人間は自分だけでは解決できない問題や、人生の転換点に、神仏にすがる傾向があります。ちなみに父の葬儀は仏式で執り行いました。檀家付き合いや墓はなく、父も私も特定の信仰はなかったのですが、現役の経営者だった父の葬儀にはそれなりに参列者が見込まれたのでオーソドックスなスタイルにしました。そして、私はこれを契機に仏教の基本を初めて学んでみました。

 釈迦は29歳で出家しましたが、それは「生老病死」という人生における免れない苦悩からの解決を目指したためとされています。

さらに、人生の苦は生老病死の他に四つあります。

愛別離苦…愛する人と別れる苦しみ
怨憎会苦…怨み憎む者とこの世で会わなければならない苦しみ
求不得苦…欲しいものが手に入らない苦しみ
五蘊盛苦…人間の体や心の欲望が適えられない苦しみ

 そして、苦の原因は欲望や執着といった煩悩であり、煩悩は無明という人の心の中の闇から発生するとしています。

無明について釈迦はこのように説いています。

人は苦をいとい幸せを求めている。だが、金を得ても、財を築いても、常に苦しみ悩んでいる。王や貴族とて皆同じである。それはなぜか。苦しみの原因を正しく知らないからである。金や名誉で苦しみはなくならぬ。無ければ無いで苦しみ、有れば有るで苦しむ。有無同然である。毎日を不安に過ごしている。たとえば、子供のない時はないことで苦しみ、子供を欲しがる。しかし、子供があればあったで、その子のために苦しむ。この苦しみの原因はどこにあるのか。それは、己の暗い心にある。熱病の者はどんな山海の珍味も味わえないように、心の暗い人は、どんな幸福も味わえないのだ。

 仏教では自分の暗さ、愚かなことを自覚して、いくらかでも無明に光が届くよう努力することを説いています。そのために実践する修行を8つの正しいおこない、八正道と言います。

正見…正しい見方、認識。事実をありのままに見ること
正思惟…正しい決意、意欲、思いに基づいて考えること
正語…正しい言葉。他人の悪口を言わないこと
正業…正しい行為、その積み重ね。殺生、盗み、淫らな行為を避ける
正命…正しい方法で生きる糧を手に入れ、生活を送ること
正精進…正しい努力。正しい生活を維持し続けるよう努力すること
正念…正しい思念、気づかい。教えを記憶し、正しい生活を自覚し、励むこと
正定…正しい瞑想、精神統一を行うこと

 先にも述べましたが私は特定の信仰を持ちませんので、当然、仏教修行は行っておりません。そもそも宗教を盲信することは人生に向かい合う正しいスタンスとは思いませんし、人生の苦悩という万人が陥るジレンマについて、出家するといったごく一握りのに人しか実行できない特殊な方法でしか解決できないのであれば、それは現実的には解決できないということです。ただし、釈迦の教えを哲学として捉えると今の私にとって示唆に富むものです。
(続く)