私の視力はとても良かった。
通常は1.5。時には2.0の時もあり、「両眼で4.0。最強!」なんて変な自慢をしていた。
夜寝る時は、横になって本を読むことも多かった。
ところが、45歳あたりから、横になって本を持つ腕がだんだん伸びてきた。
そして、ベッドの縁の木枠に当たり始めた。(当時は、子供用二段ベッドの下に寝ていたので。)
とうとう、精一杯腕を伸ばしても本を読むのがつらくなってきて、
読書の習慣がほとんどなくなった。
つまり、老眼が進んできたのだ。
どうも開始時期としては早い方らしい。
視力が良い人ほど早く老眼になると聞いてはいたが・・・
加えて、パソコンに目を懲らして長時間仕事をすることが増えてきた。
ますます老眼が加速してきた。
ディスカウントショップで買い込んだ安い老眼鏡がいくつも、
仕事場、自宅の机、居間などに点在するようになった。
学校では、職員室で机に向かって仕事をする時に老眼鏡のお世話になっていたが、
声をかけられてふと顔を上げた時には、決まって鼻眼鏡になった。
廊下を歩く時には、頭に乗せて移動した。
だんだん外での活動にも不便さを感じるようになってきた。
スーパーのパックの表示が見えにくくなり、自分の財布の中を見るのにも目を細めるようになった。
ビデオ屋さんに行って、巻の内容を知るのにも一苦労だった。
その度に、鼻眼鏡の老眼鏡を出して見ていた。
誰かに言われた。
「道村さん、いくらなんでも格好悪いよ。おばあさんになったみたいだよ」と。
やばいなあ・・・遠近両用のものがあるらしいから、作ってみるか・・・と、
眼鏡屋さんに足を運んだ。
ところが、選んでもらったフレームは、幅広の丸形で、
いかにも歳とりました!おばあちゃんでございます!というのだった。
ちょうど細身のかっこいいフレームが出だした頃で、その細さがいいんですけど・・・
と、眼鏡屋のおじさんに頼んだのだが、
遠近両用だとある程度の幅がないとダメなんだと言われた。
しかも、びっくりするほど高かった。
仕方なく作り、一週間もかかってやっと手元に届いたが、
それは歳をとったことの象徴のようで、なかなか使う気になれず、
いつもメガネケースに入ったままだった。
その頃、初めて韓国に行った。
ソウルには実に多くの眼鏡屋さんがある。
その中の一店にふらっと立ち寄ったら、日本語がぺらぺらだった。
話をすると、私の家のすぐ近くの新聞屋でバイトをしながら、
日本のホヤメガネで研修し、技術を学んできたと言っていた。
そんな人がたくさんいるようで、その人たちが自国に戻ってから、
韓国の眼鏡業界の進歩は著しかったようだ。
そう言えば、韓国人はドラマでもよくメガネを使用する。
知的なことの象徴のようにとらえている節がある。
そのソウルの眼鏡屋さんで、メガネ選びが始まった。
細いフレームでも遠近両用大丈夫!
その場で検眼して、翌日には出来上がっている。しかも、とても安い。
フレームは派手なものをずいぶん勧められた。
韓国の人は、派手な眼鏡をかけるのに全く抵抗がなく、気分が変わっていいらしい。
でも、私は仕事柄、そして、女性が眼鏡を常時かけるという抵抗感もあって、
できるだけ地味なものにした。
安さと、早さと、フレームの細さと格好良さが、すっかり気に入って、即決で購入した。
それからも老眼の度がどんどん進んで、私の周りは老眼鏡だらけになっている。
パソコンを見る時、文字を読む時、書き物をする時、台所で包丁を使う時、
家の中にいても、その距離感に必要な老眼鏡をとっかえひっかえ使用している。
そして、外に行く時や仕事場では、韓国で作った遠近両用を使用していた。
7年くらいの間に、老眼の進み具合に合わせて三つほど新調した。
贅沢そうに見えるかもしれないけど、
今の私には遠近両用の老眼鏡なしでは生活できないほどになっていて、
韓国の安い格好いい眼鏡はとても重宝していた。
ところが、仕事のしすぎなのか、とにかく目が疲れるようになってきた。
放課後は「めん玉が痛~い!」という状態になってきた。
授業中に目力を効かせて勝負しているからにちがいない・・・なんて思い込んでいた。
韓国へ行った時に、その眼鏡屋さんに「とにかく目が疲れて大変なんです。」と相談したら、
偏光グラスというのがあって、太陽光の強さによってメガネの色がサングラスのように変わって、
UVカット力がとても良くて、楽になりますよ!と言われて、それにした。
確かに、外で体育をしていても、行事の時も、水泳学習でも、大活躍だった。
目の疲れは、目力のせいではなく、太陽光や紫外線に弱くなっていたのだ。
遠近両用の老眼鏡であるのに、サングラスの役目もして、
外では黒くなったメガネが、室内に入ると色が薄くなり、通常のメガネになる。
とても優れもので、一気に目が楽になり、私の必需品であり、愛用品となった。
日本でもそんなメガネがあるのだろうが、とても高そうだ・・・
そして、近年はパソコンに向かい続ける生活をしているせいか、
またしても目の中に疲労がたまっている気がする。
遠視も進み、老眼の度合いもさらにひどくなった。
学校の先生だから、とにかく地味で、目立たないものを・・・とずっと選んできたのだが、
退職したら、急におしゃれなメガネをしたくなった。
今回の韓国旅行の重要な目的の一つが、眼鏡作りだった。
遠近両用の偏光グラスのちょっとおしゃれなもの、
パソコンの電磁波を防御するブルーライト対応の老眼鏡、
そして、進みすぎた老眼に対応する強い度の老眼鏡。
これらがどうしても欲しかった。
その中の一つ、書き物や細かい字を読んだり針仕事をする時の一番強い度の老眼鏡で、
思わぬ形のものを勧められた。
上半分の枠がない!しかもピンク色!
「え~っ、何これ!こんなものできないですよ!」と強く抵抗したが、
「これがとてもいいんです。とにかく使ってみたら分かりますよ!」
いやだよ~、こんなの、絶対に似合わないし、変だよ~!と思いつつ、恐る恐るかけてみた。
すると、分かった。どうして良いのかの仕組みが分かった。
老眼鏡は手元を見る時にとても便利だ。
しかし、ふと目を上げると、遠くのものがぼやけて見える。
つい鼻眼鏡になってしまう。これがおばあさんたる元凶だ。
ところが、この眼鏡、顔を上げても鼻眼鏡にする必要がない。
元々上半分がないから、すっと向こう側が見える。
作業をしながら、テレビがすぐに見られる。
上目遣いにならなくてすむ。
気に入った!これにする!と即決。
たったの6,500円だった。
しめしめ、今回の韓国旅行も大成功だった!