皆さん、こんにちは。大津です。

GW真っただ中、いかがお過ごしでしょうか?

嘘シリーズです。

「先生が緩和をしてくれないから・・」
看護職の皆さんはこう言ったことはありませんか?

もちろん緩和医療の指示をきちんと医者が
出してくれなくては始まりません。
けれども看護師ができることもたくさんあります。
看護師の皆さんが自分たちで防げることもあります。

例えば、以下のような対応ができます。


余命が短い週単位以下(余命1~2週以内)と考えられる患者さんへの
説明と同意の下の
① 身体拘束の中止
② 肩枕の中止
③ 頻回吸引の中止(特に鎮静下)
④ 自己喀出ができない患者への吸入の中止
⑤ 下肢挙上の中止
⑥ モニターの中止
⑦ 酸素の増量中止

なぜ中止したほうが良いのか、
それぞれについて詳しく説明します。


① 身体拘束の中止

 余命が残り少ない患者を拘束したい医療者はいないでしょう。転倒を回避するために、止むを得ずしていることと思われます。
 一方で、身体拘束は平成13年に厚生労働省が「身体拘束ゼロへの手引き」を出すなど、その回避へすでに10年努力してきました。
 詳細は「身体拘束ゼロへの手引き」(インターネットでダウンロード可能)を読み込んでもらいたいですが、有名な「老人抑制の神話」という論文で以下が示されています。

・身体拘束によって転倒事故が重大化する可能性があります(力をふりしぼって逃れようとするので、万一転倒した時の事故が甚大となりえます)。

・身体拘束が効果的であるという科学的裏付けがありません。

・身体拘束による弊害(機能低下を早めるなど)が無視しえないです。機能低下や尊厳の喪失から患者の命を縮めている可能性があります。

・身体拘束をすることで精神的に深く傷つきます。

・ケアスタッフを増やすことなく拘束を減らした例が多くの文献で示されています。

・拘束された患者のほうが観察の時間が増えて、看護の必要度が増加したという研究があります。

 無視しえないのは、身体拘束を行うことで、より安静を保てない状況が増悪し(せん妄などが増悪する)、また最期まで耳は聴こえており状況判断も全くないわけではないので自らが拘束されていることを多くの患者さんは知ることになって尊厳が深く傷つき、死への経過を早める可能性です。

 以上より、基本的に身体拘束は行うべきではないでしょう。重要なのは、転倒と身体拘束のリスクを天秤にかけた時に、拘束に伴う不利益のほうが上回るであろうことを十分ご家族などにご説明しておくことでしょう。転倒を避けるためにやむを得ず拘束を行います、だけの説明では足りません。


② 肩枕の中止

 肩枕が、苦痛緩和及び予後の延長に寄与している明確な証拠はありません。逆に無理な体勢を患者さんに強いて苦痛を増やしている可能性があります。肩枕は入れずに、普通の頭位を取らせてあげるべきでしょう。


③ 頻回吸引の中止(特に鎮静下)

 鎮静を行わなくても余命が日単位へと移行すると眠っている時間が増えます。眉間のしわや体動が著しいなどの苦痛のサインが認められなければ、たとえ気道のごろごろ音があっても(よく眠っていれば)患者さんが苦しんでいるわけではありません。
 頻回の吸引で苦痛緩和や予後の延長に寄与しているかは不確かで、多くの医療者が経験するように、吸引それ自体の苦痛及び尊厳の損傷が上回る場合が少なくありません。
 特に鎮静下においては、苦痛を緩和するために睡眠にいざなっているのであり、それをまた起こさせる吸引は相反することを同時にすることであって矛盾しています。
 終末期においては出血傾向や粘膜のぜい弱化が見られ、容易に口腔内や気道を傷つけて出血させてしまいます。侵襲的行為であり、傷害性の高い行為でもあります。
 以上より、気道のごろごろが強ければ、まず輸液の減量をし、苦痛が顕著なら(同意の上に)鎮静を行って、様子を見るという代替策があるために、また自然に意識が低下すれば見ている側ほど患者さんは苦しくないことが多いため、頻回の吸引は推奨されません。


④ 自己喀出ができない患者への吸入の中止
 自己喀出ができない患者さんへの吸入は、気道をさらに水で満たして溺れさせるようなものです。自己喀出ができる場合は吸入を行って良いですが、そうでない場合はむしろ患者を苦しめていることになります。一般に予後日単位の吸入はほとんどの場合に効果がなく、上述のようにむしろ苦痛を増やすために、避けるべきででしょう。


⑤ 下肢挙上の中止
 終末期には血圧が低下するのが普通であり、それは全身状態の変化に伴うものです。
 下肢挙上で予後は改善しないと思われ、一方で予後日単位の身の置き所のなさは「足の重だるさ」となって現れることが多いために、足を上のポジションに置くことはより苦しみを強める可能性があります。以上より、苦痛を増悪させる一方で予後も改善しないと考えられるため推奨されません。


⑥ モニターの中止
 患者さんやご家族によってはモニターの装着を望まない方も少なくありません。
 モニターは多くの場合、医療者側の理由で装着されていることが多いからであり、特に患者さんやご家族の希望で装着しているものではないからです。
 またご家族によっては、患者さんが嫌がるモニターを付けるよりは頻回の訪室で対応してもらって、万一その間に呼吸停止があっても許容されると考えている方もおられます。
 ゆえに、患者さんもしくはご家族の希望を聞いたうえでモニターを装着するべきであり、患者さんが何かにつながれていることを厭うのならばモニターを付けない選択肢も十分あることを説明したうえで取りつけなければなりません。


⑦ 酸素の増量中止 
 終末期における酸素投与による苦痛緩和効果は明らかではなく、また予後の延長にもどれだけ寄与しているかは不明確です。
 リザーバーマスクに鼻カニューレを併用しているような場合もありますが、それが苦痛緩和にも予後の延長にも寄与していない可能性は相当あります。
 ゆえに、酸素投与は基本一経路のみとし、それも鼻カニューレ等の重量感・束縛感が少ないものが一番望ましいと考えられます。リザーバーマスクで予後がよしんば延長したとしても、窮屈で不快なマスクで時間を延ばすことは倫理的に必ず許容されるとは言い難いでしょう。
 酸素量をどれだけ増やしても、予後日単位の場合は余命の延長は期待し難く、鼻カニューレで投与可能な適当なところまでの増量とし、自動的酸素増量は回避するべきでしょう。説明の上に、酸素投与を行わない場合もあって良いと思われます。


以上です。
「うちでは普通に行っていた!」
という項目、実は結構あるのではないでしょうか。

一番大切なのは、きちんと患者さん、ご家族の希望を聴くことです。
これらの処置で苦痛が軽減されたり、余命が大きく延長することは
ありませんし、これらをしないからといって余命が短縮するとは言
えません。むしろこれらをすることで患者さんが窮屈な状況に置か
れて、より苦痛が増え、予後を悪くするかもしれないのです。

自分があと数週間の命の時に、どうされたいか、なるべく窮屈なこと
は避けてほしいと多くの方が願われるのではないでしょうか。

ルールはあくまでルールであり、今死を前にしてらっしゃる方の
ささやかな願いまでも「うちはこういう決まりだから」と退けて
しまってはいけないと思います。自分が同じ立場になった時に、
そのような対応を受けてどういう気持ちになるかを考えないと
いけません。

上記の①~⑦にあるようなことを回避するだけでも、
患者さんの療養環境はずっと改善すると思います。
病棟の仲間と声をかけあって、病棟ぐるみで取り組んでもらえたら
良いと思います。

できることはたくさんあります。
特に終末期においては、看護のできることは医療よりも多くなります。


それでは皆さん、また。
失礼します。