オキシコドンについて報じられたことをきっかけに、改めてオキシコドンのことを述べて来ました。



では、どんな人が、どんなやり方でオピオイドを使用すると、精神依存を形成しやすいのでしょうか。


これに関しては、緩和医療に関わる先生方が、良書を翻訳されています。



オピオイド乱用・依存を回避するために―臨床医のためのガイド







※ただし、医師向けです。


一般の皆さん向けにも簡単に紹介します。


どんな人がオピオイド乱用に陥りやすいかを予測するための”オピオイド危険度判定ツール(ORT)”というものがあります(前掲書p123-124)。


スコアリングし、高いほうがリスクが高いのですが、次のようなものがリスクになっています。


◯物質乱用の「家族歴」

◯物質乱用の履歴(注;本人)

◯16~45歳

◯思春期の性的虐待履歴(女性のみ)

◯精神疾患


上でいう物質には、アルコール、非合法薬物、処方薬などが含まれます。

他の物質にも乱用歴があれば、オピオイドもそうなりやすいし、また家族歴もリスクを増やします。

これらの要素がある方は乱用のリスクを有しています。



またどんなやり方が、リスクが高いのか。

外国の映画で、粉末を吸うやり方や、あぶって煙にして吸うやり方をご覧になったことがある方がいるかもしれません。

要するに、このようなやり方で濃度を急に上げることが、(快楽の)効果としては大きくなりますが、一方で精神依存の危険が高くなります。危険なやり方です。


一連の記事で触れた『非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン』でも、


依存形成の強さの模式図(p25)に


弱 経皮貼付→経口徐放→経口速放→皮下注→静注・吸入 強


とあります(注;ただしここで挙げられている皮下注射や静注は、一気に為すもので、医療用の使用の際の持続的に少量ずつ一定に投与するものとは違うと考えてください)。


非がんの慢性疼痛には、”オピオイド鎮痛薬の速放製剤の投与は推奨されない”、その理由は”血中濃度の急激な上昇は依存を形成しやすく、オピオイド速放剤は乱用に好まれやすいオピオイドであるためである”(p39-40)とされています。


簡単に言えば、濃度の上がり下がりが急なほうが、精神依存につながるリスクは相対的に高いのです。


イーフェンバッカルやアブストラルといったフェンタニル口腔粘膜吸収剤が、1日4回(ただし、1回の使用に関して30分以上あけてもう1回追加可能なので、計8回まで使用できる)と回数制限され、しばしば他の種類の速放製剤との併用を余儀なくされる(患者さんにとっては非簡便です)のも、フェンタニル口腔粘膜吸収剤が注射以外ではもっとも濃度の立ち上がりが早い一形態なので、(私はその事情を知る立場にありませんが)慎重に認可としたのかと推測しています。


とても興味深いのは、ある講義でカナダで働いている先生が、日本で勤務している先生から、フェンタニル口腔粘膜吸収剤はどう思うか質問された時に、「アメリカの高名な先生も同意見だが、濃度の上昇が急で依存を形成しやすい薬剤は心配であり、使わないという結論に達している」(※専門家の意見、という個人の意見レベルの話です)と答えられていましたが、前2回にわたって述べてきた文化の違い(乱用の氾濫)を考慮すると、理解できるものです。もちろん日本においては、そのリスクは少ないだろうことは、言うまでもありません。ただ製剤の特徴によって、リスクの高低があることはあります。


またそのカナダで働いている先生が提示されたケースが、食道がんと診断された男性に、わずか2週間程度(たしか、それくらいだったと思います)で、一気にモルヒネ換算500mg/日まで(その先生ではない非専門家の先生によって)医療用麻薬が増量されており、依存の形成が考えられた、というもので、日本ではまずそういうことはないだろうと感じるとともに、「オピオイド以外をしっかり併用して使えば(そして過量のオピオイドとならないように配慮したら)良いのに」と一専門家としては感じました。

<それにしても、社会全体が、痛ければオピオイドを服用し、増やすのが”本当に”当たり前になっている状況では、「なるべくオピオイドを増やしすぎないように」と個人の努力で対応するのはきっと難しいだろうなあ、と彼の地の専門家の労苦が思いやられました。銃所持が当たり前だと、それすらそうでない状況に戻すのが難しいように、文化が生成し社会にあまねく広がっている土壌は変えるのが難しいと感じます>


がんの患者さんの症状緩和においてとても重要なオピオイド製剤ですが、がんによる痛みではない方への不適切な使用では精神依存のリスクがあります。もちろんがんの方でも、指示された用法用量を守らないで自分の思うように適当に使用する方には一定のリスクがあります(あるいは前掲したような、一部海外式の、少ない時間でどんどん増量しましょう、というやり方もリスクがあります)。一方で、念のために(大切なので繰り返し)書きますが、日本においては、がんの患者さんが指示された一般的な投与法で服用する限り、精神依存はまず起きません。


どんな方が、どんなやり方で使用すると依存形成のリスクがあるのか、それを頭の片隅に置きながら診療にあたっています。