物価安定目標の達成がなされぬまま、その達成時期は2018年度頃に先送りされました。(遠い目…)

では、金融政策は物価安定に効果がないのだろうか?
物価安定目標を達成するには何が必要なのだろうか?
この二点を中心に超穏健派一般人なりに考えてみたいと思います。

ポイントはコミットメントとそれを裏付ける行動(政策)です。

野口旭さんの論考(*1)が参考になります。

"[前略]

インフレ目標政策の真の目的


 黒田日銀の異次元金融緩和政策への批判は数多いが、最も典型的なそれは、約束された達成期限が守られていないことに対するものであろう。確かに、消費者物価上昇率を2%まで引き上げるという約束は、黒田日銀が発足して3年半が経過しても達成できていないのだから、その点に関して日銀に弁解の余地はない


 それでは、インフレ目標政策の目的とは何か。それは直接的には「2%インフレ率の達成」そのものである。しかし実は、インフレ目標政策の本来的な目的は、物価それ自体にあるのでは必ずしもない。より重要なのは、望ましい雇用と所得の達成および維持である。というのは、インフレ率をいくら高めたところで、それ自体は人々の経済厚生すなわち豊かさを改善させるわけではないからである。一国が本当の意味で豊かになるためには、何よりも、一国の雇用が増え、所得が増えることが必要である。物価目標の達成というのは、そのような上位の政策目標からすれば、たかだか「目安」にすぎない。


[中略]


つまり、異次元金融緩和政策が成功していることは明白である。唯一問題があるとすれば、それは、完全雇用の実現という最終的な政策目標を、約束の期限内に達成できなかった点のみにある。それをどう考えるべきかについては、稿を改めて論じたい。"


(*1)《黒田日銀の異次元金融緩和は「失敗」したのか》
(2016.11.04,ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト,野口旭)

金融政策は雇用政策、ということですね。
とても重要な点で、金融政策の効果を理解していない、もしくは、、批判的な方はには是非おさえておいていただきたいポイントです。

2018年度頃に物価安定目標達成の蓋然性が高い(質問者2はそうは思わない)という点を含めて、野口旭さんの次の論考に期待したいと思います。

白い日銀からは
「構造失業率の日銀による推計値は3%台半ばであり、既に完全雇用ですけど何か?」
「完全雇用なのに何故か賃金上昇率の伸びがイマイチなんです。教えてスティグリッツ!」
という声が聞こえてきそうです。

原田泰さんの推計によれば、構造失業率は2.5%程度とのこと。
リフレ派の田中秀臣さん、片岡剛士さん、高橋洋一さん等の推計値は2.7%と記憶しています。



「アベノミクスで格差拡大!」というアベノセイダーズに特にご一読頂きたい記事があります。

田中秀臣さんの記事(*2)です。
アベノミクスで格差拡大に歯止めがかかったそうです。

(*2)《[経済]アベノミクス下でのジニ係数、相対的貧困率、子どもの貧困率への歯止め、そしてGDPギャップ拡大そのまま》
(2016.11.02,田中秀臣)


ここまで、金融政策が雇用政策であること、雇用などでどのような実績をあげたのか、という点を主に見てきました。

では、金融政策当局では、どのような議論がなされているのか、見てみましょう。

(*3)《政策委員会 金融政策決定会合

議事要旨 (2016年9月20、21日開催分)》

(2016.11.07,日本銀行)


"3.海外金融経済情勢

海外経済は、緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分減速している。

米国経済は、新興国経済の減速などから鉱工業部門は力強さを欠い ているが、雇用・所得、家計支出に支えられて回復傾向にある。物価面をみると、コアベースのインフレ率(PCEデフレーター)は前年比+1%台後半で推移している。また、総合ベースはエネルギー価格の下落を主因に同+1%近傍で推移している。


欧州経済は、輸出が弱めの動きとなっているが、個人消費が引き続き増加するもとで緩やかな回復を続けている。物価面をみると、インフレ率(HICP)は、総合ベースではエネルギー価格の下落を主因 に前年比0%近傍で推移しているが、コアベースでは同+1%近傍で推移している"(*3 2〜3ページ)


新興国経済の減速、原油価格下落があるのは、日本だけではなかったのですね。

米国と欧州では、コアベースで1%台後半と1%近傍となっているそうです。直近のコアコアCPIがゼロになってしまった日本から見ると、羨ましい限りです。

国外要因は、日米欧とも違いは余り無いはずですが、日本は消費増税が物価安定目標達成を阻害している状況が続いていますね。



"ある委員は、個人消費が堅調に増加するためには、現在の良好な雇用・所得環境が一時的なものではなく、持続的なものであり、今後、賃金は上昇していくとの確信を持てる環境を整備することが重要であると述べた。別の委員は、現在の消費性向の低下は、様々な要因はあるが、リーマン・ショック後に行われた耐久消 費財需要の喚起策の反動も一因と思われると述べた。"(*3 8〜9ページ)


可処分所得が増加していく、という期待というか確信が持てたら、良いですね。

しかし、消費税率の10%引き上げが将来に控えています。。。


"物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は小幅のマイナスとなっているとの認識を共有した。先行きについて、 大方の委員は、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられるが、物価の基調は着実に高まり、 2%に向けて上昇率を高めていくとの見方で一致した。


[中略]


今後執行される政府の大規模な経済対策は、金融緩和政策との相乗効果により、成長率の押し上げと予想物価上昇率の改善に寄与すると述べた。


[中略]


わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。"(*3 9ページ)


日銀の別の資料では、QQE導入時よりも速いペースで物価上昇率が上昇すると予想(?)しているようです。

{3AACC98D-9C51-4C4C-985B-CEF5F87A193F}

一体、何が起こるのか?一般人には全く予想だにできません (汗

政府の財政政策に期待する声もあるようです。

大規模な第二次補正予算が可決されたんでしたね。

しかし、真水で見ると、第三次補正予算を実施しないと、当初予算と補正予算を合わせた額で、昨年度割れになってしまう程度の「大規模」な予算だそうです。

(出典は脳内にあるエコノミストのお話です、すみません)



財務省からの出席者

"デフレ脱却と持続的な経済成長の実現は、政府・日本銀行共通の重要な政策課題であり、引き続き、政府・日本銀行が緊密に連携し、 金融政策・財政政策・構造改革を総動員していくことが重要である"(*3 17ページ)


財務省からの出席者もタマ(猫?)には良い事言うんですね。

財政政策も総動員と言う事であれば、消費増税などしている場合ではないですね。


日銀の頑張り具合を10月25日に行われた月例経済報告の資料(*4)で見てみましょう。以下の6つの図表はいずれも日銀の資料(*4)からの引用です。


{7DBF867E-FE57-4FB8-813F-F2F8D59F6E84}

日銀がマイナス金利を導入したり、頑張っていますが株価は2016年を見るとヨコバイ、2015年の水準と比べるのも申し訳ないくらいです。。。
こんな状況ではきっと米国の株価も…

{F05EFC71-757E-4B29-98B7-511DC2D3E668}

米国は一旦落ち込むも、上昇基調に戻りつつあるようにも見えますね。

{5AEDB010-B12E-4F17-B3D2-F0C4F9F5B3D9}

為替レートは、ドル円もユロ円も円が増価傾向でしたが、歯止めがかかりつつあるようも見えます。

{9FC3D7C8-0EA9-4F55-B050-5AB6A1346C24}

日銀の金融緩和は、物価上昇に効果発揮したようです。
「金融緩和では物価が上がらない」と主張される方は、データを使って日銀の主張を否定なさってみてはいかがでしょうか?

あれれ〜、おかしいな〜(╹◡╹)♡
"もともと過去の物価に引きずられやすい予想物価上昇率が弱含んだ"
とありますが、
2013年初め頃から「過去の物価に引きずられやすい予想物価上昇率が急上昇しています!
そして、過去の物価上昇に引きずられやすい予想物価上昇率がスゴい勢いで上昇していたのに2014年4月から急にヨコバイに…

うーん、適合的〜(╹◡╹)♡


{EA880750-60D1-4F54-A718-454E42F14357}

イールドカーブ全体を押し下げて、実質金利を下げるはずが、直近のイールドカーブは7月頃を上回る感じですね。

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買入年限の撤廃や指値での国債買入は良いとして、「オーバーシュート型コミットメント」は、デフレ脱却への強力なコミットメントになっているのでしょうか?
期待が動いているのでしょうか?

物価安定目標達成時期を5回も後ズレさせた団体は、例えるなら
「来年の健康診断までを念頭に出来るだけ早期に100kgの体重を80kgにします!デブレ脱却!」
と言っていた人が、だんだんと達成時期を後ズレさせ、
「私が生きているか死ぬか分からない時期(日銀総裁の任期切れ時期)に、デブレ脱却します!
80kgじゃなくて、70kg台になってもダイエットはやめません!(きょうりょく〜」
と言っているように見えます。

2%の実現に向けたモメンタムは維持というか、存在しているのでしょうか?
追加緩和を必要と判断できるのでしょうか?

仮に、3018年度に物価安定目標達成と言われても、相当長生きしないと…


(*4)《月例経済報告等に関する関係閣僚会議・資料 ── 最近の金融資本市場の動き ──》

(2016.10.25,日本銀行)

http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2016/10nichigin.pdf



直近の予想インフレ率を見てみましょう。


{3DB033FE-6F40-4EBA-8B82-0BE3C50FA192}

図表出典(*5)

(*5)《現状維持であった日銀政策決定会合(10 月)》

(2016.11.04,三菱UFJリサーチ&コンサルティング,片岡剛士)

http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka161104.pdf



デブレ脱却への強力なコミットメントとそれを裏付ける政策は、本当に存在しているのでしょうか?


大事なことはコミットメントとそれを裏付ける政策です。

期待に働きかけることが大事です。

デブレマインドに戻り、ブラック企業で働きかける、そんな未来は勘弁願いたいです。