ジーン・ワルツ | 空想俳人日記

ジーン・ワルツ

平凡という 明星こそ 命の光


 何の前置きも仕入れずに、ただただ出演者のリストを見て観に行きました。もちろん、出演者のリストを見る際に「医療ミステリー」などと言う謳い文句は見ましたよ。
 そんな謳い文句を、この映画というより原作そのものへのレッテルだとは分ったのですが、なんで~、そう思いました。ちゃうんですね。これは、映画サイトのカテゴリーで言えば、人間ドラマですよ。
 出演者のリストを見てと、そう言いましたが、だって、男優はとりあえず置いといて、主演の菅野美穂でしょ。そして、それ以上の脇役に、白石美帆、南果歩、風吹ジュンですよ。好きな女優ばかり。そして、さらに、これらを締めてくれるのは、浅丘るり子ですよ。
 そんなキャスティングの中、私は、彼女たちの出産現場にはらはらどきどきしながら、生命が生まれるたびに、涙が迸ってきてしまいましたよ。
 さて、前置きを仕入れてなかったので、後置きならぬ、既鑑賞者が気になりました。そしたら、「平凡」という文字があちこちで見つかりました。ええっ、そうかな。
 いや、そうじゃないな、この平凡は、主人公の菅野さん演じる曾根崎理恵が、当たり前と思われている子どもが生まれることは、実は奇跡なのだ、ということを噛み締めてられないんだな、そう思いました。
 そして、男はダメですね、という荒木隆(妻の浩子に南果歩)の役を演じる大杉漣さんのコメントや、「おろしてよ」と叫んでた桐谷美玲演じる青井ユミに三枝茉莉亜先生(浅丘るり子)が諭して生む気持ちにまでなった彼女のように、命を宿っていることがなんなのかを噛み締められない方が見れば、止むを得ないのじゃないかと思います。
 医療ミステリーとかのレッテルを貼る供給側に対し、消費側もわくわくどきどきの刺激を求める、そういう映画じゃないんでしょね、これは。お互い、そういう宣伝的遣り取りは無意味です。
 当たり前だと思ってしまいがちな生命が果たして何なのか、生命の誕生そのものが当たり前のことではなく、類稀な奇跡であり、その奇跡にめぐり合えた人たちの生きることへの感動と、そんな奇跡に出会えない人たちへの最善の道が何なのか、そう思えば、この映画は、とても有意義な映画であると思うのであります。
 数分しかこの世の光を見せられない子どもを宿った白石美帆演じる甘利みね子、そして、孫を借腹に宿る風吹ジュン演じる山咲みどり、素晴らしい。誰の孫かは映画を観てね。
 平凡であることの幸せは、当たり前にやってくるわけではありません。もし、平凡をつまらないと思ってられるのであれば、その方が平凡でいられるのは、あなた以外の方々があなたに平凡という奇跡を与えてくれている可能性があることを知るべきではないんでしょうか。そういう観方をすれば、この映画が平凡であることの奇跡と感動を実感させてくれると思いますよ。
 それでも無理なら、まずは子どもを産んでみましょうね。産めない方には、ごめんなさい。でも、この映画で、望みを捨てないで。

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