ちょっと前になるけれど、NHKで「不妊社会」という特集を組んでいた。

子供が欲しいけれどなかなかできない人たちが増えているという現状。

卵子が老化するということ。

不妊治療は肉体的にも経済的にも大変だということ、など、いろいろな側面で取材していて、女性が子供を産むということについて、もっともっと若いころから真剣に考えることが必要ではないか、という結論に終わった。

ところで、番組のなかで、不妊治療を続けるために仕事をやめた女性が登場した。

あるいは、仕事か不妊治療かで悩む女性たちの話題も出た。

不妊治療は生理のサイクルに合わせることもあり、なかなか予定が組めず、仕事と両立がたいへんなのだそうだ。

やむなく仕事を辞めた、という女性が登場して、苦渋の選択について語っていた。

不妊治療に関わらず、妊娠・出産という大事業を抱えた女性たちの多くは「仕事との両立」に悩むこととなることは言うまでもない。

でも、なぜ、悩むのだろう?

この番組を見て思ったことのひとつは、番組の視点(と登場する女性たち)はあまりにも自分中心であり、たとえば経営者の側の意見もまるで教科書的に「応援します」みたいなものがあった程度だった。

でも、日本の企業の97%は中小企業だ。

中小企業の経営者にとって、不妊治療であろうが、妊娠出産であろうが、休んでばかりいる社員がいては困るし、はっきりいって「給料の保障」などをしていては会社の存続にもかかわるのではないだろうか。

「ワークライフバランスだのファミリーサポートだのというのは大企業のことであって、中小企業はそんなことを言ってられねーよ」という意見を、いまの時代におおっぴらに言うことはタブーなのだろうか。そんなことはないと思う。
中小企業経営者ははっきりと「女性は、やんごとなき事情があったら辞めてください」と言うべきだ。

もっとも、そんなことは公にすることではなく、水面下では当然のごとく、そうなっている。

私の知るある零細企業(社員は5人しかいない)では、敏腕社員だった女性が3人めのお子さんを妊娠して、1年半の休暇となった。とはいえ、事実上は解雇だ。
会社都合の解雇だから、失業保険が出る。
1年半したら彼女はたぶんハローワークに行って、同じ会社に再雇用されることになるのだと思う。そうでもしなければ、中小企業はやっていけない。「再雇用」が口約束にならないように、求職中はアルバイトでたまに仕事をやるのだそうだ。

一方、「会社を辞める」ことに不安を感じる、あるいは悩むのはなぜだろう、ということも考えてみる。

私は、安定雇用の経験が乏しいので、同じ会社に勤めることや、そのなかで昇進していくことはよくわからない。
でも、フリーランスで仕事をしていても、見えないキャリア・ステップアップはあって、20代の私はとてもとても口には出せないくらい悩んだ。
私の場合は、「自分ではできる」と思っていても、社会的に評価されないということのジレンマだったが、幸か不幸か、会社員ではないので、すべてが自分の責任であり、自己努力でしか解決されないことであると理解するしかなかったので、「ここでこの仕事がなくなったら」という不安は社員の人ほどではないかもしれない。。
それでも、レギュラーの仕事は不安定だったし、レギュラーであってもそのなかでよりよい仕事をするためには身を粉にして働いた。

結婚したり、子供を作るチャンスもあったはずだけれど、結局、そんなことを考えるより、仕事ばかりして年を重ねてしまった。
卵子が老化するなんていうことよりもなによりも、「子供は産めば育つ」ということを知ったのは、妹が生んだ赤ちゃんが高校生になって始めてわかったことだ。

そうなのだ。
「赤ちゃんは、産んだらかならず育つ」

テレビ番組のなかで、会社を辞めて不妊治療をして子供を授かった女性は、会社を辞めたことをぐちぐちとずっと引きずっているようだったが、子供が育っていく喜びは会社で他人に仕えることなどとは比べようもなく楽しいことなのではないだろうか?
あとになって、「あのとき、仕事を優先して不妊治療をやめなくてよかった」と思った女性がいるのではないか。

仕事のキャリアにしがみつく理由はなんなのだろうか。

理由の多くは「辞めてしまったら同じようなポジションや、同じような待遇の仕事につけない」ということではないだろうか。

当然だと思う。

世の中には、寝る間も惜しんで仕事をしている人がたくさんいるなかで、「子供がいるから」(あるいは「不妊治療するから」)という理由で半分しか仕事ができなかったら、待遇やポジションが変わるのは仕方ないと思う。

でも、そうした経験は、きっといまの仕事なんかよりもずっとずっと重要だし、タメになることだと思う。

週刊誌の情報によると記子様がPTAの役員に立候補されたという。
PTA経験者の妹や友人たちによると、PTAではいろいろなことが学べるという。
子供たちの情報もわかるし、先生のこともわかる。なにより親たちのネットワークができる。
子育て経験を「きちんと」したお母さんたちは、裁縫もできるし、お弁当づくりも上手だし、イベントを仕切ったり、会議をまとめたりすることも上手だ。

そのスキルこそ「ソーシャル・スキル」そのものなんじゃないか、と思う。

先日の都議会選では、各党がハンで押したように「保育園の充実」と叫んでいたが、
なぜ保育園に入れなければいけないか。
「生活苦から働かざるを得ない、という人が多くなっている」と、W-SOHO(女性の在宅ワーク支援サイト)をまとめるKさんが言っていた。

以前は、自己実現や、夢をかなえるということから起業したいと思う女性たちが多かったが、
最近は「生活のため」子供を預けてパートに出ることも少なくないという。

もしそうであれば、保育園もさることながら、養育費や専業主婦に対する手当を手厚くすることが大切になるのではないか。


「専業主婦になると社会から取り残された気がする」ということも聞いたことがある。

確かに、家にいて、1日中誰とも会わず、誰とも話すことがないときなど、フリーで仕事をしていればしばしばあることだけれど、それが毎日でれば自分の存在意義とか、悩む気持ちもわからなくもない。

でも、忘れちゃいけないことは、「子供がいるかどうか」っていうことだ。

子供がいるっていうことは、女性にとっての最大のキャリアであり、スキルであるってことだ。

そのことを、子供がいる人たちはもっともっと言ってほしいと思うし、
これから子供を産む人たちは自信をもって、子供を産んでほしいと思う。



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