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「借金の重み」
森野榮一氏(経済評論家、ゲゼル研究会代表)
百年に一度というが、そうであれば私たちは昨年来、世紀の大劇場のただ中に放り込まれていることになる。舞台のシーンの変転は速く、見る者を引きつけ、やきもきさせ、目を離させない。
ドクター破滅との「異名」を持つロウビニは昨年3月、「合衆国は世界経済のきわめて大きな部分ですから、合衆国の金融ウィルスが接触伝染していく懸念が本当にあるのです(1)」と述べていた。昨年夏の、投機資金がハード、ソフトのコモネィティに向かい、史上まれな資源高に目を奪われる時期が来たかと思うと、米国の住宅市場で支払能力危機が起こる。それは貸し手や証券化商品を抱え込んだ先への懸念を生み、疑心暗鬼が流動性危機となる。信用収縮が始まる。ウィルスが伝染し始めた。
金融立国で繁栄してきたアイスランドが危機を迎える。米国同様住宅バブルの英国、スペインにも伝染し、欧州全体に伝染する。ユーロゾーンの諸国の国債はドイツ国債とのスプレッドを拡大し経済苦境を窺わせる。かつて東欧といわれた諸国の債務は1.7兆ドルとも。それを西欧の銀行が貸し込んでいる。今年じゅうに4000億ドルが返済期日が来るとも噂される。デフォルトせざるを得ない国もでるだろう。貸し手は、不良化した金融商品を抱えて苦しんでいるうえに、さらに苦境に陥る。金融部門を救済しなければならないが、マーストリヒト条約の縛りもある。
当初、我が国には対岸の火事と見ていた人々も、そうは問屋が卸さない。年が明けて昨年10~12月期の対前期比実質GDPが出てみれば、年率換算で12.7%もの下落。崖から真っ逆さまの様相。我が国の基幹的な産業の決算数字は軒並み目を覆いたくなる状況となった。外国がモノを買ってくれなくなれば、輸出依存の国家はもろい。バブル崩壊後、国内の消費も投資も伸びないなか、曲がりなりにも実感のない好景気を見せたが、海外の製品需要頼みであったことが一気に露見した。政府は日本が第二次大戦以来最悪の経済危機に直面していると認めざるを得ない。先日の月例経済報告(2)は見るのは身体に毒というものである。
金融ウィルスはパンデミックの様相である。感染爆発したこのウィルスは、膨らみきった債務の収縮である。危機になればカネという臆病な資産は安全な先に逃げる。好景気のときはレバレッジは効かせやすくカネは膨らむ。実際、飛ぶ鳥を落とす勢いだったヘッジファンドは、一時期2兆ドル近く膨れあがった資金を半減させ、1兆ドルを割り込んでいる。キャリー・マッケーブが言うように、「レバレッジが必要なものはなんであれ死んだ」状況である(3)。
昨年秋以来とくに、カネは安全で流動性の高い、米国国債に逃げている。これは経済救済に多額の資金を必要とする米国政府にとっては都合のよいことだ。米国国債バブルが続いてくれるほどに、調達コストの金利は低いままだから助かろう。しかし米国の国家債務は膨らむ。それはドルへの信認に打撃を与えるかもしれない。
この金融危機で経済崩壊、破滅を強調してきた筋のなかには、通貨への信認の崩壊を言い、ゴールドへ逃げることを勧めてきた業者もある。たしかに、3か月前はトロイオンス当たり750ドル程度だったものが、いま1000ドルを超えている。その遙か先まで上げると予想する向きもいるようだが、この危機の認識次第か。また昨今の食糧輸出国の干ばつで、カネがコモディティに向かうかもしれない。
確実に、なかなか楽観的になれない現実がある。それはなによりもこの地球上を覆ってしまった債務の大きさである。誰でも知っていることは、債務が焦げ付いた状態が続くかぎり経済は回復しないということである。危機は債務の整理のプロセスでもあろうが、そこでの危機との付き合い方が難しい。
実際、米国の住宅市場は下げ止まらない。住宅保有者は住宅のネガティブ・エクィティを拡大するばかり。それは家計部門の債務を拡大することになる。もはや米国の家計部門は債務奴隷状態といってよいかもしれない。
なぜなら米国の家計債務の対GDP比は限りなく100%に近い。07年の米GDPが13兆8075億ドルだから、それと同じくらいある。家計の可処分所得に占める債務返済の比率を評価するDSRは、約14%。昨年末は少し数字を下げたが、もう借金をしようにもできない状態なのである。経済危機の不安のなかでの債務まみれ、人はこれまで以上に消費を抑え返済を優先する。需要は出てこない。住宅価格の崩落で8兆ドルの逆資産効果との見積もりもある。
加えて、株式は下がっている。株価の崩落で逆資産効果10兆ドルともいわれる。民間の需要が出てこなければ政府が支出するほかない。各国政府が刺激策を計画・実施しようとしているが、みな失望を誘うようなものばかりか。債務のブラックホールはとてつもなく大きいからだ。そこにカネを放り込んでいくことになる。債務清算に使われることでカネは消え失せてしまうが、それを承知で各種の経済刺激策を取らざるをえない。長い借金整理のプロセスが続くのか。
バブル崩壊後の日本と同様、今回は世界全体がV字回復などありえない長期のL字型の停滞とつきあっていかねばならないのかもしれない。
注
(1)http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=4591
(2)http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei.html
(3)http://www.bloomberg.com/news/marketsmag/mm_0309_story5.html
日時 2009/4/15(水)14:00~15:30
テーマ 金融危機…第二幕の始まりか
――米国の過剰消費なきあとの、新たな経済モデルとは
講師 森野 栄一氏 (経済評論家、ゲゼル研究会代表)
会場 東京学院3階教室
※ JR水道橋駅西口徒歩2分
参加費 会員無料(会員証提示)
一般有料 事前申込:4800円
当日参加:6000円
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