【注意】この記事は2008年に書かれた内容です【注意】


聞いた事がある方も無い方もいらっしゃると思います。
やけに売れていると評判の音楽ソフト、「初音ミク」のこと。

簡単に言えば、「パソコン上で歌うシンセサイザー」です。つまり電子楽器
だけど普通のシンセと違うところがひとつ。それは「キャラクター性」があること。

【いつもはCD-ROMの形をしているけど、パソコンに入れて
音符と歌詞を打ち込むと、その通りに[歌]を歌ってくれる、
16歳の女の子の姿をした、ボーカル・アンドロイド。】


みたいな感じでイメージしてもらうと、わかりやすいかもしれません。

YAMAHAが開発した技術(VOCALOID2)をベースに声優藤田咲さんの声を乗せ
クリプトン・フューチャー・メディア(株)が開発したこの「初音ミク」
2007年8月31日に発売され、ソフトシンセとして異例の売り上げを記録しました。

今回はこの「初音ミク」にまつわる現象を読み解きつつ、
私がミクを使った作品を創作している理由についてお話することにしましょう。

初音ミクvocaloid2_editor

「機械が、人間のように歌う」技術の成功は、昔から憧れられていたものです。
「作曲はできるけど、自分は歌えないから…」とか
「曲は出来たけど、歌ってくれる人が探せない、お金がかかる…」という悩みを持つ
ひとにとっては夢のようなツール。

そこでDTMを趣味としている人たちや、アマチュアのミュージシャンが
「じゃぁ試しに、自分の曲を初音ミクに歌わせてみようかな~」というノリで
ネット上に公開しはじめたのがはじまりだったような気がします。
そしてそれぞれが「アイドル『初音ミク』」をプロデュースしていった、と。

そしてちょうどその時期は
「ニコニコ動画」というサイトがネット上で流行していたところでした。

そこには沢山の人が集まって、様々は面白動画をアップ&閲覧して、楽しんでいた。
しかも「ニコニコ動画」はYouTube等の動画サイトと一線を画す面白いサイト。
視聴者が見た動画に感想コメントを入れると、それが動画上に一緒にテロップとして流れて、
「みんなで一緒に動画を見て、楽しんでいる」感覚を味わえる
画期的なシステムだったために、「初音ミク」人気はさらに加速度を増しました。

だって、今まではプロのミュージシャンになろうと思っても、
デモテープをレコード会社に送ったり、オーディションに参加したり、
路上やライブハウスで頑張って、スカウトしてもらって、
会社のえらいひとに気に入ってもらえないと、
自分の作品を沢山の視聴者に届ける事は出来なかったというのに、

家にいながら、偉い人に認めてもらったり、難しい契約書を書かなくても
ネットに繋いでいる、世界中の、ものすごく沢山の人々に
視聴してもらって、その反響をすぐに確認できるんですから。

(※)「ニコニコ動画」は現在登録者数が約930万人、一日に200万人以上の人が訪れ
月間PV数は20億を超える、「交通量のハンパない」サイトです。



こうして彼等の自作曲は、数多くの人のもとに届きました。
流行に敏感なネット住民たちの「初音ミクって何?」という疑問とともに
いろんな無名の曲が再生され、その認知度はひろがっていきました。
(中には有名なポップスのカヴァーもありましたね。)

そして、それだけでは終わりません。「ニコニコ動画」には
絵の上手な人演奏の上手な人歌の上手い人プログラミングの達人
プロアマ問わず沢山の人が集まっていたうえに、
素人がアップロードして、タダで聴ける曲なので著作権曖昧だった。

なので、「この曲イイね!私が歌ってもいい?」「俺が演奏してもいい?」
「この曲に映像を付けたいんだけど…」っていう人が現れ出したのです。
そして沢山の関連作が、次々に発表されていった。

しかもニコニコ動画では「再生数」「コメント数」「マイリスト登録数」に応じて
毎日ランキングが変動したので、それが表現者たちの創作魂を刺激し、

「あの曲の再生数がすごい!クオリティがすごい!」
「この動画よりあっちの方が上手だったよ!」
「私が作ったほうがもっと上手く作れる!」
「自分は動画は作れないから、おもしろいコメントを入れて、応援したい!」
といった具合に
創作協作競作の連鎖』があらゆる動画をきっかけに沸き起こっていった。

初音ミクはいわば「共通課題」のような感じで、
様々な分野のクリエイターがミクを媒介に自己表現をしていったわけなのです。
それぞれが関係ないテーマで、バラバラな事をやっているのではなく、
「ミクでこんな事ができるのか!」みたいな視点で競い合える事も
とてもわかりやすかった。
(「VOCALOIDシリーズを用いた作品の週間ランキング」なども作られていたり。)

そしてミクは「美少女ヴァーチャルアイドル」でもあるので、
「ミク可愛い!」と思うファンも沢山いて、彼らも
TVで歌い踊るアイドルを応援するのと同じようなノリで
いろんなクリエーター達が作り出す「ミクの新曲」を楽しんだのです。
プロ顔負けの上質な楽曲/動画も多いですし、それが
無料視聴ダウンロードできるのですから。


そして「初音ミク」発売から1年が経った今、
沢山の人がこの連鎖に参加しています。

人気の出た曲の作曲者はあだ名が付けられて、楽曲はカラオケや着メロ化され
沢山のヒット曲を飛ばした人は、メジャーデビュー(CD化)の話が決まったり、
自作CDとして制作し、コミケ等で販売して沢山の利益を出したり
スカウトが来てプロに転向したり、TVで取り上げられたりする動きなども
多く見受けられました。

金銭的なものに繋がらなくとも、
動画協作をきっかけに、友達が増えたり、恋人ができたり、モチベーションUPしたり…
「初音ミク」を自己表現のツールとして使って遊んだ人たちには、
たくさんのいいことがあったみたいです。


私はこのへんの一連の動きを追ってきましたが、
ここにひとつの「創作の理想型」を見た気がします。
(もちろん問題点やら悪い部分もたくさんあるのですが。)

自分としてもインターネットが普及し、回線が高速化しだした頃から
今後はクリエイター、創作物、流通、著作権のあり方が
大きく変わるだろうと感じていて、
そのへん整備しつつ、創作と研究をしたいと思って
大学では美術を専攻していたのですが
周りの才能ある友人達が、卒業後
創作するのを辞めちゃったりする人が多いのを見ていて
どうすれば作り手が能力を発揮しつつ、活動を続けられる(=そのためのお金を得られる)
ようになるだろうか。。。と思っている時に
ニコニコ動画で元気に創作活動しているクリエイター達を見て
すごく嬉しかったというのがあって。

そんなのもあって、
クリエイターにとって居心地の良い場所やシステムができるように
私も行動していきたい~と考えて
今の創作活動につながっています。


ものすごく長くなってしまいましたが、
私のプロジェクトに関わってもらう方には
伝えておきたい事、知っておいて欲しい事だったので、書いてみました。