(透視図)追い出し部屋―人選作業 透明化しないと… 2014年7月26日朝日新聞配信

「追い出し部屋」がまた一つ廃止に追いこまれた。

オフィス機器のリコー(東京)は3年前、グループで計1万人の削減を表明。希望退職に応じなかった社員を、倉庫など肉体労働の職場に異動させていた。これをとり消し、別の職場に移すと決めたのだ。


背景にあるのは、社員2人が起こした裁判だ。技術者だった2人は子会社に出向して製品のラベル貼りなどを命じられ、「自ら辞めるよう仕向けるための異動だ」と訴えていた。


東京地裁の判決は「人事権の乱用で無効」。経費を抑えるための異動の必要性は認めつつ、「人選作業の慎重さや緻密さに欠けていた」と批判した。リコーは控訴したが、今月18日に東京高裁で和解。「追い出す目的はなかったが、より能力を生かせる職場に再配置する」(広報)としている。


この問題を法廷で争う社員はほかにもいる。雇い主を訴えるのは勇気のいることだが、大阪地裁堺支部に提訴した藤本隆志さんは「なぜ自分なのか。説明のないままで納得できますか?」という。


子会社でコピー機の修理などを担当してきた。3年前に「成績が悪い」と退職を促された。「どこがダメか説明を」とくい下がり、幹部らと6回の面談を重ねた。具体的な答えはなく、倉庫へと異動になった。


裁判では、人事評価項目も明かされた。「顧客起点」「自己研鑽」「新たなことへのチャレンジ」など、数値化しづらい項目も並ぶ。面談マニュアルの存在もわかった。「論理的に説明して納得いただくのではなく、何をいっても会社の対応は変わらないのだとあきらめていただく」と書いてあった。


「説明できないのは、まともな人事評価をしていないからだ」。藤本さんの結論だ。


人事コンサルタント会社トランストラクチャ(東京)の林明文代表取締役は「日本企業の多くは細かな人事評価のノウハウがない」。チームワークを重んじ、個々の評価に差がつくのを避けてきたからだという。


安倍政権は、仕事の成果で給料が決まる「残業代ゼロ」制度に前向きだ。長時間働いても、成果が出ないと給料は下がる。では、成果とは何で、仕事ぶりの何をどう評価したのか。社員から聞かれ、いまの経営者や管理職はきちんと答えられるのだろうか。


追い出し部屋が減っても、裁判で指摘された「人選作業」の透明化がなければ、労使のぎくしゃくは解消しそうにない。(内藤尚志)



先に朝日新聞が口火を切って取り上げた「追い出し部屋」の問題だが、このほどリコーに対する判決が出た。このコラムもそれを受けて書かれたものだろう。だが私は一読して少なからざる疑問を覚えた。


コラム執筆者の真意を汲んだ読み方をしていないのだろうが、人選作業を透明化にすれば「追い出し部屋」が許容されるとでも言うのだろうか。


リストラという名の首切り対象者を列挙した生々しい表現が並ぶ人事考課表(他から見ればまだまだ春風のごときものであろうが、見たことあります。いやそれ以上)や、会社が追い出したい人物を指名するに至った理由を綴った書面をオープンにし、それがいかにももっともらしい文言と構成になっていれば、それでよかろうとでも?? そしてそのような状況が起こる可能性は否定できないだろう。「彼らは恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。成果を手に入れるためなら何だってやるのだ。それがまさに、彼らなのだ」。




このコラム執筆者はおそらくそうした事態を望んではいないのであろうし、人選作業を可視化すれば無茶な解雇事由が乱発されるだろうという期待を込めていると見るのがこのコラムの「正しい読み方」なのだろうが、そもそも企業が自分で雇っておきながらその経営の失策と見通しの甘さから手前勝手にクビ切りに走る一環の「人選作業」こそがそもそも問題なのだ。その意識は執筆子にどの程度あるのだろうか。「労使のぎくしゃく」などという、この問題の現実から見てあまりに甘ったるく牧歌的な表現を見ると、そうそう望みは持てそうもない。


企業存続のためならば、「追い出し部屋」設置という事態を招いた経営陣にまずメスを入れるのが、対費用効果の面でも順序というものであろう。