映画「この世界の片隅に 」、観てきた衝撃。 | スガ シカオ オフィシャルブログ コノユビトマレ Powered by Ameba

映画「この世界の片隅に 」、観てきた衝撃。


「シン・ゴジラ」「君の名は。」と、自分的にも邦画のメガヒットが続いた2016。最後の最後にまたとてつもない映画を観てしまった。


『この世界の片隅に』、仲間のアーティスト達(結構ひねくれものが多い)が次々と映画館に行っては猛烈にヤラれて帰ってくる様を見て、これは行かねばならん・・・と確信した。

すごかった、文句のつけようがない素晴らしい映画でした。
ドラマチックなセンチメンタルや大ドンデン返しなどはもちろんないです。終戦が近づくにつれ、いろいろなものが追い詰められていく切迫感はあるものの、主人公すずのキャラも相まって、全体としては牧歌的な印象のほうが強いかな。

主人公すずの声を演じる能年玲奈さんの演技力が圧倒的で素晴らしく、物語に深みと幅と明るさを添えて行きます。
思えば能年さんもすずと同じような『大切なものを失った』境遇でもありますし、そういう意味で重なる部分が多いのか、実に迫真の演技でした。彼女の話す広島弁って素敵、愛おしくなってしまうよね・・・しばらく耳から離れませんでした。

終わった後は『あぁ、もう終わってしまった』って思うんだけど、1時間後、2時間後・・・物語のメッセージがどんどん体の中で膨らんでいき、劇場を出て何時間もしてから涙がボロボロこぼれてきてしまいます。そんな映画でした。

この映画は反戦映画ではないと思う、描かれているのは『生きていくこと』。
映画自体、そうゆう深いメッセージを持ってはいるんだけど、それ以外に何かが映画を突き動かしてるのを感じました。
脚本、方言、風習、景色、感情、食物、衣服・・・徹底的に70年前の時代感や状況、環境が調べ上げられていて、アニメなのに怖いくらいのリアルさと説得力。本当にこんなことあったの?なんて、冗談でも言えないようなすごい現実感。
なんでも「あの戦艦が呉の港に入った時、呉がどんな天気だったか」とかまで全部調べて、それぞれシーンを作ったんだとか・・・。

クラウドファンディングによる制作資金集めにしても、こういった演出ひとつにしても、監督のなにか執念というか気迫みたいなものが、大きな一つの力になっているような気がしたのです。



小説でも映画でも音楽でも、いい作品の裏には『闘志』がある。
絶対にやってやるっていう闘志は、物語そのものには現れにくいけど、間違いなく触れた人の心を動かす。こんな時代だからこそ、こういった闘志みなぎる作品が勝ち抜くのだと思うし、そうであることがとても嬉しい。

自分でもこうやって誰かにリコメンドする時、嘘の言葉ではとても語れない。適当にはオススメできない。
素晴らしい作品って、そうゆうもんだと痛感いたしました。


全国拡大上映中! 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト http://konosekai.jp/

【ここからネタバレです】
一人一人家族が失われ、知り合いが戦死し・・・戦争というとんでもない非日常にだんだん慣れて、まるでそれが自然なコトのように思えてくる。
映画を観ている観客も含めて、時間が経つにつれ本当にそう思えてくるから不思議だ。

日常がいつの間にかねじ曲がっていき、知らない間にそれに慣れてしまう、それが本当に怖かったです。


物語の終盤、主人公すずははるみと大切な自分の右手を失ってしまいます。すずは右手ではるみと手をつないでいたのですが、「反対の手でつないでいれば、こんなことにはならなかった」と泣いて過去を後悔します。

そして8月6日広島の原爆投下の後、すずたちが出会ったまだ幼い孤児。原爆投下の際、母親が彼女とつないでいたのが、すずとは逆の左手なんですね。爆発によるガラスや破片などは、右側に位置していた母に刺さり、彼女は奇跡的に生き伸びることができた。
そして彼女はすずたちの家族として、新しい生活を手に入れることができたのです。

この右手と左手が、物語の中に出てくる周作の言葉「過ぎた事、選ばんかった道、みな、覚めた夢とかわりやせんな。」にリンクしていくのですが、このメッセージがとてつもなく重く響きました。

劇中のコトリンゴさんの音楽も、一切シーンを妨げることなく、それでいてしっかり伝わる素晴らしい音楽でした。

なんか、今年の邦画は豊作でしたねー。