きのう何食べた? 知るか! そんなことより金返せ! 未完成の食卓(2) | しちにんブログのブログ

きのう何食べた? 知るか! そんなことより金返せ! 未完成の食卓(2)

タイトルなんて飾りです。

どうも、お世話様。みなさん。

 

突然ですが。

みなさん、和食ってお好きですかね。

なんか、無形文化遺産に登録されたとか。

私は……長らく、「こんなもん、なくなっちまえばいい」って、思ってました。

 

中でも、根菜類。それも里芋。

泥のにおいが強く、噛むたびに畑が口中を吹き抜けていくような

食べ物を、よくみんな食べるよなぁ、と。

 

我が田舎には、根菜の煮物で「おおひら」と呼ばれる料理があるのですが。

これが実に「The、根菜!」というにおいに包まれ、給食で出た時は(当時は残すこと

まかりならず)、鼻をつまんで呑み込んでいたものです。

里芋はともかく、蓮は固いんで、そのまま呑み込むわけにもいかず、二三回噛んで

ようやく嚥下するといったありさま。

 

成長し、だいぶ根菜の泥くささになれた今でも、里芋だけはまだニガテであります。

多分、自分は日本人ではないのかも、とか、思ったり。

 

そんな、自分ですが。

 

「筑前煮」

 

この煮物を知ってから、里芋も蓮も、おいしく食べられるようになりました。

 

根菜は、油と相性がよかったのです。

このことを教えてくれたのは、筑前煮より先に、豚汁でした。

 

豚の脂と強い旨みで、根菜が化ける。あの土臭さが、力強い味に

支えられて、むしろ風味として友好的に機能している。

衝撃でした。

爾来、私は根菜を油で炒めまくることで、積極的に摂れるようになり。

豚汁、筑前煮は、私の中で根菜をおいしくする魔法のメニューとして、

長らく君臨することになります。

 

……が。

 

それでも、自炊をする際、積極的に「筑前煮」を選ぶほどには、つまり、

「大好きだ!」と積極的好意を公言出来るほどには、至りませんでした。

 

あの、レシピに出会うまでは。

 

私にとっての、筑前煮の未完成な部分。

それはやはり、「土くささ」でした。

 

私は(最近では、すっかり「バカ舌」のレッテルを貼られる悪癖ではありますが)、

濃い味好きを自認しております。

私がここで呼ばわっている「未完成」なる部分は、他の方にとっては「完成形」で

あるかも知れず、一概に言えるものではないかも知れません。

……と、いうより。

料理というのはつまるところ、「一般的なレシピ」から、どれだけ自分の好みに

寄せられるか、という飽くなき戦いである、と私は自認しておりまして。

で、それこそが自炊の醍醐味である、と思っているので、まぁですから、

私の好みが他の誰かに合わないのは、これはある種当たり前であると

言わざるを得ません。

 

やや話が逸れました。

筑前煮は、うまいはうまいのですが、一般的なレシピで作ると、なぜか豚汁の

ようにはいかず、根菜の土っぽさに味が負けてしまっており。

どうしても、これをおかずにごはんをもりもり食べる、という料理には至らない、何か

障壁を感じていたのです。

おそらく、豚汁は汁物なので、根菜の香りはかなり薄まりますが、筑前煮は、

具材をそのまま食べる料理であり、汁は煮物特有に濃縮されている。

このあたりが、その理由かと思われます。

 

で。

長らく、濃い味好きの私は、ただ

「味付けを濃くして、根菜のにおいをマスキングしてしまおう」

とだけ考え、ずっと濃い目の味付けで筑前煮を作ってまいりました。

 

しかし。

単に砂糖醤油味を濃くしただけだと、あるレベルから土の香りと

醤油がマジ喧嘩を始め、非常に食味が辛くなるのです。

 

なので、醤油と土が喧嘩しない、ぎりぎりの線をつく。これが、私の筑前煮レシピ

として、長らく君臨してました。

(……人に出したところ、「うまいけど……食ってて疲れるな」という評価でしたがw

その人にとっては、醤油味と土くささがマジ喧嘩してたんでしょうな……)

 

しかし。

その考え方は、(当たり前ですが)間違っていたのです。

 

よしながふみ「きのう何食べた?」 4巻

このレシピに出会い、私の「筑前煮」感は、一変したのです。

 

さて。

どこがそんなに違うのか?

それを、これから見ていきましょう。

 

まず、一般的な筑前煮の作り方ですが……これは、ぐっさんと江角マキコが出てた

「笑顔がごちそう ウチゴハン」の、笠原先生レシピを参考と致しましょう。

 

・材料の野菜類を、米を入れて下ゆでする

・一口大に切った鶏肉を、焼き目がつくまでフライパンで焼く。

・だし10、醤油1、みりん1の割合でつゆを混合し、砂糖大さじ1を加えて、材料を煮る。

 

ざっと、こんな感じです。

野菜類の下ゆで、という点が、一番のポイントかと思います。

味が、これでよく染みるようになるそうです。

 

私は野菜類の下ゆでは、めんどくさいのでしませんでした。

(このへんにも、土くささが勝っていた原因があるようです)

こないだ、ためしに下ゆでしてみたところ、実際かなり土くささが軽減され、

味の染みもよくなっていたのは驚きでした。笠原先生、恐るべし。

ただ、それでも、やはり物足りなさは残ります。薄まったとはいえ、

根菜独特の香りは、まだ煮物として食欲を(ほんの少しだけ)減衰したまま、

残っておりました。

 

……じゃぁ、もう根菜を食うなよ、って話なんですが。

でもね。

これから和食文化は世界に発信するわけでしょ?

日本人以外だれも食わないような食い物を発信したって、しょうがないわけですよ。

だれもが食えるレシピ。これを考えていかないと。中華料理のように。

 

私の筑前煮の理想。つまりは、完成形

それは、あの「豚汁」のように、

「根菜の土くささを、むしろ食欲を増進させる相乗効果としたい」

これです。

 

そして、この方法を発見させてくれたレシピこそ、「きのう何食べた?(※以下、何食べ)

のレシピだったのです。

 

あ、誤解を招きそうなので注釈を入れさせて頂きますが、これは笠原先生レシピが

何食べレシピに劣っている、という意味では毛頭ありません。

笠原先生レシピは、私も大好きで、他の料理についても、よく利用させて頂いてます。

 

ただ、笠原先生の筑前煮レシピは、あくまでも

「根菜が好きで、よく食べる」

「土のにおいは、むしろごちそう」

と捉えられる人たちのためのレシピであると考えるのです。

何食べレシピより、味が薄めに出来上がるようです。このへんもプラスと

考える人が多いかも知れません。

根菜の土くささに、ほんの少し不満のある人にこそ、「何食べ」レシピを試して欲しい。

 

では、「何食べ」レシピのポイントをば。

笠原先生レシピと違う点は、4つ。

 

・野菜は下ゆでしない

・鶏肉は、炒めた後、「砂糖大さじ2 醤油大さじ2」のタレに漬けておく

・具材の炒め合わせに「ごま油」を使う

・しょうがのみじん切りを加える

 

鶏肉を漬けてるタレは、具材を煮る時点でいっしょにぶち込みます。

笠原先生レシピにあった「砂糖大さじ1」も、あとから煮汁に加えているので、

結果として、「砂糖大さじ3」が入ることになり。

まして、味付けに醤油でなく「めんつゆ」を使っているので、笠原先生レシピより

相当甘めに仕上がります(めんつゆには、本来かなり甘みがついています)。

 

この何食べレシピで作った筑前煮を、初めて食した時。

ぶっとびました。

 

「根菜の土くささが、気にならない! むしろ、土くささ、あっていい!」

 

まさに、「根菜の土くささを、むしろ食欲を増進させる相乗効果として調理したい」

という、私の理想とする筑前煮だったのです。

 

料理の味付けには、必ずその調理人独自の根拠が存在します。

笠原レシピは、野菜を下ゆでしたことで、根菜の土くささが減衰されている。

そのため、甘さを控えめにすることで、ほんのりした味付けでも映える。

 

対して何食べレシピは、言うなれば男の時短レシピなので、下ゆでをさぼるために

土由来の味わいは根菜に力強く残る。そのために甘みを強くして、根菜の持つ

「土由来のくさみ、えぐみ」を隠す。

 

また、「ごま油」を使うことで、根菜の力強い香りに負けない香りをつける。

しょうがも、この香りづけの効果に一役買っております。

 

それぞれの思惑が、料理の味付けにみごとに反映されております。

 

何食べレシピの、

「甘みが根菜のえぐみを隠す」点。

「味付けの濃さより、香り付けのごま油としょうがで、土くささをうまみに変える」点。

さらに、細かいですが、

「焼いた鶏肉を甘ダレに漬けることで、鶏肉の味わいが力強くなり、同じく力強い

風味を持つ根菜と、みごとに渡り合える」点。

 

以上3点が、私の「土くささへの忌避」に、びんびんにヒットしたのです。


つまり。

私のレシピの至らなかった点は、

「砂糖醤油の味付けの強さだけで、根菜の力強さに渡り合おう」

と考えたところにあったようです。

根菜の力強さに対抗し、これをも力に変えるためには、油の香り、しょうがという

別の香り、そして、一緒に煮込む肉の味の旨み。その全てを高めてやらなければ

ならなかったのです。

 

土くささを抑えるどころか、びんびんに立ててなお、旨みを引き上げる

味付けポイント。

改めて、まとめます。以下の3つであります。

 

・「甘みを強くし、根菜のえぐみを隠す!」

・「ごま油、しょうがを使い、根菜の土の香りとは別の、食欲をそそる香り付けをする!」

そして、

・「鶏肉を甘ダレに漬け、肉自体の旨みを底上げし、根菜に負けない味わいを作る!」

 

……ならば。というわけで。

下衆な私は、上記3つを踏襲し、今では何食べレシピをさらに自分なりに「改良(改悪?)」し。

さらにさらに「ゲスい」食べ物として、筑前煮を作っておりますです。ええ。

 

いいんです。

料理というのはつまるところ、

「一般的なレシピから、どれだけ自分の好みに寄せられるか、という

飽くなき戦いである!」

のですから。そして、それこそが

「自炊の醍醐味である!」

のですから。(言い訳!)

 

では、私の、

「未完成料理の、完成レシピ その2 『筑前煮』」

披露します!

 

・鶏肉を、生の状態から、「醤油大さじ2、砂糖大さじ2、酒大さじ2、ごま油少々、

しょうがすりおろし少々」の甘ダレに漬けておく

・熱したフライパンにごま油少々とサラダ油を混合して入れ、ゴボウとレンコンを加えて

がんがんに炒めておく

・ここへ、先ほどのタレ漬け鶏肉をタレごとぶちこみ、続けてがんがん炒める

・焦げないうちにだし汁を入れ、砂糖大さじ1、酒、みりん、めんつゆをぶち込んで、

さらにダシの素を入れる

・他の野菜、こんにゃくなどを加える

・沸騰したら、アクと一緒に、浮いた油を取ってしまう。取ったら、落としぶた代わりの

アルミホイルをかぶせ、煮込む。

・つゆが飛んで、タレ状になってきたら完成!

 

まぁ、その旨みの濃いこと、濃いこと。

根菜の土くささならず、えぐみも多少感じますが、それに対するごま油の香り、

鶏肉の旨み、砂糖のダイレクトな甘みが、根菜のそれとぶつからず、

相乗効果を発揮し、旨みへと変えてしまっている。

 

自画自賛で恐縮ではありますが……これは、「旨い」です。

 

自炊の醍醐味。それは、自分だけが追求出来る、旨みへの道。

是非。その楽しさを味わってみてください。

ええ。なにも、この筑前煮でなくていいのです。

 

カレーでも。もつ煮でも。スープでも。

追求出来る「料理」は、そこかしこに存在しているのですから。