・読み終わった日:2013年8月1日
・人物:私、僕
・ストーリー:
35、車で図書館へ行き彼女を拾って食事へ行く。
彼女は一角獣のことを聞いてきたといい僕の頭の中にあるという。
そして意識の底には本人には感知できない澱のようなものがありそれは一つの街でありそこに川があり壁に囲まれた住民は外には出られず出られるのは一角獣だけで一角獣は住民たちの自我やエゴを吸い取り街の外に運び出されるから街にエゴも自我も無いと言う。
そして僕はその街に住んでいるというと彼女は素敵な独創的な話だという。
そして彼女は部屋を壊したのは誰か、と聞いてきたが僕は曖昧に答えた。
彼女は図書館に勤めているので僕の複雑な話はわからないという。
その後図書館の近くの彼女の家に行く。
彼女はこの家は結婚したときに買ったのだが今は一人だという。
主人はバスの中で若い男を注意したら殴り殺されたと言う。
私は一角獣の頭骨を彼女に見せる。
私は火箸を取り頭骨を叩くとくうんという音がした。
彼女は音楽をかけてといい彼女はその間に服を脱いだ。
私は目を閉じ今の状況を考えてみると何か昔に起こったことのようだと言うと彼女はもちろんだ、昔に起きたことをぐるぐる回っているだけだと言う。
私は目を開けて彼女を抱きブラジャーのホックを外した。
我々は3回性交をしたあとソファーの上で一緒に音楽を聞いた。
私がビング・クロスビーの「ダニー・ボーイ」を唄うと彼女はその歌が好きだという。
私は人生は不完全だと言い彼女は私に遠くても手紙を出してと言うので私は出せたら出すと答える。
36、僕は彼女の心がすぐそこにあるのに見つけられないと言った。
彼女は最近起きたことを思い出して言うので思い出す。
そして手風琴のことを話すと彼女は手風琴は唄に結びつき唄は彼の母に結びつき彼女の母は彼女の心の切れ端に結びついていると言う。
しかし僕は唄を思い出すことができないと言うと彼女は手風琴の音を出してと言うので弾く。
弾きながら僕は心を捨てられると思った。
この手風琴の響きの中に僕の心をもぐりこませることができるのだと思った。
そして更にいろいろと今までのことを考えたが今これを失おうとしているが今までこの街であった人や出来事を昨日のように懐かしむからだろうと思った。
僕はここに留まれないが彼らを愛していた。そのときかすかに何かが僕の心を打った。
そして手風琴の一つのコードを押さえたらだんだん音がわかってきて唄の一節だと分かりそれは「ダニー・ボーイ」だった。
そして唄を思い出し全部弾き、どれだけからだが求めていたのかを感じた。
音楽の中に街の息遣いを感じ僕はその街にあり街は僕の中にあった。
長い間引いた後楽器から手を離し目を閉じた。
街の壁、門、獣、川、風穴、たまりも僕自身で僕の中にいた。
彼女は目を閉じて僕の手を握り締め涙を流していた。
僕は彼女の瞳に唇をつけた。
僕は天井の電灯を消したっがその光がどこから来ているのか分かったがそれは頭骨からだった。
並べられた沢山の頭骨から沈黙の光を放っておりその一つに表面をなぞると彼女の心を感じ取ることができた。
僕は彼女の心を読み取ることができるし一つに纏めることができるので朝まで君の心を読み取るので一人にしてくれというと彼女は書庫から出て行った。
37、私が寝ているところを起こされた。
彼女はテーブルの上を見てというので見ると一角獣の頭骨の上が光っていた。
おそらくどこかで私自身と結びついているのかと思った。
目を閉じて両手で触ると古い思い出が浮かんできた。
彼女はレプリカではなく本物ではないかと言い私には何か語りかけてくるように感じた。
彼女も頭骨に触ると私と同じような感想を言う。
そして私は自分の部屋に太った娘がいるか確認するために電話をしたら出なかった。
我々はビールを飲みながら白い光を見た。
そして床に投げ捨てられた私の服を見ていたら私の35年間の人間の帰結のように感じた。
彼女はそう思うのはセックスのせいではないかと言うが私はそうではないと言い服の塊をそのままにしておいた。
私は彼女になぜ図書館に勤めたのかと聞くと彼女は図書館は静かで知識が詰まっていて本がいっぱいあるから図書館が好きだという。
夜が明けるにつれて頭骨の光は輝きを徐々に失った。
我々はソファーで抱き合いながら外を眺めていた。
彼女が眠りだし私が朝食を作った。
我々は9時にここを出てどこかの公園でひなたぼっこをすると決める。
彼女は頭骨はどうするのかと聞くので彼女にプレゼントすると言う。
そしてもう一度彼女を抱きしめぬくもりを頭の中に刻み込んだ。
38、夜明けとともに頭骨の光は薄らいだ。全部は読み取れなかったが一つ一つ丁寧に読み取った。
窓から差し込む淡い光はいつまでも重化することなく影は同じ場所に留まっていた。
彼女の心を全て入っていないが彼女に心を与えることができると感じた。
書庫を出ると彼女は座っていたが僕に疲れたか、と聞く。
手を挙げるのもやっとという有様だった僕は彼女に今から寝るが寝顔を見て欲しいと言うが彼女は求めているのなら見るという。
僕は指先を彼女の頬に当てると彼女は目を閉じてそのぬくもりを味わっていた。
彼女がこれが光のぬくもりなのね、と言い春の光のようだ、と言う。
僕は時間がかかるがいつかそれを伝えると言う。
彼女は掌を僕の目に当てると僕は眠った。
彼女は僕を2時半に起こした。
僕は彼女に手風琴を預かってくれないかというと彼女は肯いた。
門番小屋には人影が無かった。
僕は壁にかかった鍵束を外し影の広場の入り口に出た。
真っ白な雪に誰の足跡も無くそこは神聖な空間に感じた。
鍵を入れ中に入ったが影は地下室のベッドに座って僕を待っていた。
僕がここを出ようと言うと影はさっき自力で動けないほど体が弱っていることに気づいたと言うので僕が背負っていくことになる。
影は弱い振りをしていたら本当に弱くなり、そして南のたまりに行けと言う。
逃げている間後ろを振り返ると煙が見えたが煙の太さからすると焼いている獣の数がかなりあると予想できたので仕事の終り時間が遅れると思った。
しかし雪の上を逃げるのは大変でさすがに僕も疲れ5分間だけ休むことにする。
影がこの街に隠された出口があると思ったのはこの街が完全な街であり流動的に完全を維持しており固定していないから出口があるはずだと言う。
影は脱出した後の世界は立派な世界か分からないが俺たちの生きるべき世界であり良いもの悪いものもあり君はそこで生まれ死ぬし、それが自然なことだと言い僕もそう思った。
そして再び歩き始めた。
39、我々は日比谷公園に行き芝生に寝転びビールを飲んだ。
彼女はどうして離婚したのか聞いたので5、6年前に彼女が出て行ったきり会っていないと答える。
結婚生活は上手くいっていたが世の中は限定されたビジョンと完全なビジョンであり僕は前者だと答える。
彼女は僕が固くなすぎるのではというが妻も同じことを言ったと言う。
僕は彼女に彼女の主人に代わって殴り殺されるべきで、その方が僕の死にふさわしかったと言う。
彼女はそろそろ帰るといい私は彼女に図書館に帰ったら連絡をすると言った。
私は彼女を見送ったあと母と娘の2人を見た。
そして目を閉じて「カラマーゾフの兄弟」の3兄弟の名前を思い出した。
空を見上げ寝転んで最後のビールを飲み煙草を吸ったが残された時間は1時間だった。
私はクレジットカードを出して焼いたら身なりのよい母親が私を変な目で見た。
風景を眺めているうちに私はこの世界から消えたくないと思った。
なぜか分からないがそうする事が私に与えられた一つの責任に思えた。
私はいくらか捻じ曲がった生き方をしたがそのまま人生を終わらせたくなかった。
私は声を上げて泣きたかったが年を取りすぎていたし多くのことを経験しすぎていた。
世界には今涙を流すことのできない哀しみがある。
それを若い頃口で伝えようとしたが自分自身にも伝えられないと思いあきらめた。
それから図書館の彼女のことを思い出した。
彼女に対して公正に振る舞えたか考えたが誰も公正を求めず求めているのは私くらいだ。
誰も求めていないにせよ私にはそれ以外に与えられないから公正は愛情に似ている。
与えるものを求めているのが合致しないのでおそらく人生を悔やむべきだろう。
私は自分の部屋に電話したら意外にも太った娘がいた。
一度帰って部屋で読んでいた本の続きが読みたくなって戻ってきたということだった。
博士は研究所を作るためにフィンランドに行ったといい彼女は私の部屋に住むことにしたと言う。
そして例の凸凹コンビが部屋に来たが大きいほうをピストルで撃って追い返したと言う。
彼女は私が意識が無くなったら冷凍するつもりだと言い、いつか祖父が元に戻す方法を見つけてくれるのではと言う。
そしてもし上手くいったらそのとき私と寝てくれるかと言うので私はもちろんと答える。
私は彼女に話ができて嬉しかったと言うが彼女は私の心からあなたは失われないよ、と言い、私も忘れないよ、と言って電話を切った。
私は車で港に着くとボブ・ディランのテープを流した。
太陽がフロントガラスから差し込んで私を光の中に包んでいたが目を閉じると光が瞼を温めていることに不思議な感動を感じた。
おそらく限定された人生には限定された祝福が与えられるのだと思った。
私は博士、太った娘、タクシー運転手に祝福を与えた。
海が見えボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れていた。
世界はあらゆる形の啓示に充ちていると思った。
そしてレンタカーの事務所の女の子にも祝福を与えた。
雨降りのことを考えたが誰も雨を間逃れないしいつも公正に振り続けるのだ。
そして眠りがやってきてこれで失ったものを取り戻せるのだと思った。
ボブ・ディランは「激しい雨」を唄っていた。
40、我々はたまりに来てそこに立ちすくんでいた。
壁は何も語り掛けなかったが<世界の終り>という名に相応しい冷ややかな光景であった。
影はここが出口だと言い両方の靴の紐をほどきお互いのベルトを結び飛び込もうと言う。
そこで僕はここに残ると言うと影はぼんやりと僕を眺めた。
僕はよく考えたがひとつのことを発見したらここに残ることにしたと言った。
僕はこの街を作り出したのは誰なのか発見しいたからここに残る義務と責任があると言い影にそれを知りたくないかと聞く。
影は知りたくないし既に知っているしそれは君自身だという。
壁、川、図書館など全てを作り上げたという。
僕は影に何故もっと早く教えてくれなかったのかと聞くとそれを教えればここに残ると言っただろうから、と言う。
僕は君と別れるのは辛いが作った責任があるし壁は僕自身を囲む壁で煙は僕自身を焼く煙だと言う。
影は止めても無駄だと分かったが森で住むことは大変なことだという。
影はそろそろ行くと言い最後に何を言えばいいか分からないと言い幸せになることを祈ると言う。
影は僕の影であること抜きにしても僕のことが好きだったという。
僕はありがとう、と言った。
たまりが影を飲み込んだあと僕は長い間、水面を見ていた。
影を失うと宇宙の辺土に1人残された気分だった。
僕はたまりに背を向け雪の中を戻ったがそのとき僕の雪のきしみだけが残った。