「引き寄せる力に憧れ、学ぶ気力を育む」(澤田良雄氏) | 清話会

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鬚講師の研修日誌(25)
「引き寄せる力に憧れ、学ぶ気力を育む」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆憧れの雲竜型土俵入り

憧れの雲竜型の土俵入りだ。憧れの初代若乃花が使用した鬼の化粧まわしを締めての晴れ舞台である。
“希な勢いで駆け上がる”四股名にはそんな意味が込められているがここまでの道のりは決して早いとは言えない。しかし、「努力で天才に勝ちます」と中学の卒業文集に書いた初心を貫き、初優勝決定の報を聞いた支度部屋での大粒の涙には感動した。

心技体、技量は十分、体は15年間たった1日しか休まなかった見事な身体だ。ただ、心の弱さが指摘されてきた。だが、幾度かの優勝争いの経験とプレシャー克服への努力が実り、安定感を醸し出していた場所だった。

結びの一番、この心技体の結集と起死回生の勝負技は「なにか他の力が加わった」と述べている。多分に、故親方や、支えてきた両親、支援者の期待感が結集された神ってる(昨年の流行語大賞)現象でもあろう。
 
「何事にも一生懸命向き合うことの大切さ」を母校の後輩に説いたとの報もある。模範は示した。今後も子供の想いを引き寄せる「憧れの人」の存在を是非大事にしていただきたいと願うのは、喜びを共にしている全人の新たな期待である。それには、「横綱の名に恥じぬよう精進いたします」と、口上で述べたさらなる心技体磨きの決意が頼もしい。

◆新人・後継者指導極意は「憧れ像」にある


実は、先般の製菓メーカーS社や経済団体主催での若手社員研修、大手製鐵K製鐵所のシニア研修で「憧れられる人」「引き寄せる人」のキーワードを際立てている。いずれも指導者としての指導効果の決め手はここにあるからだ。

なぜ? それは「このような人になりたい、どうしたらなれるか」、その欲求が学び力を高揚させるからである。前者は先輩の新人指導者で有り、後者は技能継承指導者である。

「しっかり聞きなさい、わからなかったらいつでも訊きに来い」といっても、何を指導を受けたらよいのか本人のニーズが明らかでなければ困惑するだけだ。やって見せ・言って聞かせての指導極意は目にする「憧れ像」がそこにある。だからこそ、どうしたらできるのだろうかの知りたい欲求が、言って聞かせるスッテップが生きる。「観て覚える」「まねぶ」(真似での学び)の指導は現在でも生きている。
 
知りたいことを即インターネットで知り得る時代だが、身につく学びは、目の当たりに将来像を観て、自発的学びで、憧れの人から直に学べることだ。こんな師弟関係での指導育成のほうが遙かに効果的。特に新人は「役立つ人になります」と言っても、得ている情報で描く人物像であり実像ではない。

継承する立場でも「あのような人」の現人(現実に卓越した専門力を持ちうる人)がそこにいるから、真似る、訊く、聴く事による吸収力が喚起される。早く近づきたい勢いが、自らに課せる錬磨であり体得ができる。だからこそ、指導の第一歩は生きた教材である引き寄せる人である。

◆引き寄せる人物条件
 
そこで、「憧れ力」を高める引き寄せる人物条件を若手社員研修で話し合った。その提案は、次の4点に集約された。

1.仕事が好きで会社に誇りを持っている人
2.言動に品位が有り、人間的に素敵と感じるオーラのある人
3.仕事の専門性が高く、実績をきちんと示している人
4.周囲からも一目おかれる信用(信頼)のある人


業界・立場関係がどうであれ、共通条件である。確認してみよう。

●仕事が好きとは職業観である。

稀勢の里は中学卒で相撲界に飛び込んだ。スポーツ選手・料理・芸能人には子供の頃からの夢と紹介する人が多い。若手社員には入社を決めた業種、担当する職種に職業観を持ち、その一人者を目指すことを指導する。だからそこに近づける仕事は楽しい。

とかく、この仕事はとか、うちの会社はどうのこうのという輩もいるが、それは、目指すことを確保できない浮遊感の表れだ。会社への評価、評論は入社を決めるまでのことであり、入社後は企業人になりきることだ。企業人とは、企業理念、文化、ルール、目標、役割に徹する、産み出す社会貢献の提供品に誇りを持っている。その一躍を担う喜働心を確立していることだ。そのためにも、活躍ぶりのモデルとしての憧れの指導者の存在は重要である。
 
S社は70周年、創業時から「私たちは愛と信頼を精神とし、夢と感動の世界を創造します」の経営理念で発展してきた。だからこそ、3年目社員としても憧れの先輩としての心技体が育っている。K製鐵所でも卓越した技能者の受賞、現場一筋の功労者として黄綬褒章受賞者を毎年のように生んでいる。まさに憧れの境地である。

●言動の品格は人間的魅力である。例えば自然と次のような施しが為される人だ。

① 人の出会いで、いい人に出会った、とほっとさせる挨拶上手な人、
② 感性豊かな、打てば響く言動で気配り上手な人
③ 感謝・謙虚・素直な人柄を自然に出せている人
④ マナー・身だしなみをT(時)P(場)O(目的)に応じて、素敵に対応のできた人
⑤ 場を生かす快話・挨拶・スピーチ上手に聴き上手な人
⑥ 明るい表情、さわやかな笑顔、そして相手との立ち位置に心した言葉遣いのできた人
経済団体若手社員研修では魅せ方講座を施し、実を高めた。それに、
⑦ 言行一致の信用できる人との条件。風呂屋の人(湯(ゆう)ばかりでは部下は3日で上役を見抜く、有言実行の言動力である。

●仕事の専門性とは、その道のプロで有り、基本徹底に応用力、さらには改善力を加える人である。

大事なことは経験値、経験智が生きた実績として示していること。実績を上げ、認められたい欲求に応えた指導での、言って聞かせどころの「なぜ、どうして」の論理的根拠の説明、説得力の素がここにある。
 
S社では若手社員の時期に多能化育成戦略を実施中である。全社的視点で状況を捉え、例え、急なる他部署支援でも、一役をきちんとこなせる人財へとの取り組み中である。
 
K製鐵所の熟練者研修でも以上の内容を確認し、専門力の高さ、深さ、広さそして先を予測した先手の対応力を技能継承として、後継者に分身の種として植え付ける楽しみを確認している。即ち「仕事上手と心の通わせ上手の」人徳ある指導者としての引き寄せる力が活きた指導実践である。
 
そこには、本心、本気での取り組みで本物の魅力ある人物像がある。多分に辛苦との直面を不退転の覚悟で乗り切ってきた体験が為す魅力である。

だからこそ、自発的興味を掻き立て「どうしてそうなる」「どうしたらよい」等の訊く学びを楽しませる。問いに応えた指導プロセスでは引きつける魅力の眞随が明らかとなり、そこに尊敬と信頼の深まりが、より効果的指導が創造される。

◆自発的学びは沸き立つ活力が基

 
訊く学びとは「自発的学習」である。学びの気力である。気力とは困難などに堪え、物事をやり通す強い精神力の意味だ。
 
新年となり新たな想い、目標を掲げて取り組みを為している現況である。目標とはできていないこと、目標達成とはできていなかったことをできたにすること。その過程では新たな智恵を施す。新たな智恵は新たな学びによって産み出される。ふっと湧いた、ヒラメキもインプットなくして起こらない。勿論第六感という境地もあろうが。
 
自発的学びの気力の素は、憧れ力に基づく自発的に掲げた想い・目標に向けての「心」である。それは、義務感でなく活き活きと沸き立つ活力による達成への楽しむ気概である。そこには自由裁量による目標の設定。その実現には、自ら産み出す創造の楽しみがある。

決まり事徹底の枠組みが最低限あるにしても、正しさに無理矢理会わせる言動よりも「楽しめる」心持ちでの取り組みがなされることに重きを置く。学びでも自発的な学ぶこと、学び方による新たな学習成果が自身の根を強める。そして、自身の学びを生かした智恵として新たに魅せる実践を施す。この実践の成果による目標の成就はこの上なき喜びである。それは真なる達成感だからであり、やがては引きつけるパワーとなる。

◆引きつける力は企業ブランドを成す 
 
この個々の社員の活力は、企業の引きつける力としての企業のブランド力として成している。「あのブランド品を」「あの会社の製品、部品を使いたい」「あの会社に就職したい」「あのような社員がいる会社だから安心……などなど交わす言葉が通常だ。

「あそこに一度行ってみたい」。なにかと話題の多い旭川市の旭山動物園に行った。ペンギン、アザラシ、北極白熊、オオカミ、サル、虎、豹、カバ、キリンと約3時間余、各動物をどう魅せるか園側の工夫に引き寄せられた。

実に見事。横から観るのは当たり前、上、下(足の裏)水中、ロープなど、異なる角度、動きを目の当たりにすると新たな発見と面白さが味わえる。

例えば、カバの泳ぎはスイスイと見事、水中を走る姿は爽快、ジャンプ(水中)は軽々と跳びあがる。図体のでかい緩慢なカバとは思えない。「カバって可愛いな」新たな視点での発見は嬉しく、親和感を高める。動物の素顔をこれだけ工夫して魅せてくれる園はなかった。

「動物が好き、動物の良さを引き出して上げたい、お客さに喜んでいただく、そのためにどうする、現場、現実、に即した最大の智恵を産みだしての凄さである。まさに関わる人の自発的な強い思いが「行ってみたい動物園」とのブランド力としての実りである。
 
スタート時職員の尽力による評判に、是非私も、と想いを馳せ入職した後輩もいる。好きな動物の良さの引き出しに飽くなき学びと、智恵の行使でお客様の喜びを我が喜びとして新たな魅せ場を産み出しているのであろう。まさに、自身の持ち味を生かした活力溢れる活躍ぶりである。

◆本来持っているものを引き出す働きかけが活力を生む

 
活力溢れる職場、活力溢れる企業。そこには社員が可能な限りの枠を外した自由意思での活躍ぶりを助長する環境作りがある。上長にとっては、目指す方向性を構成員と共有化し、任せ、各自に潜在的に持ちうる心技体を自発的に顕在化する楽しみと、更に磨く楽しみをサポートすることである。
 
年初に学び合う経営者で今年の一言を紹介し合った中で「活力」と述べたのは建設関連機材メーカーのH社長。社員の持ちうる力を自ら生かす楽しみを高め、内なるパワーを魅せる企業へと繋げる。社員が創り出す活力がそこにある。社員が伸び伸びと出過ぎた杭になるそんな環境をより高める思いである。そこには推進するブランド戦略にむけて魅せる企業の新たな一策でもあろう。
 
ふと、”新”に挑む勇気と行動の文字が目ついた。新とは、今までになかったことを意味するだけでなく本来備わっているものを引き出し、生かすことと意味するとの解説が付記されている。とすれば、社員にとっての初心は、憧れを持った人になる事であり、個性を生かして存分に自身の存在を高めたいことである。

その初心の実像はどうか。経済団体の若手社員研修では定着対策の目的もある。要は引き出す、いかす条件がどうであるか。可能な限りの湧き出す心意気を生かせる働きかけの善し悪しが決め手でもある。活力を増幅する打つ手に改めて着目したいものである。
 
稀勢の里の横綱誕生により相撲界もさらなる活気が漲っている。一過性現象に終わることなく、憧れの力士が続き、観たい・気になる引き付けをより高め続けてと願う。


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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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