1分で読めるショートショート&ショートストーリー 『エキストラ人生』 -1034ページ目

ヤンキー

2030年、ついにヤンキーが
“国の天然記念物”に指定された。

 

世界的にも注目されていた問題とあり、
今夜のニュースは、どこもトップ扱いだ。

 

それによると、
現在観測されている天然のヤンキーは、全国で25名。

 

主に西日本を中心に生息しているらしいが、
夜行性で、日中は人目に触れないだけに、
一般人が捕獲することは非常に難しいらしい。

 

「昔は、コンビニ前に大勢いたんだけどね。

今は、捕獲すれば賞金付きの存在になってしもた」。

 

テレビを見ていたバアちゃんは、
70年代のヤンキーの映像を見て、懐かしそうに目を細めた。

 

“長ラン”と呼ばれる不自然なまでに丈の長い制服、
その全面に縫い付けられてある『夜露死苦』
『薔薇連合4代目レディース』などという、不可解なメッセージ。

 

ガッチガチのリーゼント頭に、
昆虫にしか見えない楕円型のサングラス…。

 

テレビに映る映像のどれもが、
ボクにとってはカルチャーショック、そのものだった。

 

日本に、まさかこんなダサすぎな時代があったなんて。

 

まだ、戦時中の慎ましい暮らしを見せられた方が、
なんとなく事実として捉えられる気がする。

 

「バイクがうるさいだの秩序が乱れるだのって
世間が騒ぐから、みーんないなくっちゃったんだよ」

 

おばあちゃんの時代には、
ヤンキーが校内中にもウジャウジャいたらしい。

 

ウンコ座りで、タバコ吸い放題。

グランドでは、毎日、改造車のチキンレースが行われていたそうだ。

 

現代では考えられない、
なんともエキサイティングな青春。

 

「昔はワルはワル、マジメはマジメ。

その線引きがキッチリ分かれてて、お互い生息しやすかったもんさ。

逆に、今は違いがないから怖いよ」

 

ヤンキーが絶滅寸前になった最大の原因は、
ヤンキーに憧れる若者がいなくなったからだと、テレビの評論家は力説していた。

 

彼らに憧れるほど、
世間に反骨精神を持っている若者が、いなくなったということだと。

 

世の中、平和になったもんだな。

 

確かに、トサカを立てたり
裾広がりの制服を着てまでして世間に楯つくなんて、
現代を生きるボクらにはあり得ない。

 

かっこ悪すぎる。

 

ちなみにボクの周りは、友達も彼女も、
それ以外の人たちも、外見はみんな似たり寄ったり。

 

バアちゃんの言う「違いがない」という言葉も、
うなずけるような気持ちがした。

 

外からの見分けがつかない分、中身の見当もつかない。
怖いと言えば、怖い世の中。

 

誰がいつキレるかなんて、仲間うちでも分からないから、
ボクは、あからさまに自分を出さないようにしている。

 

周りも、ボクに対してそんな態度。
それがもう、自然なのだ。

 

テレビを見入っていると、
「おや、時間だね」。

 

バアちゃんは時計にチラリと目をやり、
どこかへ消えていってしまった。

 

バアちゃんの家は広いので、突然一人にされると無性に寂しい。

 

「どこに行ったんだろう」
キョロキョロしていると、10分ちょいでまた戻ってきた。

 

そして、戻ってきたバアちゃんの姿に、
ボクはがく然としてしまった。

 

今まさにテレビで見ていた、
70年代ヤンキーそのものの姿に、変身していたのである。

 

「お前が急に『泊まりに来る』なんて言うから…。

まあ、バレても仕方がないね」

 

バアちゃんの学ランには、紫の龍が4匹も踊っていた。

 

「ヤンキーだったの?」
恐る恐る聞いてみる。

 

「やだねぇ、現役だよ。これから集会に行ってくるワ」

 

まさか、25人の中の1人がこんな近くにいるなんて。

 

聞けば、集会には、
バアちゃんの他に、あと2人が毎回参加するらしい。

 

それって、単なる老人会じゃないのか?

 

…しかし、考えようによってはオイシイ話だよな。
捕獲すれば、懸賞金は1人につき500万か。

 

バアちゃんと仲間たちを警察に売れば、
いい値にはなるハズ。

 

バアちゃんは、そんなボクの心を見透かすように、
竹刀でペシッと頭をはたいた。

 

「まったく、平和なんてそうそう来ないもんだワ」。