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精神疾患へのアプローチ再考②狂気の薬物治療期

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※この記事は柿谷カウンセリングセンターのホームページの記事を転載させて頂いています

http://www.choicetheory.net/kcc/alternativeapproach.html

精神疾患へのアプローチ再考①
http://ameblo.jp/seisin-iryo0710/entry-10106595915.htmlからの続き

1973年スタンフォード大学心理学部教授、ローゼンハン(David Rosenhan)は他の7人とともに、12の病院で診断を受け、患者のふりをして入院に成功した。精神病院に入院している患者はローゼンハンを偽患者と見分けたが、病院の職員は見分けることができなかったと言う。

こうした経験から精神病の診断は有用でなく、信頼できないとし、正気と狂気の区別がつけられなくなっているとも言われている。黒人と白人、持てるものと持たざるものの間にも、診断の相違があることが指摘されている。黒人や貧者はどちらかと言えば、統合失調症と診断される確率は高い(Whitaker、pp.171)。

抗精神病薬のもたらす副作用は看過できない問題点である。「化学的手錠」(Whitaker、p.180)という言葉が、頭脳の自由が奪われて独房に入れられている感じを表現している。抗精神病薬は症状を慢性化させ、取り返しのつかない脳の損傷と、早死にをもたらすと警告されている(Whitaker、p.181)。

薬物療法を受けていない患者の再発率は7パーセントで、薬物療法を受けている患者の45パーセントが再発したと報告されている。向精神薬の影響を受けている脳のほうが、精神病的症状を現しやすい。なかでもプロリキシンは最悪である。薬の離脱は困難で、しばしば吐き気、下痢、頭痛、不安、不眠、筋肉痙攣が出現する。アカシジアと呼ばれる副作用は、プロリキシンとハルドールに見られる。
精神病患者は暴力的になると通常思われているが、抗精神病薬が開発される前はそうではなかった。1955年以前に病院を退院して犯罪を犯した人は、一般人の犯罪者と変わらない割合であったが、1965年~1979年に調査されたものでは、精神病院の退院者のほうが、一般の人の犯罪率よりも高いと報告されている(Whitaker、p.186)。

薬の影響は否めない。
ハルドールを使った治療を受けている患者の75パーセントがアカシジアの副作用に悩まされている。UCLAの精神科医ヴァンプッテン(van Putten)はそう指摘している(Whitaker
P.188)。精神病患者の自殺の79パーセントはアカシジアの副作用に関連している(p.187)。プロリキシンの量が多いと自殺率が高くなり、ハルドールが患者を攻撃的にしていることも知られている(Whitaker、p.210)。

1959年に遅発性ジスキネジア(TD)という副作用が報告され、これは薬を離脱した後も脳障害として持続することが判明した。舌が前後左右にひとりでに動く症状も含まれている。

薬物療法を開始して1年以内に5パーセントに発症すると言われるが、5年以内に38パーセントという数字を上げている人もいる(Johnstone,p.180)。この副作用を併発している患者の44パーセントは、自分の動作異常に気づいていないともされる。薬物療法は前頭葉を萎縮させ、脳のニューロンを破壊している。遅発性ジスキネジアは、長い間隠されていて、1980年にはじめて書籍で紹介されたとジョンストーンは指摘している(Johnstone, p.179)。
問題が指摘されてから25年後のことであった。それまでは問題を隠そうとする体質があり、問題を過小評価する傾向があった。この薬が導入されて以来、世界的規模でみると8600万人もの人がこの副作用に悩まされているので、歴史的には最大の薬害であると指摘する者もいる(Johnstone,p.180)。

薬物療法を受けた患者の早死にはあまり知られていないが、体重増加が伴いやすいという事実から、高脂血症、糖尿病などを併発しやすいことは容易に推測できることである。向精神薬悪性症候群(NMS)は聞き慣れないことばであるが、関係者にはその存在が知られている(Jonstone,p.180)。この状態になると三分の一は数日で亡くなると言われている。特に多剤投与で発症する副作用である。筋肉硬直、呼吸困難、心臓の速鼓動、高熱などがその副作用であるが、突然死として知られているものも含まれる。

科学の名を借りて非科学的なことが精神病の治療として行なわれてきた。ラッシュは血を抜くことで狂気を治療できるとした。コットンは患者の歯を抜くことで、狂気を引き起こしているバクテリアを取り除けると主張(Whitaker、p.196)。セイケルはインシュリン・コーマ療法で病変した脳細胞が治療できるとした。モニッツは前頭葉を切除して治療は成功だと主張した。フリーマンとワッツはトランスオービタル・ロボトミーを行い、これは簡単に施術ができるとして、大勢の患者を外科用のアイスピックで手術した。やがて化学的ロボトミーの時代に突入した。ドーパミン仮説で薬物療法に拍車がかかった。1974年にはバウアーズが、薬物療法を受けていない患者のドーパミン代謝に異常がないことを報告している。

そして、薬物治療を施すとドーパミンが増加することが報告された。統合失調症の患者の死体を解剖して、ドーパミン受容体が健康な人よりも50バーセント以上あると報告されたが、患者は全員薬物療法を受けていたのである。同様に、1989年にはドイツの研究者たちは、受容体の変化は医原病変であると結論づけている(Whitaker p.198)。

1994年にケインは、ドーパミン仮説は信頼できないと結論づけた。
薬物療法を止めた患者の状態が悪化することから、薬物療法の効用が説明されることがあるが、薬物療法を受けている患者が悪化するケースは16パーセントで、薬物療法を止めた患者が10カ月以内に悪化する率は50パーセントとされている。
しかし、薬物療法を受けていない患者が悪化する率はもっと低いとされる(Whitaker、p.200)。薬物療法を突然中止した場合の悪化は、徐々に離脱したのに比べて3倍もあると報告されている(Whitaker、p.201)。悪化率が一番低いのは、薬物療法を受けていない人々である。つまりこれは単に体がその薬に依存してしまって、薬なしの生活が困難になっていることを示しているのではなかろうか。もしも長期的な改善を望むなら、向精神薬による治療は、治療の選択肢にはならないし、統合失調症の治療に薬物療法が有用であるという証拠はないとされる(Johnstone,p.181)。

既述したとおり、旧ソ連では向精神薬を体制に反逆する人々に使っていることが1969年には判明した。アミナジンとハロペリドールが向精神薬のなかでも、人に拷問を加えるためにもっともよく使われる薬であった。薬物療法は拷問の中でも最悪なものと考えられていた。

精神科の治療以外でも、向精神薬は、扱いにくい人々を静かにさせるために使われていた。知的障害者、高齢者、非行少年たちがそのような薬物投与の対象とされてきた。インド、ナイジェリア、コロンビアのような未開発国の精神病患者の方が、開発国よりも回復率が高いことが報告されている。WHOも開発国で統合失調症になれば、完全な回復は望めないと予想している。未開発国の回復率が高いことが1992年にWHOから発表されている。貧しい国ではわずか16パーセントの患者だけが薬物療法を受けているが、裕福な国では61パーセントが薬物療法を受けている。患者に有害なことをしてはならないという医学の精神が薬物療法により損なわれている。

狂気の薬物治療期(1990年代~今日)
製薬会社が利益を確保するためには、薬の特許が切れる前に新しい薬が用意されなければならない。リスペリドン(リスパダール)が米国のFDAに認可されたのが、1993年であった。ボリソン(Borison)は1992年にリスペリドンの有用性について論文を書き、彼の論文はその後しばしば引用された。これに先立ちボリソンは1984年に製薬会社からの助成金を得て、ソラジン(日本商品名 ウィンタミン、コントミン)がよりよい結果をもたらすと発表した。
しかし, FDAの調査によると、このとき実施されたという病院にはソラジンのストックがなかったことが判明している。データーの捏造であったのだ(Whitaker、p.266)。この同じボリソンがリスペリドンのデーターをやはり捏造していることが知られるようになった。ボリソンは起訴され、15年の有罪判決を受ける。ただしこのときには彼のデーター捏造が有罪判決に至らせたのではなかった。
データー捏造は否定しがたい事実ではあったが、別件で有罪とされている。ボリソンの裁判は進行中ではあったが、1997年に彼の11番目の論文が掲載されて、リスペリドンによって統合失調症がいかに改善したかの報告がなされた。ホイトカーは著書(2002)の中で、アメリカ社会で行なわれてきた精神病患者の治療がいかに狂っているかを告発している。アメリカ社会で行なわれていることは日本にも世界にもその影響が及ぶものである。新薬は次々に日本でも認可されている。

精神病患者を抱えた家族はアメリカで新薬が開発されたと聞くと、早く認可して欲しいと訴える。薬物療法で家族が癒されることを願ってのことであるが、薬物療法が真に癒しをもたらしているのではなく、むしろ、病状を変化させ、場合によっては副作用によって生きているのがつらい状態がもたらされる可能性に気づかないでいる。

柿谷正期は2002年12月にリスパダールを処方された青年の自殺という現実に直面した。もちろんこの薬以外にロヒプノール、セロクエル、トレドミン(SSRI)が処方されていた。この薬だけを自殺と結びつけることはできない。しかし、ホイトカーが指摘するように、認可される背後の研究に、研究者と製薬会社との二重関係が存在していたことは否めない。薬の問題点はまだ一般に知らされていない。ホイトカーが指摘するように、145人の患者に対して1人の割合で死亡した事実はどの専門誌にも報告されていない(Whitaker、p269)。ブレギンとコーヘン(1999)は、「精神科領域の調査研究は信頼できない」と悲しい現実を指摘している。こうした研究のほとんどが製薬会社によって支援されていて、その結果は製薬会社に都合のよい内容となっていると指摘している。二重関係という倫理的問題が存在していることを見逃してはならない。
ゴズデン(2001)はオーストラリアで起こっていることについて憂うべきこととして警告している。

統合失調症を早期発見し、薬物による予防治療をしようとする動きである。薬物がもたらす病気について副作用が明記されおり、それによると例えばクロザピンには幻聴や妄想のような精神障害が起こる可能性も指摘されている。薬の引き起こす精神障害が指摘されているのに、予防のために薬物療法をしたら、その薬の引き起こす副作用で精神障害が発症することをどう考えるのだろうか。そして薬物を急に止めると精神障害が現れることについてはどう考えているのだろうか。
調査研究によると統合失調症の危険の高い青年に予防的薬物療法をすると、治療開始後6カ月で40パーセントの人が精神障害を発症し、48パーセントが12カ月以内に発症するという(p.243)。将来統合失調症になる可能性が高いとされる青年を見分ける基準の一つが「疑い深いこと」とされた。そして厳密にこの基準を当てはめて行くと、50パーセントが危険範囲に入るとされる。ゴズデンはこの青年たちが放置されていても恐らく精神障害を経験することはないであろうと主張している(p.243)。


精神疾患へのアプローチ再考③
http://ameblo.jp/seisin-iryo0710/entry-10106631321.html
へ続く