同人シンデレラ ~第1夜~ | 酒とアニメの日々(鯱雄のオフィシャルブログ)

【解説】lこの物語は筆者の個人Webで2002年から連載していた物語です。全17回。



今よりちょっとだけ昔のこと。
文化と芸術の王都有明の遥か東北にあるアーツという地方都市にシンデレラという女の子が住んでいました。
シンデラは今年で16歳になりますが、同年齢の平均よりは明らかに背丈が足りていないため、より幼い印象がありました。

シンデレラには両親と2人の姉がいました。
父親は貿易商の役員で、かなりの収入があるものの仕事が忙しいため、家にいることは滅多にありません。
母親は、実は継母で、シンデレラを生んだ母はシンデレラが 10歳のときに流行り病で天に召されました。
また、2人の姉も継母の連れ子でした。

継母が来たのは3年前のことです。
継母は没落した皇族の出身で、わがままで派手なことが大好き。
さらに2人の義姉も継母の影響でこれまた派手なことが大好き。
3人は普段からきらびやかなドレスに身をつつみ、夜な夜なパーティを繰り広げたため、それまでこじんまりとした屋敷内は1ヶ月にしてきらびやかな不夜城に様変わりしてしまいました。

しかし継母は、シンデレラにはボロの服を着せてパーティにも参加させず、炊事洗濯掃除といった家事全般を押しつました。
シンデレラは自分が告げ口をして、もしそれが原因で両親の仲が悪くなってしまうことを考えると逆らうこともできず、継母の言うがままにつらい仕事を引き受けました。

そんなシンデレラでも、どうしても連れて行ってほしいところがありました。
毎年お盆の頃と年末に2~3日づつ、継母と義姉の3人は決まっていつもよりきらびやかな衣装を着てお城の舞踏会に行きます。
このときばかりはシンデレラも行きたいとせがみましたが、ドレスも持っていない小汚い娘を連れて行くことはできないと継母に軽くあしらわれ、お城の舞踏会に行きたいという思いが溜まっていきました。




月日は流れ、11月のある日のこと。
継母と義姉の3人はお城の舞踏会の1ヶ月くらい前になると必ず行う儀式をしていました。
「ちょっと、このページ、さっさとペン入れしてよ。
トーン貼れないじゃない。」
「姉さんの下書きが雑だから実線がわからないのよ!
文句ならちゃんと下書きしてからにしてよ!」
それは世にいうコミケ合わせの入稿前の修羅場でした。

たまらず、継母が仲裁に入りました。
「お前たち、ケンカしてないで手を動かしなさい!
今回のスケジュールはかなりヤバイのよ!わかってるの!!」
「でもーペン入れが」
「そうだ。『猫の手も借りたい』ってよく言うけど、うちには猫よりちょっとだけマシなのがいるじゃない。」

下の姉は会心の笑みでシンデレラを連れてきました。
「あんたに、ちょっとやってほしいことがあるの。
もちろんイヤとは言わないわよね。」
「そんな初心者にまかせるって言うの?
しかもどう見ても器用そうには見えないけど…」
「まぁでも他に手段もないし、試しにやらせてみてたらいいじゃない。
ドライヤーかけでも消しゴムかけでも、この際だから背に腹は変えられないでしょ。」

継母に諭され、上の義姉はしぶしぶと承諾して、シンデレラにインクが乾いていない原稿とドライヤーを渡しました。
「いいこと、もしも原稿を汚したり破いたりしたらただじゃおかないわよ!」
「あ、あの、私・・・」
「シンデレラ、あんたイヤなの!?」
シンデレラは今にも泣き出しそうな表情になりました。
「もし手伝ってくれたら、今度連れてってあげようと思ったんだけどなー。
あんたが行きたがってたお城の舞踏会に。」

下の義姉の言葉に、継母と上の義姉が瞬時に反応して秘密会議(ひそひそ話)を始めました。
「どういうことよ!?参加券は1サークルにつき3枚しか配られないのよ!
あの子の分なんてないわよ!!」
「そうよ、あの子にあげるなら、あなたが代わりに残りなさい。」
「二人ともちょっと待ってよ。
私が本当にあの子を連れて行くと思っているの?」
「!?」
「原稿が出来るまで手伝わせてから難癖をつけて、連れて行く話はなかったことにすればいいのよ。」
秘密会議は満場一致で閉幕しました。
こうしてシンデレラは原稿描きを手伝うことになりました。

数時間後、夜明けと同時に原稿は完成しました。
その影にはドライヤーかけ、消しゴムかけからセリフの写植まで、大車輪の活躍をしたシンデレラの活躍がありました。
しかし、秘密会議での決定事項の通り、シンデレラには難癖の嵐が吹き荒れました。
「なぁに、こんなところに消しゴムのかけ忘れがあるわ。」
「ここのトーンも削り過ぎよ」
「これじゃあ私たちだけでやった方がマシだったわ。」
「そうね、こんなんじゃ舞踏会に連れて行くなんてできないわね。」

シンデレラは泣きそうになりながら訴えました。
「私、一生懸命がんばりました。
お義姉さまたちに言われた通り、ドライヤーかけもしたし、セリフも貼ったし・・・
「何言ってるの!?一生懸命やっても結果が出てないんだからしょうがないじゃない。」
「あんた、お留守番決定。」
「じゃあそういうことだから、あなたはもうあっちいっていいわよ。」
そういって継母たちは、原稿を印刷所に入稿するため出かけていきました。

残されたシンデレラの目から自然と涙がこぼれました。
シンデレラは気が付くと一人で教会の裏にある墓地にいました。
そこにはシンデレラの本当のお母さんのお墓があり、普段は来ないようにしていましたが、本当に辛くてどうしようもないときだけはこっそりと来る場所でした。

シンデレラがお母さんのお墓の所に行くと、驚いたことに、見慣れない上品そうなおばさんがお母さんのお墓に花を添えているところでした。