母子家庭の貧困といわゆる「貧困の連鎖」を司法的に助長する簡易算定表 その2 | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

1.
 おっひさ~。
 本記事は,
簡易迅速~の婚姻費用,養育費の算定表は,母子家庭の貧困といわゆる「貧困の連鎖」を助長している!
の続きです。







 さて,あるケースで,家庭裁判所に提出した準備書面の冒頭部分をそのまんま紹介するところからはじめましょう。赤太字とかでかい文字は今回の引用にあたり私が強調した部分です。
 
【引用開始】
第1 はじめに
1 異例かもしれないが,本書面を提出することとした当職の思いを冒頭に述べることとする。
2 当職は,家庭裁判所におかれては迷惑な話かもしれないが,当職なりに家庭裁判所を愛している。これまで多くの事件に関わる中で,当職は,家庭裁判所のあり方と調査官の資質及び調査能力を信頼してきた。調査官の調査に紛争の中にいる親には見えていなかった子の姿が映し出され,その調査報告書が当事者に別の視点からの内省の契機をもたらして,離婚を巡る紛争の局面に多大な影響を当事者に与えたケースが複数ある。調停委員の人生経験に裏打ちされた言葉,表情,眼差しが当職の女性依頼者にとても有り難かったケースは多々ある。男性調停委員が采配することの多い調停事件ではあるが,ただその女性調停委員がそこにいて醸し出す雰囲気,表情,珠玉の言葉に救われる思いをした女性依頼者が沢山いる。
 当職はあちらこちらで「チャレンジングでクリエイティブな調停」と書いているが,実は,目新しいことではない。手続当事者として登場することのない子どもの存在に思いを致して子の最善利益を模索し,人間関係調整やケースワーク的な役割を担って家庭の問題に取り組んできた家庭裁判所の蓄積があり,そのような蓄積とこれまでのあり方を個々の事件で丹念にやっていこうというだけのことである。当職がイメージするこうあってほしい家庭裁判所の姿は,かくあろうとしたこれまでの家庭裁判所の歴史であったのではないか。  
 そういう家庭裁判所であるからこそ,調停委員が,ボランティア的に関わる喜びも存在したのではないか。
【引用終了】

2.
 のっけから,

 「愛してます!」


 家庭裁判所におかれては,

 「迷惑な話かもしれないが」

 「愛してます!!!!」

 ってなわけで,もしかしたら家裁の裁判官,調停委員,調査官,書記官から,


 「家裁ストーカー弁護士」

って思われたりしたらやだな・・・・とか思いつつ,家庭裁判所を愛しております(笑)。
ちなみに,先に引用した記事は,婚姻費用の事件じゃありませんが,まあ,思いは同じです。
家庭裁判所を愛しておるわけですな。

2.
 このように家庭裁判所を愛しておるので,家庭裁判所が,母子家庭の貧困といわゆる「貧困の連鎖」を司法的に助長しているようなことを全国展開しているとしたら,私は,とても悲しくなるのです。そして,ニッポン全国の母子家庭と子ども達とその未来を思うのです。
 坂元裕二脚本,満島ひかり主演のテレビドラマ「Woman」を再放送してくれないかな。
 死別シングルマザーケースだけど。
 働くママさんは大変です。
 そして,子ども達は,次世代の公民です。
 私たちの社会は,子ども達に,どういう社会を残そうとしているんでしょう?
 
3.
 抽象的にああだこおだと雄叫びをあげても具体的に伝わらないので,このケースでは具体例を紹介しましょう。
 もちろん,架空の設定ですが,まあ,私のそれなりに多いかもしれない案件をごちゃまぜにありそーな設定にしたものです。

夫 サラリーマン。年収510万円。月に均すと42万5000円。北陸地方某中小都市在住。
住宅ローン負担あり。月払い分と賞与時払い分を均して,月8万5000円。

税金について
 所得税  0円(住宅ローン借入金等特別控除のため)
 県市民税 月8900円(特別徴収)
 社会保険料 年間69万6000円,月に均すと5万8000円
 よって,税金と社会保険料合計は月額で6万6900円

妻 無職。長年のDVによりPTSD診断あり。現在就労不能。北陸地方某中小都市在住。
7歳の男の子1人を連れて別居。
家賃は月3万円(2K)。親の援助で生活中。親は高齢年金生活者で親も大変。

4.
 上記のケースを,いわゆる簡易迅速~のいわゆる「標準」と誰かがいっている東京大阪裁判官調査官私的研究会(正式名称は「東京・大阪養育費等研究会」らしい。)の私的論文(判タ1111号285頁)で推奨されてあっというまに全国にひろまった算定方式で計算するとどうなるか?

夫基礎収入割合 37%
(「婚姻費用分担事件の審理-手続と裁判例の検討」(松本哲泓・家月62-11-1)の一覧表から)

夫基礎収入月額 15万7250円
 ※総収入月額42万5000円×37%=15万7250円

妻基礎収入月額 0円

夫妻基礎収入合計 15万7250円

妻・子の生活費指数 155(100+55)
夫・妻・子全体の生活費指数 255(100+100+55)

妻・子へ割り振られる婚姻費用

15万7250円×155÷255=9万5583円

夫から妻・子への婚姻費用額

9万5583円-妻基礎収入0円=9万5583円

というわけで,簡易迅速サクサク私的研究会発表算定方式ですと,このように,婚姻費用は月額9万5583円と算定できます。
端数を揃えて,9万6000円としましょうか。

5.
その具体的な意味を考えましょう。

夫の収入月額は42万5000円です。
そして,所得税・住民税・社会保険料月額(実額)は月6万6900円です。
収入月額から所得税・住民税・社会保険料を引くと,残額は35万8100円です。
この35万8100円を夫と妻・子でどう分け合うかという話です。

簡易迅速サクサク算定表ですと,

妻・子は,9万6000円
夫は,26万2100円

という結果です。
夫は,26万2100円から,住宅ローンの月8万5000円を差引しても,17万7100円残ります。
妻・子は9万6000円から2Kの家賃3万円を払いますと,残りは6万6000円です。
これ,生活できませんね。
妻は,年金生活の親から援助を受けています。
その前段階として,市役所に生活保護の相談に行って,水際作戦で追い返されちゃったんでしょうね。


生活保護法で,最低生活費を算出できます。
その最低生活費について,教育費については,文部科学省の統計データを持ってきましょう。
公立小学校ですと,年額5万5868円,月額で4656円です。
住居費3万円は,北陸地方某中小都市ですと,全額住宅扶助対象額です。
それで,だだだっと計算していきますと,その某中小都市での母子の生活保護による最低生活費(ただし教育費は文科省統計から月4656円で計算)しちゃいます。
計算結果は省略(私のPCのエクセルに入っております。)。

月18万1038円です。
生活保護法の最低生活費+公立小学校教育費だけで月18万1038円です。

簡易算定表サクサク算定結果は,母子に,「生活保護法の最低生活費の半額で生活しろ」と言っていることになります。
父親は,住宅ローンを払っても,17万7100円手元にあるのにね。


なんでこういう結果になってしまうのか。
それは,簡易迅速算定表が,基礎収入割合をとっても低く見ているからです。
そのマジックは,①公租公課,②職業費,③特別経費にあります。

実際は,住宅ローン借入金等特別控除があって夫の所得税0円なのに,算定表は,夫が所得税を一定額払ったものと扱います。
払ってないのに払ったことにしている所得税分は,夫のヘソクリになっちゃいます。

算定表は,職業費20%で算定します。
サラリーマンの職業費ってなんやねんって話もありますが,総収入月額42万5000円の20%である月8万5000円が,夫の「職業費」になります。
お小遣い,飲み代で8万5000円ですか!?

算定表は,特別経費を年収510万円の人だと,20.94%くらいで見ます。
月42万5000円の収入の人は,仮に21%で計算すると,特別経費が8万9250円になります。
特別経費は,住居関係費,保健医療,保険掛金の統計合計なんですけどね・・・。
この統計は,妻や子と同居している世帯の統計ですから,もともとは妻や子の保険医療とか保険掛金とかも含まれている数値です。それを夫に総取りさせて,8万9250円を夫のヘソクリにしちゃうわけです。

他方,先のケースでは妻は収入0円です。
収入0円なので,税金はかかりません。
社会保険料も,とりあえず夫の健康保険の被扶養者,夫の厚生年金の被保険者になっていて負担はないとしましょう。

でもね,収入0円ですから,職業費0円,特別経費0円・・・。
夫にはお小遣いやヘソクリ的に留保されるものが0円です。

その結果,簡易迅速サクサク算定表では,夫に超悠々自適の生活をさせ,妻と子には,生活保護の最低生活費の半額で生活しろと宣言することになるわけです。


ちなみに,簡易迅速算定表については,これに挑戦する「3本の矢」がございます。

その1
 日弁連意見書

その2
 松嶋道夫元久留米大学特任教授の複数論考
 これが熱いんだわ~。

その3
 弁護士竹下博將の複数論考
  自由と正義 2013年 Vol.64 No.3[3月号]
  「簡易算定方式・表の基本的問題とその修正」
   東京弁護士会のHPで公開されているLIBRA Vol.13 No.11 2013/11がネットで手に入る。
   そこに竹下弁護士のお宝論文が掲載されている。
   これはお宝です。

9.
 でもってですね,中間を省略して竹下弁護士推奨の簡易算定表修正方式で計算してみました。
 公租公課は実額認定し,夫の職業費は9%,特別経費の控除はなし。
 夫世帯の生活費指数と妻と子の世帯の生活費指数は生活費の最低生活費をそのまま計算して使います。

 細かい計算は省略しますが,以下のようになります。

夫基礎収入割合75%
夫基礎収入31万8750円
婚姻費用月額19万0239円
夫の最低生活費12万2295円(某地方都市の住宅扶助最高額4万2000円含む。)
夫の分担能力19万6445円(31万8750円-19万0239円)=6216円でOK。
婚姻費用受領後の妻と子の生活費から妻・子世帯の最低生活費月額18万1038円を引くと,その残りは,9201円。
つまり,夫は,婚姻費用19万0239円を払った後も,夫1人生活の最低生活費を6216円上回っている。
妻・子は,夫から婚姻費用19万0239円を受け取れば,妻・子の最低生活費を二人で9201円上回っている。
さらに言うと,夫の手元には,職業費9%が留保されている。
総収入月額42万5000円だから,その9%は3万8250円。
よって,夫は,職業費分も含めると,最低生活費をさらに4万4466円上回っている。
夫の生活費の中に,某地方都市の住宅扶助最高額4万40000円が織り込み済みだから,これらを合計すれば,夫は切り詰めりゃ住宅ローンも払えるわけですね。

10.
 武士は食わねど高楊枝が日本の男の文化じゃないの?
 別にカスミ食って生きろって言ってない。
 生活保護の最低生活費はちゃんと夫にも保障している。
 さらに,月総収入9%の職業費も夫に認めている。

 そして,結論は,こうです。


夫の収入月額は42万5000円。
所得税・住民税・社会保険料月額(実額)は月6万6900円です。
収入月額から所得税・住民税・社会保険料を引くと,残額は35万8100円
この35万8100円を夫と妻・子で次のように分け合う。

妻・子 19万0239円
夫 16万7861円

夫は月8万5000円の住宅ローンを払うと,残り8万2861円
これで1か月生活せいってわけです。
ちなみに夫1人の最低生活費から住宅扶助額4万4000円を差引したら,7万8295円
生活できるわけです。
持ち家に住んで資産も確保できるんだから,ちょっとは飲みにいくのを減らして,毎晩のビールは発泡酒にして,タバコも健康のために止めて・・・。

これってさぁ,世のサラリーマンのまあ離婚問題が発生していない夫・父が頑張っている姿じゃん。
これをやるのが,別れていく妻と子への愛であり,男のピカピカの気障な痩せ我慢じゃないの。

それとも,夫は簡易迅速サクサク算定表で月9万6000円しか支払わないのかな?

もしそうなら,子どもからのこういう声を届けてあげよう。

「父ちゃん,母ちゃんとオレ二人の生活保護の最低生活費って18万円くらいって聞いたけど,父ちゃんは,その約半分の9万6000円で,母ちゃんとオレ二人で生活しろって言うんや。そして,自分は,一人で26万2100円を自分のもんにして生活してくんや。父ちゃん,オレのこと愛しとらんな。オレより金が大事なんや。」

この記事を読んだ,父親たちは,まさに問われているわけです。
そして,裁判所も問われているわけです。
より大きな問題は,別れていく男と女とその間の子が,乏しい収入を奪い合っていがみ合うようにさせている,このニッポンです。

「じっちゃんの名にかけて」,素晴らしいニッポンを「とりモロス」なら,この子ども達の現状と,別れ行く男と女が乏しい収入を巡っていがみ合うようにしむけているこの日本の将来をなんとかしないとね。
まぁ,アベちゃんやアッソウさんとかケーダンレーンさんのお歴々の心の内は,「子どもがどんどん貧困に追いやられれば,米国流に,兵隊調達できるからいいや,オレの子どもは,まあ米国の前の大統領を見習って,戦争いかんように裏から手回せるし~。オレとオレの子ども達は,戦争の最前線いったりしないし~。貧乏人はどんどん貧乏になって,【お国のために死ぬ要員】になってくれ」なんていうのが本音かしらって疑いたくなる今日このごろですが。
だから,

愛国者よ,
日本の伝統を大事に思う者よ,


こういう女性と子どもをボロボロにするのが,男らしさの?日本の伝統なの?

って声に応えてほしいもんだわさ。

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