107.嫌なだけ・・・ | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

107.嫌なだけ・・・

思いっきり勘違いしながら心配してくれた彼。
心配ついでにどんな話をしたか伺ってきた。
私が飲み会の話をすると、やっぱり彼は不機嫌に・・・。
女性も主婦だし心配ないのだと説明すると、ドンドン話は脱線していった。
行かせたくないからなのか、それとも・・・。


「やっぱやめとけ」
「なんで?」
「子供放ったらかしにするような奴と仲良くするな」
「ちょっと待って、母親は遊んじゃいけないわけ?」
「お前さ、自分の母親見てどう思ったよ」
「・・・でも、それはおかしい」
「お前も全面的に肯定できないんだろ」
「それは自分の親を見てきたからだよね。寝かせて、父親に任せてきて何処が悪いの」
「目を覚ましたとき居なかったら、寂しいだろ」


私は何も言えなかった。
肯定も否定も出来なかった。
女として、人として、親として、子供として全ての立場に立ってしまうと何も言えなかった。


「そりゃ、親にも遊びは必要だと思う。だけど、友達となら昼間に子供つれて出来るだろう?飲みたいなら旦那と出来るだろう?そうしたいと思って一緒になったんだろう?遊べないと解かって子供を産んだ。違うか?」
「行かない・・・」
「別にお前に言ってるわけじゃないよ」
「行かない!」
「俺は、お帰りって言ってくれる母親が欲しかったよ。目を覚ましてトイレに付いてきてくれる母親が欲しかったよ。俺の親は遊んでたわけじゃないし、働いてたわけだけど、親が居ないと寂しかったよ。自分が親になったら、そんな想いはさせたくないんだ」
「私もだよ」
「否定するわけじゃない。嫌なだけなんだ・・・」
「うん」


嫌なだけ・・・。
だから、何も言えなかった。
「行かないで」そんな風に言えなかった。
子供の頃からずっと、肯定も否定もできなくて、ただ嫌なだけだから言えなかった。


「彼女の元に戻らないで」彼にはそんな風に言えない。
そう、ただ嫌なだけだから。
彼が彼女を選ぶことを間違いだなんて、言えないから。
こんな関係を胸はって間違いだって言えないから。


「行くな」何故、彼は私に言えたんだろう。
ただ、嫌なだけなのに・・・。
私は嬉しかった。
だから、「行かない」そう彼に言った。
言いたかった。
私も彼もずっと我慢してきた。
「いい子で待ってるのよ」そう言われて、待った。
彼には私が「行かない」と言う自信があったのかな。
それとももう慣れっこだったのかな。


私には彼が「ずっと側にいるよ」そんな風に言ってくれる自信がない。
「待っててね」そう言われて、私はまた大好きな人を待ってるんだ。
いい子にしてれば戻ってくるよね、そう信じて待ってる。
戻らない母を思い、少し馬鹿馬鹿しくなったけれど、捨てられない想いなのだ。
「行かないで」そう言うと、捨てられてしまう怖さ。
私には言えない。


ただ嫌なだけで、相手を引き止める程私は・・・。
この言葉は言いたくない。
言ってしまったら本当のような気がしてくるから。
もしかしたら違ってたかもね、永遠にそう思っていたい。
真実なんて知りたくない。
ずっと待ち続けていればいい。
捨てられたことにさえ気付かず思い続けていればいい。


そう思う気持ち跳ね除けて、「行かないで」と言いたい。

まだ、私の口からは出ようとはしない。
嫌なだけで・・・。


ただ、私は「大丈夫、ちゃんと戻ってくるから」とは彼には言いたくなくて、「行かない」と言った。

不安にさせたくなかった。

いつも彼の側に居たかった。

私は彼にも言うべきなのかな・・・。

彼が言ったように。


もう待ちたくない。



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