トイレが示していたダイエーの限界 「九州に黒船」今は昔 記者:川合秀紀 2014年9月25日西日本新聞配信


数カ月前、ヤフオクドームから遠くない、福岡市内のあるダイエー店舗に行ったとき、ちょっと信じられない体験をした。


衣料品売り場の階で男性トイレを探した。女性用下着売り場の目の前。中に入ろうとすると、その扉は、西部劇にあるような、押したら簡単に開く、上下部分が開放された、観音開きの片方だけのもの。衝立がないため、売り場からはトイレの中がかなり見える。戸惑いながら、ビクビクしながら用を足した。基本的な改修もできないというのか。店員に「何とかなりません?」と聞くと、「すみません」と平謝りだった―。


昨年、イオンの連結子会社になり再建を進めていると聞いていたが、福岡市内でもかなり人口の多い、繁盛しているように見える店舗にして、これだ。トイレ空間を充実させて集客を図る他社の商業施設と比べ、何という出遅れ。落胆というか、衝撃だった。


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24日、かつて小売り業界トップだったダイエーが、現在の業界首位イオンの完全子会社となることが正式発表された。イオンは、傘下のイオン九州やマックスバリュ九州(福岡市)主導のダイエー店舗再編を進め、「ダイエー」という屋号も2018年度をめどに消えるという。


ダイエーが1971年、福岡市・北天神に出店した際、「黒船襲来」と地元の小売業者に恐れられた。1989年のプロ野球ホークス買収以降は、特に「九州・福岡は第2の拠点」と重視し、積極的に進出した。


だが、1990年代後半から業績が悪化し、2004年には産業再生機構の支援を仰ぎ、ホークス売却や大規模な店舗閉鎖に追い込まれた。ピーク時の94年には九州に64店(直営)あったが、現在は39店に減っている。近年を見ても、西日本新聞社のデータベースで「ダイエー」の記事を検索すると、「閉店」や「(ダイエー)跡地」をめぐるニュースが目立つ。


一方で、丸紅やイオンの支援でリストラを進め、規模ではなく、足腰の強い経営を目指してきたはずだ。中には、再建を果たした店舗も少なくないだろう。社員の熱意や苦闘には頭が下がる。


イオンは24日の開示資料で、ダイエー完全子会社化について「『再建』偏重であった事業計画を、真に『成長』に転じる計画に変えていくため」と説明した。


ただ、客の立場からみると、「目の前」にあるダイエー店舗のいくつかは、「再建」うんぬん以前のレベルだった。もう「限界」が来ている。例のトイレに出くわし、そう実感した。イオングループの全責任のもと、(継続するなら)きちんと店舗と顧客に向き合った戦略をとってほしい。


24日午後、もう一度、例のダイエー店舗に行ってみた。トイレは、相変わらずの状態だった。私はそれでも、便利だから(継続するのなら)この店に行くだろう。だからこそ、このままでは寂しい。新体制による真の「再建」を待ち望んでいる。



「『再建』うんぬん以前のレベルだった」という記者の実感は、確かだろう。ダイエー傘下にあるスーパーの某店(現存)など、その建物は汚さを感じさせるに充分だった。「ここは物置きか?」と思った場所が、客が利用するスペースだったのだ。