182.会いたい会えない | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

182.会いたい会えない

<土曜の夜、そっちに行きます。日曜朝からソフトで、いつもソフトのついでに思われるかもしれないけど違うからね!金欠なので、お泊りは無理っぽいが、いい?>
別れを告げられてから1ヶ月後のことだった。
<会いたくない>
私は彼にそう告げてた。
<ん?!会わない方がいいって事?>
<会いたいけど、会いたくないの>
強がりだって自分で気付いてるけれど、素直な気持ちでもある。
さよならをした彼が、デートに誘ってくれる程に気持ちが戻った証でもあるけれど、私は会いたくなかった。
うぅん、会っちゃいけないと思った。
自分の気持ちに妥協しないって強く思った。
彼にホイホイついていったら、きっとまた別れを切り出す時が来ると思うから。
彼を試そうとしていることも解かっている。
結論は出ている。
結局私は彼と会うんだ。
だけど、彼に惚れてるばかりじゃ悔しいから…。
<会わない方がいいんか?やっと取れた休みやけど…>
<今度は私の為だけに会いに来るって言った>
私は、今まで彼に要求したことをこの言葉に凝縮して言った。
直ぐに答えがでなくったっていい。
だけど、私の事ちゃんと考えて欲しいと思う。
少しくらい無理をして欲しいと思う。
不安な分、余計に言動で安心させて欲しいと思う。
もっと沢山話をして欲しいと思う。
もっと気持ちを聞かせて欲しいと思う。
会う前にお泊りの話をして、抱くだけの女を臭わせないで欲しい。
好きだって言って欲しい。
会いたいって思って欲しい。
今、彼の心にあるだけの100%で私を愛して欲しい。
私は、そんな彼を待っている。
私の100%満足するものなんて求めてない。
彼の精一杯が欲しい。
<言った事は確かやけど、ごめんな。でも、土曜はせのりの為に空けたんよ。あてつけがましくて、勝手な言い訳に取れるけど…>
<言い訳だと思うなら、言い訳にならない言葉を言ってよ。いつも私の都合も聞かないで急に来るとか言うし、2日後の急遽決まった予定が私の為?ソフトはそのずっと前から決まってたんでしょ?ついでだと思わないほうが不自然だよ>
彼の返事はなかった。
私の4通目は行方知れずだ。
後悔するな私、と自分を励ます。
別れ話を二度としないためにぶつけた気持ちは逆効果だったのだろうか。
デートに誘われて、とても嬉しかったけれど、悲しさが押し寄せる。
結局彼は、「好きだ」とか「会いたい」とか言わなかった。
私が彼を好きだから、彼は仕方なく会いにくるようなそんな気が襲う。
私だって彼が私を好きだから、彼に会うんだと少しくらいは思いたい。
…それだけじゃ寂しいけれど、お互いそう思いたい。


次の日、金曜の夜に彼からまたメールが届いた。
<お疲れさん。明日、行かない方がいいんやね?少しでも会うことは出来ると思ったんやけど>
何処まで彼は自分優位なんだと思った。
ここまでくると腹が立つ。
私は謝らねばならない立場なのだろうか。
思ったんだけど…何?!その続きは、だったらもう会わないよですか。
<何で急に会いにくるわけ?私が何度会いたいって言っても会わなかったのに何で明日なわけ?>
俺が会いたいから…彼の返事を想像したけれど、彼からの返事はなかった。
そんなに難しい問いではないはずだ。
彼にとっては難しい問題だったのだろうか。


会わない、そう言ったまま彼がデートに誘ってくれた当日になってしまった。
結局会うのだと決めていたのに、欲しい言葉を聞けぬままの今日。
自分が今やっていることの是非が交互に押し寄せる。
苦しい一日で、日が欠け、徐々に自分が悪かったのだという思いが大きくなる。
好きなら何でもありか?と自分を責めた。


<ただ会いたいだけやった…。今日は会社のソフトボール大会で高槻に行ってました。やっぱりせのりに会いたいからこれから行きます。着替え持ってきてなくてジャージやけど…。8時くらいに迎えに行きます。ご飯は食べないでください>
月が光りだした頃、彼からメールが届いた。
もう会えないのだと思い込んでいた私は、脱力。
そして、ソワソワした。
鏡台の前の時計を見て、あと2時間だと確認する。
そしてふと鏡にうつった自分を見て慌てた。
ちょんまげ頭の私。
バッとちょんまげのゴムを取ると、私の頭は魔法使いサリーちゃんのパパ状態だ。
シャワー浴びなきゃだ…。
そだ、とりあえず、彼に返事しなきゃだ…。
<解かった。私もずっと会いたかった>


シャワーを浴びて部屋に戻ると、携帯が忙しなく音を立てながら踊っている。
今にも机から落ちそうだった。
<風邪で唇に熱の花できてんねん。不細工やけど、許してな>
彼からだった。
熱の花?!
<唇に花咲いてるん?頭じゃなくて?>
<ただの腫れもん!熱が上がるとできるねん。もうかさぶたやけどな。頭に花咲いてるんはお前やろ!ファミレスでいい?>
<うん、いいよ。へ~、もう熱ないんやんな?仕事忙しかったんやね。本当ゆうじって仕事忙しいと熱だすねんね>
彼とのメールの会話は続く。
夢中だった。
クシャミが出て、自分が今バスタオル1枚だった事に気付き、やっと私は携帯を置いた。
化粧をして服を着て髪を整え、また化粧の続きをする。
<せのり、大塚愛の「大好きだよ。」って歌える?>
<知らない。「もういっかい!」なら>
妙に構ってくれる彼、嬉しい反面、支度が進まないのにとりあえず今はもうメールはいらないと思う私のワガママ。
仕事をしている彼と、休みの日の彼って本当に別人だと思う。
私の顔はなかなか出来上がらない。


<ついた。準備できてる?>
<はぁ?1時間も早いやん。出来てるわけないやん>
<今まで何やっててん!>
<話しかけてくるからやろ>
<あとどれくらいなん?>
<8時だよ!8時!!>
<ふーん、少しでも早く会えると思ったのに>
<自分で8時って言ったんでしょ>
<んじゃ、実家戻ってくるわ>
嬉しいと思う反面、やっぱり彼の自分勝手さに腹が立つ。
そして10分もたたぬまに…。
<もういいじゃん。出来てなくてもさ。降りといでよ>
<実家行ったんちゃうん?!まだダメ、目ぇちっこい!>
<いいって。早くー>
彼に言われるままに、私は家を出る。
出たけど、もう一度玄関に戻る。
何だか彼に会うのが恥ずかしい。
鏡の前でじっと自分と見詰め合った。
携帯がなる。
彼からの催促に私はまた急いで家を出た。


別れ話をして、さよならを言われて、会うことは出来ると言われ、私の告白で何となく元に戻ったような毎日を今まで送ってきた。
それから彼は一度も「好き」だと言ってくれなくなった。
今日はどんな想いで会いたいと思ってくれたのだろうか。
私たちは恋愛をしているの?
彼の強引さに負けた私。
少しだけ悔しい。

不安の残る私の顔は不細工だと思った。

鏡に映った自分を情けなく思いながら、彼の車まで笑顔になれる練習をした。



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