No Flag/Luis Carlos Vinhas | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 もう嫌になってしまうくらいピアノが上手いLuis Carlos VinhasTamba TrioLuiz Ecaも相当なものだけど、Rio de Janeiro生まれのVinhasの強力なタッチと弾き倒しぶりは、ある種、爽快ですらある。Luis Carlos VinhasといえばBossa Trêsが思い浮かぶが、解散後のソロ・アルバムも中々面白いのだ。既にBossa Novaのブームが去りし70年代に気心知れたクラブで、いかにもラテン気質な国民性丸出しのお客さんを前にしての生演奏を録音した、この音盤。演奏テクニックは勿論、メドレー形式で次々と繰り出す名曲をアレンジするスキルの高さは流石だ。元々は、Brazil中の才能あるMusicianが集結した、あの伝説のBeco das Garrafasで腕を磨いてきた男である。こういうお客さんを喜ばせる演奏はお手の物なのだろう。VinhasはSax奏者J.T. Meirelles率いるMeirelles E Os Copa 564年作『O Som』にドラムのDom Um Romaoや、あのCarnegie Hall出演組のPedro PauloManoel Gusmaoといった豪華なメンツとともに参加している。そこで繰り広げられるかなりJazz寄りのJazz SambaもVinhasの俺様タッチが印象に残った。何よりVinhasがEdison Machadoという強烈なドラマーと結成したBossa Trêsでも、やはりVinhasが王様であったのだ。リズムの権化のようなEdison Machadoと決闘してるかのような、VinhasのまるでSambaのCarnivalでのPercussion隊のようなリズム感。Machado在籍時の初期Bossa Trêsでは緊張感ある肉弾戦的な色合いが強かったり。Luiz Bonfaのアルバム『O Violão E O Samba』ではPercussionを担当したくらいに Vinhasはリズムの鬼なのだ。Fomaに残した『Novas Estruturas』ではブラス・セクションと絡んで、めくるめくようなサウンドを展開する。バランス感覚も持ち合わせ、かなりJazzに傾倒したピアノ弾きであり、アレンジ・センスも高いVinhasである。本作では、そんなVinhasのリラックスしたピアノ演奏を堪能できる。


 『No Flag』はLuis Carlos Vinhas70年ピアノ・トリオでの生演奏を録音した作品。スカーフなんか巻いちゃって自信満々の笑顔を見せているジャケット。実は裏面では、なぜか寂しげな表情のVinhasも。軍事政権下暗黒時代を迎えたBrazilでは多くの芸術家や文化人が弾圧されていった。Bossa Novaは隅に追いやられ、海外に可能性を求めるしかなかった人々も多かった。RioからSao Puloへやってきて小さなクラブで演奏できたJazz Sambaの一部の人々は幸せな方であったかもしれないが、その心中はどんなものであったのだろうか?それでも素晴らしい音楽があれば、いつでも陽気になれるのがBrazilの人々の良いところ。そしてお客さんを喜ばせるのが大好きなVinhasが、その腕によりをかけて名曲を料理する。この音盤の特筆すべきところは観客席からVinhasの演奏中でも沸き起こる、さまざまな物音だ。客席でほろ酔い気分になって上機嫌の人々からあがるイイ感じの歓声やグラスや皿がぶつかり合う音など、Liveならではの臨場感が素晴らしい。鼻歌なんかも飛び出すのは御愛嬌。でも、演奏と観客席の反応が一体となったノリが何とも最高なのだ。そしてBill EvansHorace SilverなどJazzの強い影響を受けたVinhasが、ここではRed GarlandErroll Garnerばりの、いわゆるカクテル・ピアノ風な演奏まで披露して人々を魅了する。この人は拍手し続けたらずっと演奏が止まらないのではないかという位の出し惜しみなし、サービス精神旺盛な弾きっぷりの良さ。勿論、お客さんのノリの良さあってこそ。

アルバムのスタートのメドレーは“Estrelinha / Muito A Vontade / Que Pena / Aquarius”。DeodatoJoao Donatoの名曲、とくれば大喜びなんけど、ここに“Aquarius”を入れるところが、なんともVinhasらしいところ。

続く“Festa / O Barquinho / Surboard / Silk Stockings”と、本当に寛げる演奏で気分良くなってきますな。


◎少し早いけれどJoao Donatoの名曲をVinhasの素晴らしいピアノで→Depois do Natal(クリスマスの後で)/Luis Carlos Vinhas

(Hit-C Fiore)