116.嬉しさと寂しさの共存 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

116.嬉しさと寂しさの共存

彼はしばらく携帯を眺めていた。
メールを打つ素振りもなく、ただ、ずっと眺めていた。
液晶が暗くなると、ピッと画面を明るくして何かを見ていた。
何をそんなに見る必要があるのだろうか。
私はそんな彼を、横目で盗み見ていた。


「うわ、中ちゃんから電話あったんや」
彼の不思議なテンションにあっけに取られた。
「中ちゃんな、俺の親友やねんけど、俺が上京してから殆ど連絡とってなかったてん。懐かしいなー」
彼は、中ちゃんという親友の話を何故か急に私にしだした。
「中ちゃん・・・?」
「うん、そう。ちょっと電話していい?」
「う、うん」
「中ちゃん呼ぼうか!久しぶりに会いたい」
彼のそんな一言に、私は相づちさえ出来なくなった。
胸が痛くなって、じわっと涙が目に浮かんで・・・。


私、こうやって二人で会える日をどれだけ期待して待っていたかわからない。
殆ど連絡もなくて、それでもまた会えると信じて寂しさ押し殺してきた。
私たちには「会いたい」理由があやふや過ぎて、それがいつ失われるかわからない。
明日もまた会いたいと思ってくれるのだろうか、不安で堪らない。
急に呼び出された今日、私は押し殺したままの感情を切り替える事が出来ずに、癒されることなく、嬉しさと寂しさが常に入り混じった状態だった。
こんな状態を説明なんてできないけれど、彼が側に居ると実感したかった。
嬉しさで、寂しさふっ飛ばしたかった。
なのに、なのに・・・。
彼は会ってからもずっと、私から離れて行こうとした。
会っていても、彼が私の隣にいる理由が見つけられなくて、不安だった。


何故、私たちは今こうして二人でいるの?
親友に会いたいと思う気持ちと同じなの?


私は深く深呼吸した。
冗談、これは冗談だと言い聞かせて。
「呼ぼう!中ちゃんに会いたいな」
多分、私は笑顔でそう言った。
「うーん、でも、もう夜遅いし寝てそうやしやめとく」
「そうなん・・・」
「ケーキ食べに行こう」
彼は、車のエンジンをかけ、車を発車させた。


ケーキを食べる為に向かったファミレスまでの道、私たちはずっと無言だった。
彼がどんな顔をしていたのか私にはわからない。
私はずっと、景色が流れる窓の外を眺めていた。
涙がポロポロと流れていて、彼の方を向く事ができなかった。
涙を拭う仕草さえできなかった。
泣いているなんて知られたくない。
ケーキを食べに行く事が、果たされるべき義務に思えた。
何故彼は、二人で居たいと言ってくれなかったのか・・・。
疲れてるんだ・・・。
眠たいんだ・・・。
帰りたいんだ・・・。
私の中で彼の言葉がグルグルと巡った。


信じるだけじゃ物足りなくて、会っている理由を確かめたかった。

聞きたい言葉何ひとつ聞いていない。

言いたい言葉何ひとつ言えていない。



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