映画「スノーデン」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 2013年6月、元NSA(米国家安全保障局)職員であるエドワード・スノーデンが、英ガーディアン紙を通じて、米政府が秘密裏に構築した国際的な監視プログラムの存在を暴露した。そこには、テロ対策の名目で、同盟国や一般市民の個人情報まで監視対象となっており、世界中に衝撃が走ったのだった。 
 
 本作では、スノーデンの暴露までの知られざる経歴を描いている。彼は高校卒業後、家計を支えるためとして、陸軍に入隊するが、もともと体が頑強ではないのと、アクシデントによる大けがで除隊する。その際、軍医から、他の分野で国に貢献しろと言われ、CIAの採用試験を受けた。彼が独学で身に付けたコンピュータの知識は教官も驚くほどで、並み居る競争相手を横目にすんなり採用となるが、やがてその活動に疑問を持つようになり、辞職。 その後、民間IT企業に職を得て、そこからNSAに出向し、機密情報にアクセスできる立場で業務に携わる。そしてついに、”事件”を引き起こすに至る。
 
 さて、”スノーデンは英雄か。犯罪者か―。” 結論から言えば、どっちもかなと。英雄は言い過ぎにしても、スノーデンが暴露したCIAやNSAによる違法かつ憲法違反の諜報・監視活動は、彼の暴露なしには歯止めは効かなかったのも事実だろう。劇中、ニコラス・ケイジ扮するCIAの教官は、かつて上官に同組織の活動の違法性に苦言を呈したため、窓際の部署に追いやられていた。なお実在する元NSA職員のトーマス・ドレイクは、「2001年の9・11後、NSAの対テロ対策巨大監視プログラム『トレイルプレイザー』投入に不満を持ち、NSAが9・11以前から憲法違反の国民盗聴プログラムに乗り出していたことを報道機関にリーク。2007年にFBIによる家宅捜索を受け、35年の刑を言い渡されるが、2011年に米政府はドレイクが機密文書を自宅に保管していたという謝罪を認めさせる代わりに大きな嫌疑を取り消し、現在は保護観察処分」(本作パンフから)となっているのだ。 
 
 それでもなお、劇中、スノーデンの指導教官であるCIAのコービンは、違法な国民監視を安全な国家に住むための”入場料”だとうそぶく。元々、共和党支持で、リベラル派を嫌っていたスノーデンは、年収20万ドルという恵まれた待遇を敢えて蹴って、亡命覚悟で事件を引き起こし、受け入れ先のロシアから米国では公正な裁判が期待できないと帰国を拒否したが、その彼の蛮勇に内心快哉を叫ぶかつての同僚たちもいたのだ。スノーデンとすれば、他の手段をもって換える術はなかったと言えるだろう。
 
 ただ、彼の暴露によって同盟関係に衝撃をもたらし、敵性国家には米国非難の口実を与えた。そもそも機密漏洩は国家反逆行為であり、各国が厳罰で臨んでいる。当初、スノーデンの亡命要請にベネズエラなど筋金入りの反米国家以外は、二の足を踏んだのはこのためだ。スノーデン自身は、私利私欲に基づくスパイ行為でなく、純粋な正義感や使命感が強かったろうが、恋人とのプライベートまで監視され危機感を抱いたと同時に、国家に裏切られた感情も抑え切れなかったのだ。
 
 米保守派コラムニストのチャールズ・クラウトハマーは、スノーデンとNSAの問題について、「教育は不十分、雇用されたばかりで、職を転々とし、尊大なエドワード・スノーデン氏が、なぜあのような権限を与えられいたのか」と指摘し、この教訓から汲み取るべきは、「このような重要な計画を廃止することではなく、修正することだ」と説いている。(世界日報2013年6月18日付国際企画面)
 
 なお、スノーデンが暴露した情報収集活動に対して、「監視は民主主義への脅威」との批判に、当時のアレグザンダーNSA局長は、下院公聴会で、「世界20カ国以上で、50件以上のテロ計画を阻止した」と証言し、その有効性も見落とすべきでない旨述べている。(世界日報2013年8月11日社説から)
 
 対テロ戦は、ピッチャーvsバッターのようなもの。圧倒的にバッターが不利で、プロ野球で3割打者ならトップクラスだろう。それでもピッチャーはルールに従って投げてくるが、テロリストはルール無用だという点。相手はルール無用で攻めてくるのに、守る側は法で雁字搦めでは勝負は見えている。そういう意味ではこの問題は、上述のクラウトハマーとアレグザンダー局長の指摘に尽きるのかなと。もっとも、当事者でない者が外野から評論するのは簡単ではある。
 
 ところで、トランプ米大統領はこれまで、メディアへの不信感とともに、情報機関にもその矛先を向けてきた。ロシアによるサイバー攻撃が、大統領選でトランプ氏を勝たせる目的だったというCIAの分析が報じられたことやトランプ氏が過去にモスクワ滞在中のセックススキャンダル(真偽不明)がメディアで報じられたことに対し、当のトランプ氏はこれを情報機関のリークと疑っているようだ。スキャンダル報道についてはプーチン露大統領も「売春婦に劣る」と強い表現でトランプ氏に歩調を合わせた。
 
 このような情報機関の問題について、世界日報ワシントン特派員の早川俊行氏は、1月16日の世界日報トップ記事として、米シンクタンク「安全保障政策センター」上級副所長であるフレッド・フライツ氏の見解を紹介しながら、以下のように報じた。「フライツ氏は、『情報機関が大統領や大統領候補を傷つけようとした事例は過去にもある』と指摘。リベラル傾斜が顕著なCIAは共和党政権に露骨に反発してきた歴史があり、2004年大統領選では、CIA職員が再選を目指していた当時のブッシュ大統領を批判するスピーチを行い、物議を醸した」と。
 
 先般、トランプ米大統領はスティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問を国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加える一方で、国家情報長官と統合参謀本部議長を非常任としたことに、身内の共和党からも驚きと反発が巻き起こったが、上述の経緯からして、トランプ氏の真意、むべなるかな。 
 
 それはそうと、本作の内容はともあれ、主役であるスノーデン役のジョセフ・ゴードン・レヴィットの一瞬本人かと見紛うほどの徹底した役作りと演技は拍手モノでした。
 
(出演)
ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー、メリッサ・レオ、ザカリー・クイント、トム・ウィルキンソン、スコット・イーストウッド、リス・エヴァンズ、ニコラス・ケイジ
(監督)オリバー・ストーン