でもあります。
それでも価値点を稼ぐために宙返り転を実施する選手は多く、制限がありながらも廃れることはありませんでした。
実際、宙返り転は全日本でも使っている選手はたくさんいます。
しかし、観客として見ていると、選手が宙返り転を実施したときに「失敗したのかと思った」という声がよく聞こえてきます。
着地着地と思って見ていると転は特殊な動きなので驚く人もいるんですね。
今回難度表から削除された技は以下の通りです。
抱え込み宙返り転
屈身宙返り転
伸身宙返り転
ヴァン・ローン
マリニチ
伸身マリニチ
ダイビング転
ウ・グォニアン
トーマス
伸身トーマス
リ・イェジュウ
(※きりもみは省いています。)
今まで多くの選手が取り入れてきたこれらの技たちを今一度思い起こし、弔ってやろうと思います。
前方宙返り転はそもそもの「宙返り転」の原型と言っていいのではないでしょうか。
C難度なので晩年は使う人が少なかった技ですが、クルクルと回って滑らかに起き上がる実施は見ていて気持ちがいいものです。
北京,ロンドンと五輪ゆか2連覇を達成した中国の鄒凱がかつて単体で使っていました。
1:00〜
ひねりといった宙返り技から前宙転に繋げる人も多かったですね。
0:33〜
0:23〜
0:45〜
連続で使うというと切り返し前宙転というパターンもありました。
0:24〜
0:00〜
0:00〜
このように実施している例を探してみると連続技の一方として実施している選手が多かったですね。
屈身姿勢でも難度は変わりません。
0:30〜
0:15〜
伸身の前宙転はD難度なのですがこちらは実施例が見つかりませんでした。
この技だけは一度も見ることなく消えてしまいました…。
続いて前宙転にひねりを加えた技になります。
一時期全体的に流行っていたヴァン・ローンという技。
先ほど見た前宙転に1回ひねりを加えた技です。
内村航平選手がひねり技との連続で実施してから忽ち世界中で流行しました。
探して見てもやはり連続技として実施されていた例が多いですね。
0:40〜
0:15〜
0:00〜
ロシアのアブリャジンは単体で使っていました。
0:40〜
次に後ろ向きで踏み切る宙返り転の技。
いわゆるダイビング前宙の動きから転に持ち込むダイビング前宙転という技もありました。
こちらはシンプルな前宙転と同じ難度でやはりあまり見ることはありませんでした。
0:36〜
こちらも屈伸姿勢でも難度は変わりません。
そしてこれを伸身でやるのがウ・グォニアンというD難度の技。
このダイビング前宙というのは後ろ向きに踏み切った後すぐにひねって前方宙返りの動きをするのが特徴なのですが、
後方半ひねりのような動きをする選手もいるので判断が怪しいのです。
その傾向が特に現れるのがこのウ・グォニアンという技。
ウ・グォニアンをする選手はほとんどと言っていいほど「後方伸身宙返り半ひねり転」のような動きをしています。
そういう技はないのでこの動きでもウ・グォニアンとして認められていました。
0:25〜
僕が個人的にウ・グォニアンの実施が素晴らしいと思うのがオレグ・ステプコの実施です。
ひねりのタイミングも良く、しかも伸膝で起き上がります。
0:45〜
続いてトーマス転です。
こちらも内村選手がゆかの演技に必ず取り入れていたことからよく見られる技です。
後ろ向きで踏み切り抱え込み姿勢で1回半ひねりののちに転という技ですね。
こちらは本家本元カート・トーマス選手の実施から
0:55〜
内村選手は演技の終盤に必ず取り入れていました。
1:00〜
連続技で実施する選手も。
0:28〜
0:12〜
そしてトーマス転を伸身姿勢で行う伸身トーマスにはコロブチンスキーと名前がつけられています。
宙返り転でコロブチンスキー!
転ぶチンスキー!
伸身トーマスは足の強い選手が挙ってやっていた印象がありますね。
外国に比べると日本選手はやる人が数えられるほどと、割合としては少ないです。
やはり伸身トーマスといえばパービスの実施は外せないでしょう。
(パービス)
0:58〜
そした日本選手のやる伸身トーマスは美しくて好きなんです。
0:35〜
0:50〜
アメリカ選手の伸身トーマスは迫力があります。
0:52〜
1:07〜
さらに転系の技にはこんな動きをするものもありました。
0:55〜
ハンドスプリングの要領で直接縦回転をして転で起き上がる「マリニチ」というC難度の技。
これが伸身でになるとD難度になります。
0:34〜
伸身の方がD難度とあってやる選手が少しばかりいますね。
実はこの伸身マリニチに関しては面白い傾向があります。
なぜかフランスにこの技を使う選手が異常に多いのです。
指導者の影響なのかはわかりませんがおもしろい傾向ですよね。
0:23〜
0:05〜
0:20〜
そして転系の技でもっともトリッキーな技がリ・イェジュウという技。
側方宙返りの形を見せてから転に持ち込むカッコいい技です。
0:10〜
0:23〜
0:50〜
もう宙返り転を見ることはなくなってしまいますが、
選手の安全を考慮しての結果だということは強調したいところです。
これからは技に詳しくない人の心臓がキュッとなるようなことも少なくなりそうです。
きれいに回ってきれいに着地する。
それまでいつも見ていたことがより大きな価値を持つように見えてきます。
Dスコアも今までより0.5下げられて点数が取りにくくなってきている中、どれだけ正確な実施ができるかが、東京まで生き残っていく大きな要素となるでしょう。
あぁ、宙返り転よ、どうか安らかにお眠りください。
我々は貴がこの世に生きたことをけっして忘れることはないだろう。