65.側に居るのはあなたじゃない
男からの着信がある度に、彼へ電話をした。
男からのメールがある度に、彼へメールした。
男から私へ、私から彼へ、彼から私へ、私から・・・やっぱり彼へ。
<ねぇ、このシカトいつまで続けたら終わるの?>
私は随時男の行動を彼に愚痴った。
<彼の事ばっかりやね、何だか寂しいよ>
そんな私に彼はこういった。
<ごめんね、でも、あなただけを考えることは今は難しすぎるよ。シカト、つらい>
<そうだね、ごめんね。でも、俺の言う通りにしなくてもいいんやで、連絡したかったらしたらいいんやで>
<そうしたいと思ったからしてるんだよ。でも一人じゃ怖くて、聞いてほしいの>
<あぁ、聞くよ。なんかあったらいつでも連絡してこい>
彼の返事があるから、この状況に耐えられているように思えた。
だけど、そんな道筋も一方通行な時がある。
彼は社会人になってた。
あの頃とは違った。
返事が返ってこない事に不満を覚える。
「会議中」の伝言に寂しくなる。
次第に男からの着信とメールで埋まる携帯。
どんな思いで私は男からの電話をうけたのだろうか。
よく解からない。
「やっと出てくれた」
「・・・・・」
「俺、よく考えてみたよ。俺、せのりの事何もしらなかったなって思った」
「それで・・・」
「ちゃんと考えたんだ、でも解からなかった。だから知りたいと思った」
「うん、考えても解かる筈ないよ。沢山話して知っていかなきゃいけなかった事だもん」
「教えてほしい。どんな事だって聞くよ」
「レイプされた」
「え?」
「レイプされた」
「・・・・・」
心無く私が男にそう告げてから少しの無言な時が流れた。
レイプされたと言われて男性はどんな反応をみせるのだろうか。
私は男に知って欲しかったわけじゃなかった。
どんな反応を見せるのか私が知りたかったのだ。
無言・・・・。
「俺は・・・別にいいよ」
「私は嫌」
「俺が癒すから」
「私はもう癒されてる」
「じゃぁ、俺は何をすればいい」
「もう連絡してこないで」
「それしかないの?」
「他に何がある?」
「もっと俺の事も見てよ」
「見る気はない。あなたの連絡は苦しいだけ」
再び訪れた無言に私は電話を切った。
決着をつけようとしたのだろうか、それとも男に何らかしらの想いがあったのだろうか、それとも・・・何だろう続きが出てこない。
理由は他にあるような気がしたけれど、出てこない。
彼に、男は私を愛していたなんて言われたからだろうか・・・。
私は何を思う?
男からの折り返しの着信・・・。
音のない光だけを放つ携帯をよそに、私は眠った。
馬鹿・馬鹿・馬鹿と液晶は光ってる。
そう、私が馬鹿なんだ・・・と、眠った。
<おはよう、仕事が忙しいよ。大丈夫か?電話出てないか?返事してないか?あかんで!俺は何だか最近寝不足です>
<おはよう、ご苦労様。電話、出たよ>
<そか・・・。何て?>
<別に変わらない>
<何で出るん?>
考えた、いっぱい考えた。
気持ちに気付けぬまま、私はメールを打っている。
私は一体どんな気持ちだったのだろうか。
送信画面を確認する。
<放ったらかしにするからじゃん。彼氏は別れないって言いながら毎日連絡してくるんだよ。少しでも早くあなたの事だけ考えたいのに。望まないけど私の側にいるのは彼氏なんだよ。それが現実なんだよ。あなたとは遠く離れてるのに、連絡もなくなったら怖いの!だから自分で何とかしようと思ったんじゃん>
そうだったんだ。
いや、そうでした。
口にして初めて自分の気持ちだと確信する。
私は彼に対してこんな風に思っていいものなのかという不安があった。
だから気付かないフリをしていた。
口にする前に気付いてしまったらきっと、私は彼に言わなかったと思う。
いや、彼に伝えたくて気付かないフリをしていた。
気持ちを押し殺す前に、彼に伝えたかった。
<近くにいてやれなくてごめん>
そして、彼の言葉がより私の想いを確かにする。
でも不安はまだ残る。
彼の近くに居るのは彼女のような気がする。
こんなにも彼に望んでもいいものなのだろうか。
男性にこんなにも期待したことなんて一度だってなかった。
彼といると、私は思いのまますぎる。
「側にいて」そう思った。
そう思ったら、素直な自分とは裏腹に、彼へと返信する。
<ごめんなさい。わがまま言い過ぎた。ちょっと私変になってるんだわ、きっと。もう電話には出ないよ。出ても変わらないこと解かったから。何だろうね、何故かあなたを頼ってしまう。何とかしてくれそうな気でいた。あなたに触れていることで、彼氏と別れられる気がした。けど、連絡なくて別れられない気がした。おかしいね・・・。携帯からあなたの名前が消えて、急に怖くなった。でも、もう大丈夫だよ>
彼からの返事はなかった。
私が強がると彼はいつも黙った。
メールでも電話でも会っている時でも。
私はそんな彼の沈黙に胸を痛める。
私は嘘つきです・・・。
大丈夫なんかじゃないのに。
また、男からの着信を携帯が知らせている。
大丈夫なんかじゃない。
彼が遠い。
「守る」って言ったじゃん。
もっともっと守ってくれないと、私は大丈夫になんかならない。
どんどん彼を求めてしまう。
わがままになる。
恋愛って怖い。
「彼女」って、こんな想いを伝えられる特権なんだな。
でも、私は彼女じゃないから・・・。
何処まで、彼に伝えていいのか解からない。
私の側に居るのは、彼がいい。