・読み終わった日:2016年10月23日
・人物:「私」(古倉恵子、36歳、コンビニアルバイト店員)、「店長」(30代男性)、白羽(新人店員、35歳)「妹」(「私」の妹、一児の母、麻美)
・ストーリー:
「私」はコンビニで働いて18年になる。
その日も朝の通勤前の客を相手に忙しくテキパキと仕事をこなす。
あっという間に9時半になっていた。
コンビニで働く前のことはあまり鮮明に覚えていない。
普通の家庭に普通に育ったはずだが少し奇妙がられる子供だった。
幼稚園の時、死んだ小鳥を見た私は「焼き鳥にして食べよう」と提案した。
小学校とき男の子の喧嘩を止めるためにスコップで男の頭を殴った。
教室でヒステリックに生徒に怒る先生のスカートとパンツを勢いよく下げたら若い先生は仰天して泣きだした。
学校に呼ばれる母は平謝りし帰り道「何で分からないんだろうねえ」と心細そうに言った。
私は母親を謝らせるのは本意ではないのでそれから外では口をきくのをやめた。
口を利かなくなったので今度は高学年になると通知表に「もっと友達を作って」と書かれた。
二つ下の妹は普通だった。
それでも私は家族から愛されていたが「どうしたら治るか」と親は悩んでいたのでカウンセリングに行かされたこともあった。
だが変わることは無くそのままのスタイルを中学・高校・大学と続けた。
休み時間は一人で過ごし私的な会話をほとんどしなかった私に対し親はこのままでは社会に出られないと心配していた。
私が働いているコンビニが開店したのは大学1年の時だったが鮮明に覚えている。
店を見つけたのは学校の課外活動の帰りに満ちに迷い、そこに開店前の準備中の窓に募集のポスターを見つけ応募しすぐに採用された。
最初は研修という名の訓練だった。
私以外に色々なタイプの人たちも一緒に訓練を受けた。
研修を始めて2週間後店の開店の日に朝から店頭に立った。
私は訓練通りのことをしたのだが店長からとても褒められた。
その時初めて世界の部品になれたと感じ自分が生まれたと感じた。
私は36歳で勤務歴18年になりになり今の店長は8人目だ。
アルバイトを始めたときは家族は喜んでくれたし大学を出てもアルバイトを続けることを告げると世界と接点がなかった昔よりはずっとまし、と応援してくれたがあるときから何時までも続けていることに家族は不安に感じ始めた。
初めは週4だったが今は週5で家に帰ると6畳半のアパートに戻る。
なぜコンビニでなければだめなのか自分でも分からなかった。
コンビニ以外ではどうすれば普通の人間になれるのか分からなかった。
一応20代の時に就職活動をしたがうまくいかなかった。
今や夢の中でもコンビニで仕事をしているほどになっていた。
朝8時に店に行き廃棄寸前のものなどを朝食代わりにしてバックルームで食べ9時から仕事を始めている。
仕事仲間は色々なタイプの人がいる。
私より一つ上でバイトリーダー的存在の泉さんは主婦であり少しきつい。
24歳の菅原さんはバンドをしているのでアルバイトをしている。
金曜・日曜を休みにしているので金曜日に地元にいる既婚者の友達と会うことが多い。
当然会話は家庭の話になるので未婚でアルバイト生活をしている私は浮いてしまう。
そこで妹のアイデアで「持病により体が弱いからアルバイトをしている」という言い訳にしている。
友達は私がアルバイト生活や恋愛経験も無いことも含めて苦しんでいると勝手に思っていた。
ある日「店長」から「白羽」という新人が入ってくることを告げられる。
白羽が店に入ってきたがひょろりと背の高い針金のようで声はか細い。
私は早速仕事のことを白羽に色々お願いしたが研修を受けたはずの白羽はできなかった。
それだけでなく「このような仕事は男に向いていない。縄文時代から変わっていない」と言い出す始末。
休みの金曜日に妹の家に行きまた都合のいい言い訳を考えてほしいとお願いする。
いつものように店に行くと泉さんが店長に新人の白羽がサボったり遅刻したりなので怒ってくれ、というと店長も初めからヤバいと思っていたのだが人手が足りなかったからだという。
そんなとき白羽が部屋に入ってきた。
店長は白羽に怒り一応白羽は謝るが店長がいなくなると不貞腐れる。
白羽はここで働いている人は社会の底辺に入る奴だという。
私は白羽になぜ働きに来たのか、と聞くと「婚活」だという。
しかし店員も客もろくなのがいないと嘆く。
月曜に店に行くと白羽の名前がシフト表から消えていたので店長に聞くと、サボりだけでなく客のストーカーも始めたので話し合いの末、辞めてもらった、という。
白羽が辞めたことを知った他の店員は喜んだ。
このように店員は入れ替わるがお客さんや店内の風景は変わらない。
友達のミホがバーベキューをしようと誘われたのでいく。
そこには私以外はみな既婚者で夫も同伴であり、その夫たちから私に容赦なくなぜアルバイトなのか未婚なのか聞かれる。
そのとき私は異物であり家族が私を「治そう」とした理由が分かった気がした。
その夜私は本来休みの日だったが店に行った。
すると外に白羽がいたのが分かった。
近づいてみると女の子を待ち伏せしているようなので注意すると、もう店員ではないから、縄文時代と変わらない、ネットで起業すれば女が群がってくる、という。
しかし警察沙汰になってはと思い私は急遽近くのファミレスに連れて行くことにする。
白羽は「この世界は異物を認めない。それにずっと苦しんできた」という。
私はなぜ彼が当たり散らすのが分からなかったが白羽は結婚して文句を言わせないようにしたい、ともいう。
今度は白羽が私に、平然と今のような生活をして恥ずかしくないのか、と聞いてきた。
それならばと私は白羽に二人の婚姻届けを出すことを提案すると白羽は驚いた。
私は最近の「なぜ結婚しない、アルバイトなのか」と言われ続けたことから変化を求めていたし、それは悪い変化でもいいと思った。
白羽が帰ろうとするので引き留めさらに事情を聴くとルームシェアをしていたが家賃を滞納しており追い出される寸前であること、以前は北海道の実家に家賃など甘えていたが弟が結婚し子供ができてから義妹が仕切るようになり彼女と折り合いが悪いこと、などを知った。
夜も遅いので私は白羽にアパートに来るように言うと戸惑いながらも来る。
白羽を風呂に入れている間、妹に電話して今男が家に居ることを伝えると、勝手に結婚と思っているのか喜び感激していた。
風呂から出た白羽だったが私は翌日に仕事があるのでと告げ白羽は押し入れで寝ることになり私はさっさと寝た。
朝起きると白羽はまだ寝ていたので私はそのまま出勤したが勤務が終わり戻るとまだ白羽はいた。
そして白羽はお互い利害が一致しているのでこの家に居てあげてもいい、そして僕を隠してほしい、と言い出す。
私は妹の次に友達のミホの家に集まったときに白羽のことを話したら、みんなは喜んでくれた。
みんなは「仲間」になったという感じで今まで私は「あちら側」の人間だったと痛感した。
白羽が家に住むようになったが私はつい店長に一緒に住んでいることを話してしまうとみんなに知れ渡ってしまい驚かれ面白おかしく言われる。
ある日、妹が白羽を叱りにアパートに来た。
妹は白羽が風呂場で過ごしていることなど聞かされると「お姉ちゃんは何時になったら治るの?」と泣きだした。
すると風呂場から白羽が出てきて、元カノとのこじれから成り行きでこうなったが仕事を探し籍もいれる予定だ、と適当に言うが妹は信じたようでとりあえず安心した様子だった。
翌日アルバイトから帰ると白羽の義妹が来ていたが白羽が家賃滞納したため取り立てが北海道の実家まで来たので出したお金を返してもらうために来たと言う。
狼狽えた白羽は金は返す、というが義妹はどうやって返すのか、と問い詰めると咄嗟に、結婚を前提に付き合っており彼女がアルバイトを辞め就職してそのお金で返済する、と言い出した。
義妹が帰ると白羽は、当分逃れられる、といって大喜びするが私はぐったり疲れてしまい白羽の声はほとんど耳に入らなかった。
白羽の話したように私はコンビニを辞め就職活動をすることになった。
店長に辞めることを伝えると仕事仲間みんなが喜んでいた。
店員でなくなる自分はどうなるのか想像できなかった。
家に帰ると白羽が私のために求人情報をチェックしていたが実に生き生きしていた。
気の重い私は頭の中には今頃お店で何をしているのか想像していた。
コンビニを辞めてから何を基準にして生活していいか分からなくなり白羽に命じられた履歴書作り以外は何もしていなかった。
ある日義妹から白羽に電話がかかってきたが不在だったので私が出た。
話のついでに私は我々は子供を作った方がいいか、と尋ねると、腐った遺伝子を残さない方が人類のためになる、といわれる。
その日は人生初めての面接だったが白羽が会場までついていくという。
二人で会場近くまで行くと早くついてしまい白羽がコンビニのトイレに行ったので私はついていった。
店内に入ると陳列棚の商品が乱雑になっていた。
私は手伝ったり店員の女性に仕事のアドバイスをしたりした。
そこへ白羽が来て、何をやっているんだ、と怒鳴る。
しかし私は体の中からコンビニの声が聞こえこの声を聞くために生まれてきた、細胞全部がコンビニのために存在している、という。
白羽は、狂っている、後悔するぞ、といって一人で行ってしまう。
私は面接する会社に連絡してコンビニ店員だからいけないと伝える。
コンビニの店内を見て流れている音楽が皮膚に呼応しているのが分かった。