児童の身体計測情報 | 浅慮相乗のブログ

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機微(センシティブ)情報(sensivive data)という言葉、ご存知でしょうか?このブログをご覧になっている方々にはちょっと冗長な質問かもしれませんね。日本語での定義、堅いところで省庁の個人情報保護に関するガイドラインから引いてきてみましょう。

”政治的見解、信教(宗教、思想及び信条をいう。)、労働組合への加盟、人種及び民族、門地及び本籍地、保健医療及び性生活、並びに犯罪歴に関する情報(以下「機微(センシティブ)情報」という。)”
金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
http://www.fsa.go.jp/common/law/kj-hogo/01.pdf

「堅いところで」と書きましたが、実のところ、私が見た範囲では国の各省庁が出している個人情報保護に関するガイドラインで機微情報について明記しているのは、このガイドラインしか見当たりません。機微情報は、ごく限られた場合を除き利活用の対象としないというのが社会通念としてあったのか、機微情報を意識することがそもそもなかったのかは分かりませんが。

今回のエントリは学校にかかわる話ですので、文部科学省の所管する事業についてのガイドラインへのリンクも貼っておきましょう。

文部科学省所管事業分野における個人情報保護に関するガイドライン(平成24年3月29日文部科学省告示第62号)
http://www.mext.go.jp/b_menu/koukai/kojin/info/1321223.htm

文部科学省が行っている事業に「スーパー食育スクール事業」というものがあります。

”学校における食育を推進するため、各種外部機関と連携し、食育プログラムを開発するスーパー食育スクールを指定し、栄養教諭を中心に外部の専門家等を活用しながら食育の推進を図る。”
スーパー食育スクール事業について
平成26年度の対象校はこちらです。

平成26年度スーパー食育スクール指定校一覧(PDF)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/04/__icsFiles/afieldfile/2014/04/11/1346607_02_1.pdf

この中に、ブログエントリでよく取り上げる佐賀県武雄市がありました。武雄市立若木小学校です。テーマは「ICTを活用した食育を通して、生活習慣を改善する取組」とのこと。この小学校のサイトに記事がありました。

若木小学校が行うスーパー食育スクールの取組

上記のページにPDFファイルをDLするためのリンクがあります。PDFファイルから内容を見てみましょう。なお、引用内容は抜粋したものです。

〔引用開始〕
事業のポイント
・ ICT(1 人 1 台配布したコンピュータータブレット)を利活用した、児童の食習慣、生活習慣の把握。
・ 歩数計や体組成計等の測定機器を活用した児童の健康状態や運動量の把握。
・ 児童の食習慣、生活習慣を調査するためのソフトウエアの開発。
・ 企業等と連携した身体測定や運動量など客観的データによる分析と検証。
・ 地域や企業と連携した授業や講演、栄養摂取、健康に関する指導法の研究。”

 評価方法
・ 食習慣に関して継続したタブレットを使ったアンケート調査。
・ 企業と連携した体位・体格の測定

実践内容(方法)
・ 食習慣(朝食9改善を図るため、タブレットを使ったアンケート調査用ソフトを企業等と連携して開発、継続した調査をもとに、企業の専門的知識を生かした指導、授業、講演、諸外国との食習慣との比較等を行い、結果を分析し、その成果を確認する。
・ 家庭科や学級活動と関連づけたええ栄養教室・健康教室を担任・養護教諭・栄養教諭が連携した指導をクラス単位、学校全体で行う。そのために、一斉指導の場、地域への後方活動の場として、ランチルームを整備する。
・ 運動量を把握するため、歩数計やアンケート調査を企業と連携して行い、運動習慣と健康の関連を検証する。

〔引用終了〕

ここで「企業と連携」という言葉が複数回出ています。この企業がどこかはこちらに出ています。

”株式会社 タニタ 現在食育に関し共同で研究に取り組んでいる会社です。”
武雄市立若木小学校:各機関へのリンク

タニタ TANITA

スーパー食育スクール事業では他にも多くの学校が参加しています。この中でテーマにICT関連と思われるものがある別の小学校を見てみましょう。倉敷市立西阿知小学校、テーマは「食育支援システムを活用した、健康な食習慣の確立及び自己管理能力の育成」です。

倉敷市立西阿知小学校:平成26年度 校内研究

こちらではすでに市販されているソフトウェアをカスタマイズしたものを利用しているようです。このソフトウェアを利用した活動について、以下に記述されています。

食事診断ソフトと学校給食ホームページを連携した食育の推進
-楽しく行う家庭科の授業- (PDF)

名称から推察して、このソフトウェアをカスタマイズしたものだと思われます。

ヘルスジャッジ3

時間切れになりました。続きは後で。

倉敷市の事例ではシステムへの入力内容は性別・年齢・身長・体重・身体活動レベル・食事内容だそうです。これらを含むデータについて、以下のように認識し、対応されています。

”「くらしき市版ヘルスジャッジ」は、センシティブな個人情報を扱うことにもなる。そこで、児童生徒を特定するID・パスワードは、期間限定でランダムなものとして作成することにした。また、名前などは必須とせず、次回使用する際には、同じIDと違うパスワードを利用するようにした。このように運用することで、個人を特定されないようにし、また前回の履歴を利用することも可能にしている。”
http://www2.japet.or.jp/yume/24seika/G33iwasaki.pdf

身長、体重などの身体計測による情報は機微(センシティブ)な情報であると認識しておられると考えても間違いではないと思います。対応策が十分かどうかについてはここでは検討いたしません。データが平均から著しく異なるものであればそのデータ主体について特定することは不可能ではありませんし、IDが一意であれば、変化の傾向でデータ主体を特定するということも考えられなくはないからです。

むしろ、このエントリで考えたいのは事業を実施する組織が児童の身体計測情報をどのように認識しているかです。

倉敷市の活動について記載された資料へのリンクは事業が実施された小学校のサイトに貼られていました。対象児童の保護者の方もご覧になれるように。資料自体はどうやら日本教育情報化振興会が行っているICT夢コンテストへの応募資料であるように推察されます。このような資料はその存在を知らなければ探し出すことは厄介です。しかしリンクを貼ってあれば簡単に閲覧できます。データ主体とその保護者に何が行われているかを積極的に知らせようという姿勢が垣間見られます。

武雄市の小学校のサイトでも情報を出していないというわけではありません。食育についてまとまったページを設けてはおられます。

武雄市立若木小学校 食育の部屋
http://cms.saga-ed.jp/hp/wakaki-takeo-e/home/template/html/htmlView.do?MENU_ID=22435

ここでは以下の内容を閲覧できます。

食育タイム
食育ノート
食育コーナー
食育だより
食育に関する計画
5校時給食キャッチフレーズ
5校時給食月目標
給食献立表
スーパー食育スクール
食育講演会・課題解決授業
栽培活動

こちらをざっと見て、どのようなシステムを用い、どのようなデータを取得するのかを見つけることができません。無論、私の探し方が悪い可能性は十二分にあります。

倉敷市も武雄市も、市立小学校での事業ですから、個人情報の取り扱いについてはそれぞれ市の条例が適用されます。

倉敷市個人情報保護条例(PDF)
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/12068/H16-kojinjorei.pdf

武雄市個人情報保護条例
http://www.city.takeo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/r302RG00000036.html#e000000118

どちらの条例にも機微情報についての記述はありません。

現在の日本の個人情報保護法には機微情報について特段の扱いを求める定めはありません。年少者の情報の取得についても同様です。

個人情報の保護に関する法律
(平成十五年五月三十日法律第五十七号)
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%b1&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H15HO057&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=2&H_CTG_GUN=1

今国会で提出されるであろう改正案には機微情報について「要配慮個人情報(仮称)に関する規定の整備」という方向で盛り込まれるようですが。

パーソナルデータの利活用に関する制度改正に係る法律案の骨子(案)(PDF)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai13/siryou1.pdf

この内容には各所で議論を呼んでいる利用目的の制限の緩和も盛り込まれていますが、機微情報相当のものについては除外されています。

”利用目的の制限の緩和及び本人同意を得ない第三者提供の特例の対象から除外する。”
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai13/siryou1.pdf

児童の身体計測情報は「機微な」情報ではないのでしょうか?