税務調査の撃退法・6.【実例】税務調査実施・防御の時 | 税務調査専門の公認会計士・税理士、たけよしのブログ

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税務調査開始の通知を受けてから一カ月後、代理人とX氏は帳簿等を携えてQ税務署を訪れ、A上席調査官と面談した。




税務調査の名目は所得税額の確認、ということであったが、メインテーマが「X氏のバンド活動は所得税法の事業に該当するかどうか」であることを確認した。




面談は午前9時半から12時まで行われ、Q税務署側はA上席調査官と新人の調査官が臨席した。(今回のヒアリングは、新人調査官のOJTも兼ねていたものと思われる。)




具体的な質問内容は、バンド活動の概要(頻度や規模、ライブハウスとの交渉や広告宣伝の方法、メンバー間での役割分担、報酬の算定や受取方法、契約書等の有無)、給与所得先での勤務状況、事務所兼自宅の事業での使用状況、計上した経費の詳細、等であった。




代理人とX氏は、X氏のバンド活動が所得税法や判例に照らして事業に該当し、事業所得の赤字が発生していて給与所得との相殺が可能である旨を主張した。




しかしながら調査の最後において、A上席調査官より「今回の調査の結果から、本人のバンド・ミュージシャン活動については、真摯にその活動に取り組んでおり事業としての実体があることはわかり、事業を継続しているという印象は持った。また、活動に対価性があることも理解した。しかしながら、税務署として、(所得税法に照らし?)事業として扱う事は難しいと認識している。その根拠として、客観的に事業を継続できるかどうかに疑義があって、営利性がないと考えられるためであり、自分としては事業ではないと考えている。この調査結果をもって審査部門で審査を行う」という発言があり、面談が終了した。




一方代理人は、「営利性の定義は何か」、「その定義の根拠・出典は何か」、「どういった事象をもって営利性が無いと判断しているのか」という質問を行ったが、A上席調査官は曖昧な答弁を繰り返し、最終的には当該質問に答えなかった




調査終了から一週間後、再びA上席調査官から代理人へ電話連絡があったが、以降は次回に記載します。




【筆者コメント】


税務調査の入り口として、まずは状況の確認を行います。




状況の確認とはいえ、少しでも否認の材料に使えるものが出てくれば、厳しく追及されます




今回の面談において、X氏には事前に面談の際の注意事項及び想定問答集を提示し、具体的な回答を用意いただいていました。




面談を受ける際のポイントは、



・嘘をつかず、事実のみを述べる。
・質問に対する回答だけを話し、余計なことを話さない。
・こちらに不利になるNGワードを設定する。
 ⇒今回のケースでは、副業、趣味、片手間、小遣い稼ぎ、といったフレーズになります。
・回答に困ったら、代理人に任せる。
・もちろん、録音して攻撃材料を集める。


と言ったところです。




このような事業性判断の調査の場合、調査官は「事業ではない」と決めつけて質問をしてきますので、こちらがこの場でいくら事業性、正当性を主張したところで、調査官は聞く耳をもちません




ですので、面談は我慢の場と心得て、失点を防いで乗り切るという戦術が有効です。




税務に明るくない納税者は、何が不利になるかもわからないと思いますので、「発言量が多ければ多いほど不利になる」と考えていただいても結構です。




実際のケースでは、想定問答の内6割くらいが実際に質問を受けた内容でした。




また、X氏の受け答えとしては、100点満点・60点及第点という前提で、80点くらいだったのではないかと個人的には考えています。(X氏は税務に関してはほとんど知識が無いと仰っていましたが、事前準備により十分対処できたと思います。)




一方調査官としては、これまでの経緯から楽勝案件について腰を上げざるを得ない状況になり、面倒だと感じていたと思いますが、基本的に面談をやればボロが出るだろうと考えていた節があります。




しかしながら、X氏が適切に受け答えをしたために否認するどころか否認の根拠まで怪しくなり、一方で”否認ありき”で調査を進めていたため方針転換が出来ず、最後の様な「事業の実体はあると思うが営利性が無い。しかし、営利性が何を意味するのかは示せない」というようなトンチンカンな返答が出てきたものと思われます。




そもそもですが、「事業の実体があるのに事業ではない」という結論が出ること自体、論理破綻しています。




別の例で言うと、金銭消費貸借の契約書が適式に存在し、金銭の払い込みの記録があり、契約通りの金利が契約通り支払われており、金銭消費貸借の実体があるにもかかわらず、「貸金の実体があることはわかったが、これは贈与に該当するので贈与税を払え。ただし、贈与の根拠は示さない」という結論を出すようなものです。




所得税は各個人の所得実体に対して課税される税金である以上、事業の実体があると判断するのであれば事業所得として認められるはずですが、事業性を否定しつつ否定の根拠も示せない、という判断をA上席調査官は出しています。




否認するための調査では否認するという結論が先に決まっているため、このような判断が横行するわけです。




この時点で実質的にこちらの勝ちですが、事は簡単には終わりません。



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たけよし

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