Byrd Blows On Beacon Hill/Donald Byrd | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 このジャケットは本当に素晴らしい。若々しく、思慮深い表情で真正面を見据えるDonald Byrdと、その後ろに控える仲間たち。Donald Byrdは今月4日に惜しくも他界してしまった。自分とByrdとの出会いはBlue Noteが買収された後の'BN-LA'時代の音盤であった。音楽を身体中で浴びながら、ただ何も考えずに踊りまくっていた10代の頃。そこから遡ったり、さらにByrd周辺の作品を聴くようになって、Bebop~Hard-Bopの真っ只中にいたByrdの作品を知ることになった。Mizell Brothers関係やByrdが教鞭を握ったHoward大学の教え子たちによって結成されたThe Blackbyrdsの心地良い音に夢中になっていた自分はArt BlakeyのThe Jazz MessengersやGigi Gryceとの双頭ComboJazz Lab時代のByedも聴くようになっていった。Clifford Brownの後継者と言われたり、同様に期待された同じThe Jazz Messengers出身のLee Morganと比較されたりするけれど、それはDonald Byrdという音楽家の本質を考えた場合、少々見当違いという気がする。Improviserとして、その即興の一瞬に全てを賭けて燃やし尽くしてしまうタイプではなく、楽曲やサウンド、Arrangements全体を考えて理知的に構築していくタイプである。しかもAfro- AmericanのIdentityとしてのBluesを下敷きに快感原則を重視するStylistという点においてHorace Silverと共通するところがある。かといってSilverのように作曲に光るものがあったわけではないが。Byrdにとって派手なHigh Note連発でテクニックを誇示することよりも、サウンド全体のバランスを考えて中音域温かみのあるトーンで歌心ある旋律を紡ぎ、人々を心地良くさせることの方が重要なのである。それはJazz Labが短期間の活動に終始せざるを得なかった反省によるものからだろう。また、ゴリゴリのBariton Sax奏者Pepper Adamsとの双頭ComboでDuke Pearsonという優れたComposerや若きHancockを擁しても成しえなかったもの。当時Funky Jazz全盛で作曲家、EmotionalなRiff Makerとして天性の才能を持つSilverに敵わなかったByrdはParisで、あのNadia Boulangerに作曲を学び、Zweite Wiener Schule(新ウィーン楽派)のRene Leibowitzに師事して音楽理論を学ぶ。これまでもWayne大学やManhattan School of Musicで音楽理論を学んでいたByrdではあるが、このParisでの経験が大きかった。欧州で自らAfro- AmericanとしてのIdentityを再認識し、BluesやFunky Jazzに対峙することが可能になったのだ。そしてBrydはFunkやSoulも含めた黒人音楽全般に視野を拡げた。それだけではなくColumbia大学に入学して黒人問題公民権運動を学んだ。Blue Note創設以来の売り上げを記録した73年リリースの『Black Byrd』での大成功以降のByrdの作品は軽んじられる傾向があるが、その根底に流れるBluesやFunkは本物なのだ。Byrdの音楽が盛んにSamplingされて現在でも世代や人種を越えて多くの人々にRespectされている事実は、彼らが身体でByrdの音楽を感じて楽しんでいるからに他ならない。

 『Byrd Blows On Beacon Hill』はDonald ByrdTransition56年5月に録音したアルバム。ByrdはTransiionに3枚のアルバムを残しているが、本作が最終作となる。ByrdがまだThe Jazz Messengersに在籍していた時期に録音されている。ベースに盟友でありMessengersの同僚Doug Watkins、ピアノにRay Santisi、ドラムスはJimmy ZitanoのQuartet編成。初めての、そしておそらく唯一のOne Horn Quartet盤である。そしてStandardを中心の6曲中2曲がPiano Trioとなっている。ジャケット同様に全体に漂う落ち着いた雰囲気が最後まで貫かれ、一聴して地味に感じられるかも知れないが、Byrdの瑞々しいTrumpetを味わえるのは嬉しい。あえてワン・ホーン、そして選曲もStandardで、自らのPlayerとしての力量を試してみたかったのだろうか?ジャケットの表情といい、冷静で自己分析に長けたプレイは後のByrdを象徴しているかのようだ。かといって堅苦しくない寛いだ雰囲気はこの頃からByrdが心地良さを最優先していたからだろう。音楽理論を学びにNYに出てきて後にPh.D.を習得するByrdは、当時から構成的美意識を重要視していたと思われる。
アルバム1発目はピアニストJoe Sullivan作の“Little Rock Getaway”。スリリングなHard Bopや真っ黒なBluesではなく、あえてNostalgicなナンバーで若旦那が小唄を歌うような雰囲気が良い。
Balladの“Polka Dots And Moonbeams”では哀調を帯びたByrdの旋律に酔いしれる。
なんとByrd抜きのPiano Trioで“People Will Say We're in Love”。イントロのブロック・コードといい洒脱なSantisiのピアノが楽しめる。
If I Love Again”は小気味良いUp Tempoで、Byrdのフレージングも流れるようだ。MuteされたTrumpetの音色が切れのある演奏と相まって実に心地良い。
ピアノとベースで始まる“What's New”もPiano Trio。Watkinsの歌心溢れるベース・ソロが良い。
ラストを飾るのは艶やかで歯切れ良いByrdのTrumpetが冴える“Stella By Starlight”。
(Hit-C Fiore)