変調 | 理学療法士養成校教員 下井ゼミ研究ノート

変調

【昨日からのつづき】
恩師からいただいた宮部みゆき作『クロスファイア』を読みました。

クロスファイア(上) (光文社文庫)/光文社

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昨日のブログでも書きましたが、超能力ネタを扱っているわりに、突飛な感じがしません。
生活感の中に超能力が溶け込んでいる自然な感じです。

その理由として、女性ならではの視点を考えましたが、もう一つ思い出したのは、Wikipediaに掲載されていた次のエピソード。

「(前略)取材は簡略な方である。
今は警察や日本銀行本店本館の取材にも行ったが、ロッカーの名札の順番や湯呑みを置く順序、日銀も給湯室や掃除道具置き場など日常を表す場所を注意して見る。
そういう場所を書いて作品に親しみやすくする。(後略)」

なるほどえっ
人とはちょっと違う観察力、観察点。
この観察から得られたきめ細やかな生活の描写が親近感を生んでいるのかもしれません。

例えば、

「(前略)夫人は小さなハンドバッグからハンカチを取り出して目をぬぐい、そのままそのままハンカチを口元に押し当てて、じっと目を閉じていた。」

という一節。
子供のことを想い、家族の人間関係を心配する女性の1シーン。
なんのことはない文なのですが、なんだかその情景が目の前に展開されていくような親近感があって、個人的に気になった一文です。



上巻では主人公、警察などバラバラに展開されていたストーリーが、下巻では次第に1本にまとまっていきます。

クロスファイア(下) (光文社文庫)/光文社

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そう書くとミステリものでは一般的で陳腐な展開のように聞こえるかもしれません耳
でも、上下巻計800ページという比較的ゆったりとした流れの中で、ジックリと展開されるペースが、その展開を陳腐に感じさせません。
性急さもなく、緩徐でもない、心地いいスピード感で話が進んでいきます。

そして全ての登場人物が交錯してエンディング。
女性作家ならではの超能力ものです。