自民党の財金委員でもある柴山昌彦議員のブログ
を見て、"後世へのつけ回し" について考えてみます。

結論から申し上げますと、財政赤字による国債発行が将来世代のツケになるかは、財政赤字や国債残高で単純に決まりものではなく、日銀の金融政策やGDP、雇用などの国民の効用も考慮する必要がある、となります。

詳細は、田中秀臣氏が紹介している以下の記事をお読みいただければ分かります。もちろん、岩田規久男氏のご著書を読まれるのが一番ですが。
一部を引用します。

"国債が将来世代の負担になるのは、まとめると「納税を選択したときよりも国債を発行したときのほうが、予想実質金利が高くなれば、国債は将来世代によって負担される」となる。これだけではわかりにくいだろうから(岩田先生の本はこのエントリーよりも丁寧に説明しているので基礎知識などに足りない人はぜひ本書を手にとられることをすすめる)、以下に国債累増についての岩田先生の発言をそのまま引く。ちなみに予想実質金利とは、名目金利から予想インフレ率を引いたものである。日本のようなデフレでは予想インフレ率の項がプラスになるので、名目金利が例えゼロであってもプラスになることに注意
[中略]
「それでは1990年以降の国債の累増は将来世代の負担になるであろうか。国債残高は1998年頃から急増し始めるが、当時の国債(10年物)の名目金利は1%台後半だった。国債の名目金利はその後どんどん低下して、03年5月には0.53%にまで低下した。その後もあがったとしても2%以上になることはなかった。すなわち、国債残高の累増は名目金利の上昇をもたらさなかったのである。しかし、日銀の不適切な金融政策は続いたため、デフレが長期化し、予想インフレ率はマイナスになってしまった。これにより、名目金利が低下したにもかかわらず、予想実質金利は上昇してしまった。この上昇は投資を抑制するとともに、円高をもたらした。これらは予想インフレ率が2%、3%程度で推移したときに比べて、国内総生産と消費と雇用と輸出の減少をもたらし、国民の効用を低下させたのである。」"

《岩田規久男『経済学的思考のすすめ』"将来の世代の負担が生まれるのは日本銀行のせいだ"≫(2011.03.08)


GDPギャップがある場合(2015年4-6月は約9兆円)は、財政赤字が増えたとしても、経済安定化を進め、GDP成長率や雇用環境を改善させた方が、国民の効用が高まることを忘れてはならないと思います。

名目成長率、長期金利の組み合わせで、どの程度の財政赤字が許されるかを考える際のヒントになるのが、竹中平蔵氏の資料です。
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《歳出歳入一体改革について》
(竹中平蔵議員,2006.03.16)

名目成長率を4%(以上)にすると、基礎的財政収支の黒字化が近づくことが分かります。

名目成長率が上がると長期金利も直ぐに同じく上がると言われる方もおられるようですが、不完全雇用下では、そうはなりません。事実により否定されています。

"インフレ期待が生じた場合に名目金利が上がるという批判がある。しかし、フィッシャー方程式「名目金利=実質金利+予想インフレ率」において予想インフレ率の上昇分だけ名目金利が上昇するためには完全雇用でなければならず、今のデフレ状況では直ちにフィッシャー効果は実現しない。つまり、現金需要がきわめて旺盛な流動性の罠の状態であれば、現金がじゃぶじゃぶ状態であり、インフレ期待が生じてもそれらの一部が債券購入資金にまわり、債券価格の下支えになって金利はなかなか上昇しないのだ。

これは、景気回復期と後退期でフィッシャー効果が非対称になっているという実証研究からも裏付けられる。さらに、1930年代大恐慌において、米国や日本の歴史事実を見ても、名目金利の上昇は見られなかった(図参照)"

《第7回:インフレ目標政策への批判に答える》(高橋洋一,2003.03.07)

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直近の長期金利
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さて、柴山昌彦議員のブログを見てみましょう。

※以下の引用部分は、柴山昌彦議員のブログより

"平成27年6月13日
[許さぬ後世へのつけ回し]

 昨日12日、私もメンバーとなっている党の財政再建に関する特命委員会で提言案がまとまりました。

 私は、昨年法人税率の引き下げを議論した時には、減税の一方で景気回復が見込まれることから、代替財源確保のための増税を行うことには慎重な立場でした。

 しかし、今回の議論はそもそも出発点が名目成長率を3.6%とこれまでの実績に比べてかなり高い水準を達成することを前提としてなされています。そのうえで(再来年の10%への消費増税を織り込んでも)2020年度に基礎的財政収支を黒字に転換させるためには、9.4兆円の歳出抑制が必要だと、内閣府や党の行政改革実行本部で判断しました。 これに対しては「昨年度の好景気により税収の上振れ分が既に2兆円超生じている」「税収弾性値(経済成長と税収の伸び率の関係)を1と想定しているが現実的には1.3などもっと高い値になるはず」「公共事業の民営化などによりさらなる高い税収が見込まれるはず」などの根拠でハードルを引き下げるべきだという反論がありますが、私は今回はこうした反論は当たらないと考えています。そもそも上記したとおり名目成長率をずっと高い水準に保つということ自体非常に難しいのです。税収弾性値も長期的に見れば1に収束することはほとんど議論がなく、こうした長期的な試算をする場合には固めの数字を目標とするべきです。"

特命委員会の報告は以下のページで公開されています。

《財政再建に関する特命委員会報告(最終報告) | 政策 | ニュース | 自由民主党》(2015.06.16) 

第4回の講師は藤井聡内閣官房参与、ご説明に財務省(第8回)や土居丈朗氏(第12,16回)とそうそうたる顔ぶれです。
報告書には「財政再建の必要性」として次のように書かれています。

"わが国は、債務残高が国際的にも歴史的にも例をみない危機的水準にまで累増しており、財政赤字という形で現在・未来の若者たち(次世代)に借金の付回しを行っている状況にある"(1ページ)

これを見る限り、柴山昌彦議員が仰る「後世へのつけ回し」とは「財政赤字」(後述のブログ本文も合わせて判断すると基礎的財政収支の赤字でしょうか)を指していると思われます。

基礎的財政収支の赤字は、デフレや増税などマクロ経済政策の失政により引き起こされている面が大きいと考えます。2007年度は増税なしで、黒字化へあと一歩のところまでいきました。デフレが緩やかになり、名目GDP成長率が上向いていた頃です。(残念ながら2006年の福井日銀によるゼロ金利解除、リーマンショックにより、その後は赤字幅が拡大)


名目成長率3.6%をこれまでの実績と比べてかなり高い水準、とのことですね。デフレ下では名目成長率がインフレ時よりも低くなるでしょうし、デフレ下でも実質成長率がプラスだった年度もある日本の成長力(まともなマクロ経済政策下)であれば達成できるのではないでしょうか?
(実質成長率2%+GDPデフレータ2%=4%)

G7の名目GDP成長率は1990-2000年で平均4.2、01-08年平均で3.5です。G7の平均点を取れば良いくらいです。
《OECD諸国のGDP成長率》


2020年度の基礎的財政収支黒字化に必要な額の試算は、5カ月余りの間に▲9.4兆円から▲6.2兆円へと約3兆円ほど改善しています。
(消費増税後、GDP成長率は下がっているので、7月時点の試算もアテにならない部分はあると思われます。)

《中長期の経済財政に関する試算》
(内閣府,平成27年2月12日 経済財政諮問会議提出)

(内閣府,平成27年7月22日 経済財政諮問会議提出)

平成26年度の当初予算では50兆円と見積もられていた税収は約4兆円上振れしました。

税収弾性値について、長期的に1に収束ということを基に、固めの数字(1に近い値?)を使うことが必要というご認識のようです。

"「税収弾性値は4」には致命的な欠陥
[中略]
約4は間違いで非科学的、1.1は科学的に見てかなりいい線
"
《消費増税をにらんだ今後の税制改正の行方》
(土居丈朗,2012)

税収弾性値は、やはり「1」近くが科学的に見てかなりいい線なのですね。


現実の世界、日本の税収弾性値を見てみましょう。
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《消費税増税と日本経済》(片岡剛士,2013.08.27)

「間違いで非科学的な数字」、約4も散見されます。
アベノミクスが始動した2013年度の税収弾性値を財務省に問い合わせたところ、
3.7
だったそうです。またまた「間違いで非科学的な数字」

《財務省「2013年度の税収弾性値は3.7」》


税収弾性値は景気回復局面などでは、3~4と高めの値となることが知られています。
景気回復局面では、赤字企業の黒字化で法人税収増、失業者が職を得て所得税納税、所得増で納税額増、適用所得税率が上がるなどの税収増加要因があるためです。


"歳出削減をすると景気回復の足を引っ張る面はないとは言えませんが、法人税や消費税の議論と違って、歳出削減の場合は「費用対効果」を精査することにより、より政策効果や景気対策としての実効性が高いものに予算配分を行うこと(ワイズスペンディング)は可能です。古典的なIS曲線分析で「増税と歳出削減は同様の効果を持つ」などとは割り切れず、現に近年のIMF報告書でも、増税より歳出削減の方が経済成長にはより適切だとの記述があるのです。"

財政赤字を減らす方法は
1)歳入を増やす
2)歳出を減らす
しかありません。

歳出 = 歳入 = 税収 + 税外収入 + 借金

消費増税という影響範囲が広く恒久的な増税よりも、金額規模や影響範囲が限定される(単年度、または複数年度の)歳出削減の方が影響は限定的なもののなるとは思われます。

しかし、歳入を増やすには、景気への影響を考えると

経済成長 > 歳出削減 >>>>> 増税

となるかと思います。
GDPギャップがある状況下、デフレ脱却途上、既に消費増税という悪手を実施しており、実質成長率が2014年度はマイナス、2015年度もゼロ近傍(マイナス?)との観測もあります。

経済安定化政策が必要な状況で、金融政策と財政政策のアクセルを緩めることはいかがなものでしょうか。

また、税外収入についてもふれて欲しいところ。
外為特会(2013年度末)には約19兆円の資産・負債差額(いわゆる埋蔵金)があるそうです。一般会計への繰入に活用し、必要な政府支出に充てることができます。増税も歳出削減もなしに。


"現在少子高齢化により急速に増加している社会保障費を中心として、あらゆる歳出を単純な一律カットではなく、しっかり費用対効果を検証したうえで9.4兆円の歳出抑制を行うことは、決して不可能ではないと考えます。"



"ジェネリック薬品の国際水準並みの普及、病気予防のインセンティブの工夫、病床配分の合理化、終末医療についての検証など、具体策に踏み込んで提言をまとめましたが、結局昨日の最終提言には上記した数値目標までは盛り込まれませんでした。これを踏まえて政府の「骨太の方針」(経済財政運営の指針)がどのように表現されるか注目です。"



"なお、「9.4兆円の歳出抑制」といっても、そもそも物価の伸びなどにより2020年までには自然体だと15兆円歳出が増える計算であり、結局今回の抑制をしても歳出は5.4兆円増えることになりますから、「緊縮財政」であるとの批判は当たらないと思います。"



"また、基礎的財政収支よりむしろ債務残高対GDP比を安定させることを目標とすべきとの主張もありますが、長期的な金利上昇の圧力も考えれば、やはりまず基礎的財政収支をしっかり黒字化することに注力しなければいけません

 提言では、中間年度となる2018年度にきちんと歳出額の目標設定を行うべきと書いていますので、着実に計画を実施していきたいと思います。"


安倍政権には、名目成長率4~5%を目指して、名目GDP600兆円をさっさと達成して欲しいもの。
基礎的財政収支の黒字化は後からついてきます。

GDP規模が小さく、重税、国民に還元されない政府資産、厳しい雇用環境、これらもツケであることを忘れてはなりません。