Tamba TrioはBossa Novaのピアノ・トリオとして先駆的存在であった。
60年代のブラジルにはモダン・ジャズの影響を受けたジャズ・ボッサと呼ばれる音楽を
演奏したピアノ・トリオが数多く活動していた。
彼らと比べて、Tmaba TrioはFluteや、Tambaと呼ばれる打楽器を使い、メンバー全員
が楽器を演奏しながらVocalもとれ、際立った個性を発揮していた。
その後、メンバー交代や4人編成になってTamba4と名前を変えたりしたが、紆余曲折を
経て70年代にオリジナル・メンバーで活動再開した時期が個人的には一番好きだ。
この時期のピアノ・トリオの枠を遥かに越えた創造性に満ちた、それでいて極上の心地
よさをもったTamba Trioは無敵である。
通称ブラック・タンバ、ブルー・タンバといわれている2枚のアルバムの素晴らしさは格別
だ。
ベーシストでFluteとVocalも担当するBebetoと鍵盤奏者のLuiz Ecaの音楽性が見事な
化学反応を起こして奇跡の名作を作り上げた。
この2人がいてこそ70年代Tamba Trioの輝きに満ちた美しい音楽が生れたともいえる。
その事は70年にBossa Novaの第二の聖地Mexicoで作られた次の2枚の作品を聴くと
明らかだ。
Luiz EcaがTamba以外のメンバーと作った作品『Luiz Eca Y La Familia Sagaada』と
Ecaの代わりにLaercio de Freitasが加わったTamba 4のアルバム『Pais Tropical』。
Rio de Janeiro生れのLuiz EcaはウィーンでFriedrich Guldaと共にクラシック・ピアノ
を学んだというから本格的だ。
彼のアレンジ能力と演奏がTambaを他のジャズ・ボッサの連中と一味違うノリを持ったもの
にしている。
またコンポーザーとしても優れた人で独特の美しいメロディーを書く人だ。
何よりも70年代の彼は常にCreativeでProgressiveな音楽を目指していたのだろう。
『Luiz Eca Y La Familia Sagrada』は70年に録音されたが、なぜか78年にMexicoの
レーベルから発表された。
Familia Sagrada(聖なる家族)というのはJoyceやNelson Angelo、Nana Vasconcelosも
名を連ねるスーパー・グループだ。
ツアーも行なわれたというが、詳しいところは分からない。
アルバムもカヴァーが多いとはいえ、Luis Ecaの才気走ったアレンジ・ワークが思う存分
に堪能できる。
1曲目は5拍子のピアノのイントロでスタートしてコーラス・ワークがProgressiveな展開を
見せる “Homen Da Sucuasal/Barravento”のメドレー。
Jorge Benの“Pais Tropical”はゲストのWilson SimonalがLead Vocalを取るが、やはり
Ecaが一捻りあるアレンジを所々で繰り出す。
“Juliana”はAntonio Adolfo作曲のアップテンポのキャッチーな作品であるが、ここでもEca
は毒をまぶし、弱冠チューニングが甘いギターも風変わりな味が出ている。
“Atras Das Portas Da Tarde”はNelson Angelo作曲でGentleなVocalとJazzyなEcaの
ピアノが素晴らしい、混声コーラスが印象的な心地よいナンバー。
“La Vamos Nos”はやっとEca作曲で、変拍子で始まりコーラスとピアノが一体となりながら
めくるめく展開が彼らしい、個人的にはこのアルバムで一番好きな曲。
“Se Marina”は再びAntonio Adolfo作曲でミステリアスなIntroからキャッチーなメロディー
に展開していくEcaのアレンジは見事。
アルバム全体を通してEcaの手による、Progressiveでありながら美しいメロディーを生かした
見事なアレンジが楽しめるが、やはり何かが足りない。
確かにEcaの才能が爆発した素晴らしい作品であるのだが、あの70年代Tambaの浮遊感
のあるイマジネーションに富んだ音宇宙の完成度には及ばない。
Luiz Ecaは才能ある人であったが彼だけでは、あの奇跡のようなサウンドは出せない。
Bebetoの存在の重要さをあらためて感じてしまう。
とはいえ、荒削りでありながらもアヴァンギャルドな趣きと様々なミックス感覚を楽しめる作品と
して、この作品はかなり気に入っている。
Hit-C Fiore