1. NPO法人から官僚への流れ
NPO法人NEWVERYの理事長・山本繁さんが、文部科学省のスタッフに就任されるそうです。
【山本さんのブログより】
http://blog.kotolier.org/archives/51828416.html
NEWVERYさんは、大学の中退予防とトキワ荘プロジェクト(漫画家養成)、社会教育などで活躍しているNPOです。
山本繁さんとは、直接面識はありませんが、友達のNPOの人からよく名前を聞きますし、
ツイッターもフォローしてたりするので、一方的にに親近感を持っていたりします。
山本繁さんだけでなく、民主党政権になってから、
NPO関係者や民間の方で政府のスタッフに入る方がかなり増えています。
ぱっと思いつく僕が知っている人だけでも、
年越し派遣村の村長だった湯浅誠さん
自殺対策のNPO法人ライフリンクの清水康之さん
病児保育のNPO法人駒崎弘樹さん
コンサルタントで復興庁で今も活躍されている藤沢烈さん
といった具合です。
他にもたくさんいらっしゃるのだと思います。
これは、本当にすばらしいことだと思います。
2. 制度を作るときには、外部の知恵が絶対に必要
僕らは、言ってみれば制度を作るプロなわけですが、
自分が法律を作ってきた経験からしても、以下のようなことを感じています。
① 現場の経験がない
例えば、僕は児童虐待の法律改正をしましたが、過去にも未来にも児童相談所や児童養護施設で働く機会がありません。
② 新しい分野の第一人者は、第一線の公的機関ではなくNPOであることも多い
昭和60年代くらいからは、行政改革の流れの中で新しい政策課題が生じても公的機関を作ることが難しくなりました。結果として、第一線で頑張っているのはNPOなどの民間団体であることが多いです。就労支援、生活困窮者支援、学校からあぶれた人の教育など、公的機関が手をかけてこれなかった領域は特にそうです。
③ 現場の人とのコミュニケーションが難しい
制度を作る時には、当然現場の人たちと密にコミュニケーションをとってつくりますが、僕らは法律は分かるけど現場の感覚が完全には分からない。現場の人たちは、感覚はあるけど法律のことが分からない。この両者の間には、必ず通訳が必要です。
去年作った児童虐待の法律改正の時も、こういう点に一番苦労しました。
①については、自分は現場経験がありませんが、スタッフの中には児童相談所などの経験の豊富な人が自治体から来ていますし、役所の外にいる児童相談所や児童養護施設、里親さん、弁護士さんなど様々な現場の人とやたらとコミュニケーションをとりました。
自分が法律案を形にしていく過程で、一歩一歩しつこいくらいに「これで、おかしくないか?」と確認してもらっていました。一時期は、同僚よりも現場の人と話している時間の方が多かったほどです。
②については、児童虐待の法律改正の時は、あるNPOの方ともかなりコミュニケーションをとりましたし、特に周知啓発の部分では、大分お世話になりました。
③については、全国探すと現場にもすごく詳しいのに、法律もとても詳しい人が中にはいるので、そういう人にお世話になっていました。
3. 外部の知恵の借り方
これまでも、外部の知恵の借り方がたくさんシステム化されてはいました。
(1) 審議会
例えば、審議会もその一つです。
その分野の専門家である学者、自治体の人、現場の人、法律の専門家、メディアの人、労使関係者などなど、様々な人に入って頂いて、一緒に議論をして法律案を形にしていきます。
最近は、審議会にNPOの人がたくさん入っていて、僕が今、守備範囲が幅広いので、たくさんの審議会に参加する機会がありますが、NPO関係者のいない審議会はほとんどないくらいです。
(2)国と地方の人事交流
先ほども少し書きましたが、厚生労働省にも、地方自治体で現場の経験のある人がたくさん人事交流で来ていて、何かあるとその人たちの知恵をすぐに借りることができます。
(3)非公式なコミュニケーション
これが結構大事だと思いますが、現場の人で一緒に考えてくれそうな人が見つかったら、とことんその人と一緒に考えます。
審議会以外にも、何回も児童相談所に出向いて打ち合わせもしましたし、施設関係者の人がたまたま厚労省に来ると分かれば、ついでに寄ってもらって、現場のことを教えてもらう。そんな、日々でした。
4. NPOの人が政府に入る意味
上記3で言えば、(1)と(3)は今でもある程度NPOの方が入ってきています。
最近の流れは(2)にNPOの人たちが入るということです。
このメリットについて、書きたいと思います。
(1)最も詳しい人がスタッフになる
官僚というのは、人事異動が2,3年周期であるので、特定の分野をずっとやっている人というのはいません。もちろん詳しくなりますが、自分にしても一番詳しい児童虐待の前は、雇用関係をやってましたし、その前は年金ですし、今は政務官の秘書官というまた全然違うことをしています。
一方で、新しい分野で活躍しているNPOの人というのは、日本で数少ない一日中、何年もその分野のことばかり考えて、実践してきた人であり、ある意味では日本で最もその分野に詳しい人です。
そんな人がスタッフになるのは、とても心強いことです。
(2)新しいアイディアが出る
僕らは、制度を作るプロですが、そのフィールドというのはものすごく歴史があって大きなものです。
そういうシステムの中で制度を作る訓練をずっとしてきています。
制度を作る際のステークホルダー間の力学というか、「それが実現できそうか?」「どこを説得したらよいか?説得できそうか?」「作った制度がうまく回るか?」という決定プロセスや行政のシステムをよく知っているが故に、中身を考える際に、その実現可能性に結構縛られる発想をしがちなところがあります。
おそらく、自由なフィールドで活動を拡大してきたNPOの人は、僕らにない発想を持ち込んでくれると思います。
(3)NPOの人に政策を作るプロセスを知ってもらえる
僕は、これが一番大きな効果ではないかと感じていますが、
政策を作るプロセスは、複雑な調整過程です。
極端な話、何かの政策を実現しようとすれば、必ず誰かが損をします。
例えば、ある分野を強化したときに、民業圧迫にならないかとか、既存の事業運営主体が困らないかとか、もっと言えば、予算を増やすと言うことは他の分野を削るか、(最後の手段ですが)税金を上げるかしないといけません。
政策を作るというのは、この多様な利害の人を一人ひとり地道に説得するプロセスでもあります。
この社会で官僚の持っている技術の最も独自なものは、この複雑な調整過程を知っていて、調整できるということではないかと思います。
これをNPOの方に分かってもらって一緒にできたら、すごいパワーになると思います。
そして、契約期間がすぎて民間に戻った時も、それを知っているNPOの方は、さらに活躍していますし、
外部からの政策的な働きかけも上手になっていると思いますし、
僕らからしても、たくさんのことを引き続き教えてもらえるようになります。
5.NPOの人に入ってもらって成功する鍵は?
僕は、まだ政府に入ってきたNPOの人と一緒に仕事をした経験がありませんが、
おそらく、うまくいくかどうかの鍵は、
NPOの人の知見・アイディアと、官僚の複雑な調整過程を知っている技術がコラボレーションできるかどうかというところにあるのではないかと思います。
官僚の側も、NPOの人の真新しい発想は、これまでの自分たちのやり方・発想と違うとしても怖がらずに一度飲み込めるかというのが鍵になるでしょうし、一緒に複雑な調整過程をわたっていけるか戦略を練るくらいの懐の深さが必要だと思います。
NPOの方も、政府に入ったらすぐに、自分が考えていたことが実現できるのではないかという幻想を持っていると、もしかしたら幻滅したり、ぶつかってしまうかもしれません。
そうなると、新しいものを作りづらくなってしまいます。
でも、かならず小さな変化を一緒に起こすことはできます。
その小さな変化を一緒に起こす過程で、同僚になっていくことができれば、
きっと大きな変化につながるはずです。
もし、僕が政府の中でNPOの人と一緒に仕事をする機会が与えられたら、
徹底的に、NPOの人の活動を知ろうとするでしょうし、ものの考え方やアイディアを理解しようとすると思います。
それとともに、NPOの人に制度を作るときには、どんなプロセスがあるのか、利害関係者がどのくらいいて、説得しないといけない相手がどれだけいて、それぞれ難易度がどのくらいなのかということを、徹底的に教えて一緒に考えてもらうと思います。
これは、官僚の世界に民間の人を取り込んで牙を抜くみたいなことでは決してなくて、そこまで感覚を共有しないと、政策を作るという相当地道な作業は進まないし、ぶつかってしまうと思うのです。おそらく、どんな仕事でも背景の異なる人が一緒にやるためには、お互いの知見に敬意を払って活かそうとする姿勢や相手の立場をおもんばかることが大事だと思います。それが、よい政策を一緒に作るための必要な条件だと思っています。
いつかそんな日が来ることを夢見ています。
【追伸】
僕が、NPOの人たちと付き合いだしたのは、
育て上げネットの工藤啓さんのところに6年前くらいに遊びに行ったのが最初でした。
その時に強く感じたことが2つありました。
「ああ。僕らの仕事でなくても、こんなに社会のことを一生懸命考えている同世代の人がいるんだ。」
「じゃあ、この人たちと一緒にがんばっていけば、日本は必ずよくなるな。」
その時、感じたことが確実に現実になろうとしている気がします。