酸いも甘いも苦いも | 清話会

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田崎聡の【沖縄から食の風】21 

田崎聡(有限会社楽園計画 代表取締役)

沖縄の農産物で酸っぱいものはシークワーサー、甘いものはマンゴー、苦いものはゴーヤーが代表格である。沖縄県の農業で産出高の高いものは、1位さとうきび197億円、2位葉たばこ41億円、3位マンゴー21億円、4位ゴーヤー20億円、シークワーサーはまだ産出額は約2億円と少ないが、沖縄県はシークワーサー消費推進協議会を立ち上げ販売促進に力を入れている。

清話会 平成7年、私と熊本の通称ゴーヤー洋子さんで、「沖縄県を代表する野菜といえばゴーヤーなのに、沖縄県がもっとゴーヤーを全国に知らしめないのはおかしい」。ということでゴロ合わせで5月8日を「ゴーヤーの日」にしようという運動を沖縄県に働き掛け、手弁当でホテルを借り切って「ゴーヤーフェスティバル」を開催したのが始まりで、平成8年には、熊本で「ゴーヤー交流会」を開催、その後平成9年に沖縄県農林水産部が「ゴーヤーの日」を制定したのである。

今では、沖縄でゴーヤーの日=5月8日を知らない人はいないほど浸透したが、当初は、「これほど苦い野菜は本土では受けないのでは」とか「ゴーヤーではなく苦瓜の方が親しみやすい」という声もあったのが現実である。

NHKの番組「プロジェクトX」では、沖縄県から県外にゴーヤーを持ち出し禁止だったので、ゴーヤーにつくウリミバエ根絶に尽力をつくした人の苦労話がとりあげられていた。熊本のゴーヤー洋子さんをはじめ、こうした人々の努力によって、今では沖縄から北海道までどこでも「ゴーヤーちゃんぷる」が食べられるようになったのである。

しかし、近年地球温暖化や都市の亜熱帯化が進み、ゴーヤーが全国どこでも栽培され収穫できるようになったので、ゴーヤーの知名度が上がれば上がるほど、沖縄県のゴーヤーの県外出荷が鈍ってきてしまった、という皮肉な結果ももたらすことになったのも事実である。沖縄県から県外に持ち出せないということが、逆に「沖縄に行かないと食べることができない」という、『地産地消』のコンセプトに合った地域ブランドの強味となるのである。

現在、沖縄県から持ち出せないのはシークワーサーなど柑橘類の苗木や紅芋などの芋類、空心菜(ウンチェーバー)などである。つまり、逆にいえばシークワーサーや紅芋は、沖縄でしか栽培不可の植物として価値があるのである。だが、現実にはその付加価値が生産者の対価に反映されていないのも事実だ。

清話会 シークワーサーは、沖縄お方言でシー(酸っぱい)、クワーサー(食べさせる)の意味を持つ、ノビレチンという血糖値抑制、血圧抑制の機能を持った、生活習慣病の人々に注目されている作物で、5年ほど前「あるある大事典」などのテレビ番組にとりあげられ、有名になった柑橘系の香り高い健康果実だ。沖縄県では、そうしたテレビ番組で注目されたのをきっかけに、本島北部の農家に果汁の搾汁をするための量産を勧めたのである。

その結果、ちょうど植樹した木に果実の収穫をむかえた昨年ごろから豊作状態が続き、結果的に果汁用のシークワーサーは供給過多の「豊作貧乏」になってしまったのである。テレビ番組登場当時は、800円/kg の値がついていたものは、昨年は100円/kg以下までに落ち込み、収穫する労賃も出ない状態だ。無責任にグルメ番組や取材ネタとして取り上げ、生産者への影響を考えないマスコミの罪は大きい。このことは、沖縄県だけでなく全国の生産者共通の悩みなのである。

今年は、マンゴーも豊作なので昨年より価格は低い。農産物は、豊作になれば価格は下がり、不作であれば価格は上がる。台風、豪雨、熱波、干ばつなど天候により大きく生活が左右される。こうしたことに左右されないために、流通業界は輸入作物を市場に並べる。すると、国内の農家は価格で戦えない。

こうした悪循環を断つためには、外国にはないその土地固有の農作物を育てて差別化していくか、生産者に対してもっと正当な評価と対価を支払う政治・経済を構築してもらうしかないのである。
 
「酸いも甘いも苦いも」を最も体験しているのは、農業や漁業に携わる日本の生産者である。私たちは、彼らからもっと多くのことを学び、食を通じて関わっていかなければいけない。

田崎聡
(有)楽園計画 / 代表取締役 1956年東京生まれ。
武蔵野美術大学卒業。 東京でアートディレクターとして活動後、1986年に沖縄に移住。 古酒の店「クースバー」を1988年に開業後、食店プロデュース、商品開発、出版編集など幅広い分野で活躍。 雑誌「島唄楽園」「月刊うるま」などの創刊編集長を務めるかたわら、「山猫屋」「回」「島唄楽園」など数々の店舗プロデュースを手掛ける。 著書に「泡盛ブック」(荒地出版社)などがある。従兄弟はワインソムリエの田崎真也
 

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