■申込みが入ったはずの物件はまだ売れていなかった

 このことは顧客からの物件確認の依頼を受けた不動産会社が、物件を取り扱っている不動産業者に問い合わせたものの、取扱いの不動産会社は物件が売れていないものの紹介を断ったということです。

 物件を取り扱っている不動産会社は仲介手数料の両手取りのために他の不動産会社と共同仲介をしないスタンスなのです。その場合、問い合わせをしてきた不動産会社に対して断り文句として、業界慣例で「商談中です」と言います。

 問い合わせをした不動産会社としてはそのことを顧客に正直に伝えると、直接取扱いの不動産会社に行かれてしまうので、物件に「申込みが入った」とか「違うお客さんで決まる寸前」とか言ってその物件を諦めさせようとします。

 このような対応を実が私もしたことがあるので偉そうなことを言える立場ではありませんが、もし窓口の不動産会社がこのように自社の利益の為だけに嘘を付くならば、遠慮なくすっ飛ばして取扱いの不動産会社に連絡すればいいでしょう。しかし、そうではないとき、窓口の不動産会社が顧客思いの親切な対応である場合、物件を取るか信義を取るか苦渋の決断をしなければなりません。

 逆に取扱いの不動産会社の対応に問題はないのでしょうか。売主から不動産売却の依頼を受けて専属専任媒介ま契約たは専任媒介契約を締結した場合は、不動産会社は物件の情報を不動産流通機構に登録する義務があり、その登録情報は不動産会社であれば閲覧が可能です。ただし、義務は登録までで問い合わせに対し必ず紹介しなければならない訳ではありません。よって対応に違法性はありません。また、一般媒介であれば不動産流通機構に登録する義務すらありません。

 ただし、売主はそのような対応をしていることを承知しているのでしょうか。
通常、売主が物件の売却を不動産業者に依頼する場合、なるべく高い価格で、なるべく早い時期に買主を探してくれるよう望んでいます。事例のように直接の顧客にしか物件を紹介しないと客層を絞ると販売機会を逃す可能性があります。売主にその点の了解を取っていれば問題はないのですが。
(続く)