福島原発事故を経験しても、「国民に安全で安心で安価な電力供給」の大命題を反故にして、「原発の再稼動ありき、電力会社の存続ありき」で電力改革を推し進めたい原子力ムラ議員が自民党にはいるようである。

政府案は、「2015年を目処に電力需給を広域調整する機関を設立、2016年を目処に小売り参入を全面自由化、2018年~2020年を目処に発送電分離」をまとめた法案を2015年に提出するであった。
[3月29日 時事通信]電力改革案を了承=東電経営安定化など条件 自民
自民党は29日の総務会で、2018~20年をめどに、電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」と電気料金の全面自由化を実施する電力改革の政府方針案を了承した。

ただ、党内の慎重派に配慮し、(1)電力の安定供給に必要な措置を講じる(2)東京電力が経営安定化を図れるよう政府として検討する(3)安全性を確認した原発の再稼働に努力する(4)原発依存度を含む電源構成の議論との整合性を取る を改革推進の「条件」とする決議文を添付。同日中に政府に申し入れる。

政府は来週にも、改革方針案を閣議決定する。その後、改革の第1段階として、全国規模で電力の需給調整をする「広域系統運用機関」の設置を盛り込んだ電気事業法の改正案を与党に提示し、今国会への提出を目指す。

自民党は、政府案の「法案を2015年通常国会に提出する」を「法案を2015年通常国会に提出を目指す」として努力目標に後退させたのである。

さらに、下記の「電力改革推進の「条件」とする決議文」まで添付したのである。

●電力改革推進の「条件」とする決議文
(1)電力の安定供給に必要な措置を講じる
(2)東京電力が経営安定化を図れるよう政府として検討する
(3)安全性を確認した原発の再稼働に努力する
(4)原発依存度を含む電源構成の議論との整合性を取る

これは「電力会社が存続すれば電力が安定供給できる」「原発が再稼動すれば電力が安定供給できる」との原発事故以前の原発安全神話に基づく発想である。

福島原発事故を経験したことにより国民が気づいたのは、原発が高リスクであったこと、原発が高コストであったこと、電力供給は十分だったことである。

電力料金が高い理由は、料金上限方式でなく総括原価方式を採用して電力会社の儲かる電気料金を算定できるからであり、電力自由化しても発送電分離をせず電力会社の都合で送電利用料金が高く設定できるからである。

将来的に原発からの決別を目指さなければ、原発維持費・核燃料処理費・廃炉費用などレガシーコストが雪だるま式に増え続ける結果を招くのである。

そして、現実問題として東京電力は電力供給が十分であるのに、原発を廃炉にせず再稼動しなければ経営危機になるという自己矛盾を曝け出す結果となった。

[3月29日 東京新聞]東電 節電要請 原発なしで回避へ
東京電力は二十八日、二〇一三年度の電力需給見通しを発表した。今夏の最大供給力は、新たに石炭火力発電所二基が加わり、最大需要を大きく上回る見通し。昨夏に続いて原発なしでも、数値目標を掲げた節電要請は回避できる見込みだ。今夏の最大需要は、企業の生産が増えるなどして、昨夏の四千九百十一万キロワットをやや上回る四千九百八十二万キロワットと予想。一方、供給力は、原発の再稼働時期が分からないため、「未定」とした。

ただ、原発が動いていなかった昨夏の供給力は、渇水による水力発電の減少で想定を三百万キロワット程度下回ったが、最大で五千四百五十三万キロワットを確保。数値目標を定めない節電要請にとどめた。さらに今年は、四月から広野火力6号機(福島県)と常陸那珂火力2号機(茨城県)の試運転が始まり、計百六十万キロワットが加わる。震災後に一時的に設置した小さな発電機四十四万キロワット分を廃止するものの、水力発電が平年並みに稼働すれば、単純計算で五千八百万キロワット以上の電力を確保できる見通しだ。

一方、同社は収支改善のため、停止中の柏崎刈羽原発(新潟県)の早期再稼働を主張。しかし、原子力規制委員会が規制基準を決めるのは七月以降で、新潟県の理解も得られていない。再稼働が遅れると、火力発電の燃料費負担が膨らみ再値上げが必要になるとの見方もあるが、同社は「昨年値上げしたばかりなので現時点で言及できる状況ではない」としている。

遂に、東京電力は福島原発事故2年で原発ゼロの電力供給を実現できたのである。
原発を稼動することなく節電要請することなく全シーズンを乗り切れるのである。

おそらく、電力供給量の30%を原発で占める東京電力が2年で原発ゼロの電力供給体制を確立できたことは、他の電力会社でも実現できることを示している。

たとえ、電力供給量の50%を原発で占めて原発依存度の最も高い関西電力でさえ、4年あれば十分に原発ゼロの電力供給体制を確立できるということである。

やはり、電力会社と既存メディアの「電力ナイナイ詐欺」も数年しか通用しない。

参考記事:産経新聞が「発送電分離を先送りして原発を再稼動しろ」、電力ナイナイ詐欺で狼少年に

しかし、原発ゼロの電力供給体制を確立できたことでネックとなるのが、総括原価方式の電力料金の算出方法で都合が良かった原発の取り扱いである。

原発は他電源に比べて維持コストが高く、電力の稼動費用を高く見積もれば見積もるほど利益が大きくなる総括原価方式では好都合な電源だったのである。

原発が50基もある理由も、原発が電力会社の「打ち出の小槌」だった証である。

もし原発を電力供給が十分という理由で廃炉にすれば、電力の稼動費用が低下する一方でそれ以外の費用が上昇して採算が合わなく経営危機になるのである。

このことは、現行制度で原発を廃炉にすれば電力会社が破綻することを意味する。

その結果、電力会社は原発ゼロで電力の安定供給を確立できても、原発を廃炉にすれば電気料金を安くできても、原発の再稼働を主張せざるを得ないのである。

つまり、どんな理由でも原発を廃炉できない制度欠陥を晒したということである。

その結果、東京電力は原発ゼロで電力の安定供給を確立しても、福島第一原発5、6号機と福島第二原発1~4号機の廃炉を計画することができないのである。

現状では、火力発電の燃料費高騰の影響から電気料金の値上げ、原発の再稼動が遅れて発電コストの影響から電力会社の経営悪化という理屈が通用している。

しかし、これらの理由も「電力ナイナイ詐欺」と同様に数年しか通用しない「燃料タカイタカイ詐欺、再稼動シロシロ詐欺」という結果となるのである。

福島原発事故以前をピークに節電意識の高まりと省エネ家電の普及から年々電気使用量が減少しており、燃料の輸入がこれ以上増えることがないからである。

福島原発以外の原発で安全性の理由から全国で1基でも廃炉が決定すれば、電力会社が経営危機となり原発のコスト高だった実態が明らかになるからである。

おそらくシナリオは、原発維持のまま電力自由化と発送電分離で電力会社を経営破綻させるか、原発をゼロにして廃炉事業を国有化するかしかないだろう。

原発ありきでは電力会社が破綻して電力会社ありきでは原発廃炉となるのである。
しかも、どちらのパターンでも最終的には原発が廃炉となることに変わりはない。

つまり、原子力ムラは電力自由化と発送電分離で解体されることになるのである。
原子力ムラは、無駄な抵抗を止めてソフトランディングの手段を選ぶべきである。



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