異郷のモダニズム-満州写真全史- | 空想俳人日記

異郷のモダニズム-満州写真全史-

 名古屋市美術館が通常のアートの世界を紹介する展覧会とは異なった、ちょっと変わった特別展を開催していたので行ってきました。
 会場へ入れば、そこは満州国。

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 以下、美術館サイトでの紹介記事をお借りします。

 1905(明治38)年の<ポーツマス条約>により、東清鉄道の南部支線と炭礦の採掘権を獲得した日本は、翌1906(明治39)年、<南満洲鉄道株式会社(満鉄)>を設立し、本格的な植民地経営に乗り出していきました。「十萬同胞の熱血が注がれた」”満洲”については、日露戦争終結の時点から、「内地」の国民にその存在と意義を知らしめるべく、満鉄による啓蒙活動が展開されました。「内地」に向けての「弘報」活動において、視覚的な「資料」=写真が宣伝材料として重視されるようになりました。
 当初は、記録的な表現であった満洲の写真は、1932(昭和7)年の「満洲国」建国の前後からは絵画的な表現により、「赤い夕陽の満洲」や「曠野を行く隊商」など、日本人が大陸に抱いたロマンティシズムが図像を伴って可視化され、配信されました。1930年代後半に入り、やがてグラフィズムの時代を迎えると、大陸の表象は、より洗練された「記号」へと変貌していきます。
 しかし、日本の敗戦とともに「満洲国」は13年と5か月で崩壊し、それとともに「大陸」に寄せられた視線とその写真表現の展開も途絶え、消滅します。「記録」と「表象」、「紹介」と「啓蒙」、さらには「宣伝」へと展開した「満洲」の写真とは、正しく「近代」を記録し続けた写真というメディアの発展をたどるものでもありました。
 本展覧会は、およそ四半世紀の間に展開した「満洲」の写真表現を、貴重なヴィンテージ・プリントや多数の資料でたどり、改めて日本のモダニズムが到達し得た豊饒なその表現を紹介いたします。

 そして、時系列で5つの章に分かれております。

Ⅰ.大陸の風貌 ― 櫻井一郎と〈亞東印画協会〉

 満蒙印画協会(のちの亞東印画協会)の創設者で、同地における写真の撮影から頒布までを一手に担っていた写真家櫻井一郎の活動が紹介されてます。
 私的には「支那芸者」「支那の乞食」に心を奪われました。

Ⅱ.移植された絵画主義 ― 淵上白陽と〈満洲写真作家協会〉

 淵上白陽は、あたかもミレーやコローの絵画のように、センチメンタルな絵画の情景のような写真を撮っています。彼を代表する満洲写真作家たちは、真実でもある貧困と苦難を内地に提示することはありませんでした。
 惹かれた写真としては淵上の「列車驀進」「人々」「老婆」、米城善右衛門の「縫い物」、宇野木敏の「春娘」、地崎実の「路地の夕べ」、田中康望の「機関車」。あと、白人を撮った、松岡謙一郎の「麦」「井戸」、馬場八潮のロマノフカ群。一色辰夫「秋空」。

Ⅲ. 「宣伝」と「統制」― 満洲國國務院弘報處と『登録写真制度』

 やがて写真家たちの時代は終わり、官僚主導のものとなります。公募~登録という文化統制は、「国家の建設のための精神的生産と生産物」として位置づけられました。
 人のよさそうな老人と無垢そうな子どもの写真が目立ちます。また、内田稲夫の「同窓の宅にて」は和服の女性とチャイナドレスの女性が。竹村富男の「建大の学生」は日本人と白系ロシア人が仲良く新建設への志を持ったような撮影がされてます。

Ⅳ.〝偉大なる建設” ― プロパガンダとグラフィズムの諸相

 そして、1943年(昭和18年)、東方社より素晴らしい出来栄えのグラフ雑誌「偉大なる建設 満州国」が発刊されます。最高の紙面構成は、兵站、つまり、戦闘地帯から後方の支援の役割、ここで言えば、プロパガンダのための創られた似非現実の写真群。
 どうですか、こう言えば、気づくでしょう。今も満州国でなく日本国、同じことが行われてることを。

Ⅴ.廃墟への「査察」― 『ポーレー・ミッション・レポート』

 最後の章です。日本は終戦、でなく敗戦を迎え、満州は13年と5か月で崩壊です。ここでは、満州製鉄(かつての昭和製鋼所)など、重工業の場面の写真が。でも、施設は破壊され重機は撤去された写真です。アメリカが調査に入った時には、すでにソ連軍が略奪してしまい、廃墟と化してました。

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 以上が展覧会の全貌です。
 ダイレクトに写真が語ってくれているわけではないですが、いかに、戦争で得た戦利品や大地や現地人が作られたしあわせの向こうで、貧困と苦難に喘いでいたかを、ひしひし感じました。
 そして、この展覧会で、それを感じることができるこそ、一人一人が平和って何なのかを痛感できると思うのです。
 今、生きている人たちは、平和ボケというか、平和であることが当たり前だと思っています。でも、戦前も、そうだったんですよ。戦争に勝ち続けてる間、国内の国民は、イケイケだったと思います。
 でも、日本が大陸で植民地政策をとり、第二次大戦に臨んだあと、それまでの平和が、本当の平和だったんだろうか、思ったはずです。それを、今の日本国民は感じておりますでしょうか。
 ぜひ、この展覧会を、特に若い方に観ていただき、満州国って何? 第二次大戦って何? 平和って何? 感じてほしい。
 そして、平和とは、与えられるものでなく、目の前の選択肢をきちんと選択していくことで、平和は守られることを知ってほしい。決して、正義のための戦いで平和を勝ち取るものではないのです。戦う限り、それは、戦争です。

「異郷のモダニズム-満洲写真全史-」
会場:名古屋市美術館
会期:[前期] 4月29日(土・祝)~5月28日(日)
   [後期] 5月30日(火)~6月25日(日)
休館日:月曜日開館時間午前9時30分~午後5時(入場は午後4時30分まで)
夜間開館:金曜日は午後8時まで(入場は午後7時30分まで)

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 あ、ちなみに、観覧後、常設展も観ました。たまたま、時間が、ボランティアの方による解説の時間でしたので、一緒に鑑賞しました。お客さんは私一人。ボランティアの方と私とで、現代美術やエコールドパリ、メキシコ美術を好き放題、語り合いました。

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 皆さんも常設展、観るときは、ボランティアさんの開設の時間に行くといいですよ。楽しかった。

満州写真全史
異郷のモダニズム-満洲写真全史- by (C)shisyun


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