国宝 薬師寺展 | 空想俳人日記

国宝 薬師寺展

日の光 月の光に 春霞



 この春の東京出張は、初の二人旅なのだそうで。誰の話って、奈良は薬師寺の日光さんと月光さんのお二人のこと。平安遷都1300年を記念しての東京は上野への長期滞在の旅だそうな。滞在中に上野の動物園で仲良くお弁当を食べる、そんなお暇があるといいな。
 ところで、薬師寺と言えば、1998年に古都奈良の文化財の一部として、ユネスコより世界遺産に登録されたんだってね。「日本書紀」によると、薬師寺は天武天皇9年(680年)、天武天皇が後の持統天皇である鵜野讃良皇后(うののさららこうごう)の病気平癒を祈願し、飛鳥の地に創建したもの。でも、天武天皇は寺の完成を見ずに朱鳥元年(686年)没し、伽藍整備は持統天皇、文武天皇の代に引き継がれた。その後、和銅3年(710年)の平城京への遷都に際して、薬師寺は飛鳥から平城京の六条大路に面した現在地に移転した。移転の時期は長和4年(1015年)成立の「薬師寺縁起」が伝えるところによれば養老2年(718年)のこと。平城京の薬師寺は天禄4年(973年)の火災と享禄元年(1528年)の筒井順興の兵火で多くの建物を失い、現在、奈良時代の建物は東塔を残すのみ。
 さて、奈良時代にお生まれになったお二人である日光菩薩(にっこうぼさつ)と月光菩薩(がっこうぼさつ)、いつもは銅造薬師三尊像として、二人は両脇、まん中には中尊である薬師如来がいらっしゃる。今回、如来さんはお留守番かな。その像容も捨てがたいけれど、やはり両脇の日光さんと月光さんのプロポーションと身のこなしには、今回しげしげと眺めることで、その素晴らしさに改めて感嘆した。しかも、仲良くお二人だけで並ぶ姿を交互に見ていると、そのあたかも腰を振って踊る身のこなしの動きまでが手に取るようにして分かる。ううん、悩ましい。まるでボーカル薬師如来さんに対するナイスペアなバックダンサーのよう。両手の指先まで神経が行き届いた対なるポーズ、その指のOKサイン。ひょっとかすると、お二人、プライベートでは恋愛関係かもしれない。そうそう、前からだけじゃなく、お尻の方にも周って、その腰つきを眺むれば、いと悩ましきかな。
 今回、お二人とともに上野の森にやってこられた方々の中で、お二人以外に目を見張ったのは、指先OKマークに対するVサインというかピースサインの玄奘三蔵坐像。この頃から既に写真に撮られる時のポーズが確立されていたのか。ただ、そのポーズだけでは人生への勝利サインなのか平和への祈りなのかは理解しがたかったが。
 あと、いつもは金堂内にある仏足石。礼拝対象としての仏陀(釈迦)の足跡を刻んだ石。足の中にも、各部に様々な宇宙が刻まれているのだ。それは、あたかも足ツボのごとく。仏足の何処を指圧すれば世界がどう動くのか、なんとなく納得しながら顔を近づけると、この世の世界観が匂ってきた。
 あとは・・・、そんなんよりも、もっと国宝級の展示物もあったと思うが、忘れてしまった。ああ、国宝である吉祥天像があったね。第一印象は「小さあ!」である。そして、その第一印象で終わってしまった。細部がよく分からない。多くの人が釘付けになってたけど、何に釘付けになってたんだろう。精緻な美しさに見とれていたのだろうか。私はどちらかと言えば、ウルビーノのビーナスのが好きだ。
 薬師寺の歴史と美のエッセンスが空前絶後といっても過言ではない質の高さを誇っているこの展覧会、春の庭園開放と併せて訪れなさるとよろしい(と言いながら、春の庭園解放は、もうすぐ終わるね)。というか、本音を言えば、日光さんと月光さん、少し寂しそうにも見えた。好奇の色もはや褪せる。そんな春の霞たなびく上野の森で、はやく、ふるさと奈良に帰してあげたい、と思った。
 日光さん月光さん、奈良に戻ったら、また私の心の故郷でもある古巣でお会いしましょうね。


奈良薬師寺公式サイト http://www.nara-yakushiji.com/
平城遷都1300年記念 国宝 薬師寺展 http://yakushiji2008.jp/index.html