正午、黙祷してからご近所の友人を誘って区民プールへ。
 帰ってきて甲子園とか横目で見つつ、夜のTFMの仕事までのんびりする予定。

 このところ書き込みをさぼっていたが、夏休みで那智勝浦へ行ったり、あいかわらずトンカツ食べ歩いたり、今年がぜん俺の中で流行している区民プール通いをしたりして、まあ俺は俺で仕事以外のことで忙しくしていたのである。
 
 その中で特筆すべきは8月11日、桜井(圭介)と高円寺駅前で待ち合わせて行った「CHIM↑POM」(6人組の現代アート集団)の個展であった。

 例えば、無作為に電話帳から選んだ年寄りらしき人へ次々に「オレオレ」と電話をかけ、“こっちから金を振り込んでしまう”という予想外のパフォーマンス、「オレオレ」。展示としてはその模様を収録したCD、振り込み明細書。

 また、スポーツ新聞に「エロキテル チンポン」という一行と電話番号だけを載せ、展覧会場には大きな電球と連動した電話機を置き、かかってくるたびにピカピカ光らせるという「エロキテル」(これがやたらにかかってくる)。彼らとしては今後“このエロのパワーを蓄電して自動車を40センチほど動かしたい”とのことであった。

 さらにスプラッシュ・マウンテンの最も前に男女が二人乗り(男は日本兵の格好、女は自決寸前の戦時中の姿)、おもいきりバンザイをするという悲壮な姿を例のディズニーのサービス写真に写す「バンザイマウンテン」。戦争を忘れるな!

 そして、俺をその後、大変な目にあわせたのが“樹海”シリーズ。

 ひとつは学芸会でやる「木の役」を樹海でやってみたらどうなるかというチャレンジで、自殺者の遺留品の横にある木をくりぬいて中から顔を出し、両手に枝をもって写真作品に残したのが「木の役(小)」

 さらに、その樹海作品作りの過程でたまたま見つかった彼ら「CHIM↑POM」と同年代の(二十代前半)自殺者N川くんの、首を吊った木をチェーンソーで切り出し、ビニール紐の輪さえもそのまま持ってきて展示してしまうという超過激な「ともだち」。樹海において、自殺者の遺留品はいわばゴミとして置かれっぱなしらしく、遺体以外は引き取られずにそのままに残っているそうだ。

 「CHIM↑POM」はそのN川くんの自殺現場に言葉に出来ない思いを抱き、しかしそれをレプリカ化して展示するなどというこざかしいことも出来ずに、まんま会場にぶら下げてしまったのである。「ともだち」というタイトルの重さ。ただし、ビニール紐の輪の先に白い人形をメルヘンチックに腰掛けさせてしまったのが、さすがに彼ら「CHIM↑POM」のデタラメさだろう。

 ということで、「CHIM↑POM」は実に素晴らしい芸術集団である。
 社会性と反社会性が同時に強度を持ってしまうという奇跡を起こす連中。
 俺は「CHIM↑POM」絶対支持だ。
 彼ら「CHIM↑POM」のような自粛のなさが真のアート的自由だと思う。
 資本主義アートは結局のところ、自粛だらけだろう。


 ただ、困ったことに「ともだち」を見た途端に俺の腰の左側がガツンと痛くなったのであった。
 帰りに桜井と駅前で珈琲を飲み、イベントを共同プロデュースしようなどと話していると、桜井がこう言った。
 「しかし、チンポンもさ、ああいう作品を展示してるから、スタッフの肩が急に重くなったりしてるらしいよ」
 俺は即座に答えた。
「うん、俺はもう歩けないほどだよ」
 高円寺から浅草に帰るので精いっぱいだった。帰った瞬間から家の中でさえ杖をついた。ついたまま、その日はご近所の三木夫妻のオープンカーに乗って高速の渋滞をわざと狙い、都会的な東京湾花火を見た。

 翌日、テレビの収録に行くと、音声さんが一人霊を見るタイプらしく、俺が楽屋に入る前にすでに「今日は3階に行かないほうがいい」と言っていたそうだ。3階には俺の楽屋しかないのである。
 で、これこれこういうことだと顛末を話すと、音声さんは俺の腰を哀れみの目で見てため息をついた。「強いですよ、それ」
 N川くんが俺を頼るならそれも仕方あるまいと思った。俺もいい年だ。経験のない若い人が憑かれてもどうしようもないだろう。俺なら笑い話になる。まあ、憑いていたいだけ憑いているがいい。それが俺の結論であった。おそらく、この余裕はキヨーレオピン・パワーから来ている。
 
 収録終わりに一人でスタジオを出たが、N川くんが憑いているにしてはどうも何かに噛みつかれたような感じに腰が痛い。腰の髄のあたりまでガチッと噛まれた感じ。これが人間のなせるわざだろうか。
 そう思って電車のホームに立っていると、遅れてマネージャーが来た。
「あの、これは言わないほうがいいのかもしれませんが……」
 マネージャーはそう切り出した。
「いとうさんに憑いてるのは動物だそうです。とにかく強力らしいです」
 俺は笑ってしまった。だからこの痛さなのかと納得したからであった。大型犬みたいなものが憑いているのなら、それこそ俺が感じた通りなのである。

 ともかく浅草の観音さまになんとかしてもらおう。
 そう思った俺の家に翌日、高校生になった実の娘が来た。
 家事を手伝う名目でバイト代を稼ごうという子供の考えである。
 俺は得々として霊の話をし、娘に腰の痛む部分を見せたりした。
 すると、じっと静かに聞いていた娘が冷たくこう言ったのである。

 「パパって、そういう馬鹿なことを信じるような人だったの?」

 それで心霊騒動は終結した。
 痛みは単なる物理的な痛みに変った。
 きわめて合理主義的な娘の力で、俺は目をさましたのである。
 ただ話としては面白いので、まだ二、三の人には動物が憑いてる前提で話をしている俺である。



 ええと、まあ、そんな日々です。
 音楽ではやっぱりCKBの新譜『soul電波』、特に『路面電車』かな。遠い未来から今はなき路面電車を幻視すると、その路面電車はお盆に死者を乗せて一直線に永遠の中をゆく。なんて世界観なんだ!! それを韓国ポンチャック・サウンドでかよ!!

 あと、会いたかった日華(広東語、北京語、英語、日本語でラップするMC)に「音知連」で会えたのがよかった。
 くだらぬ国家主義者がラップ界を席捲する中、インターナショナリズムに向かう(向かわざるを得ないハーフの)日華の動きに注目。

 本では『青白い炎』(ナボコフ)が凄かった。
 長編詩があって、延々とその注釈があるという小説スタイル。
 やっぱりナボコフ作品は実験の厚みとユーモアがハンパじゃないのだった。

 次の「CHIM↑POM」の個展は11月だそうです。
 これもめちゃくちゃ面白そう。
 地雷除去をテーマにしてカンボジアに一ヶ月半滞在し、そこで爆破しまくったブランド品などを展示するとか言ってたと思う。写真見せてもらったけど、世界級のインスタレーションだなと思った。
 11月、彼らは完全にブレークすると思う。

 a certain ratioを聴きつつ。