えー、痔はなんとかドーナツ型クッションの多用でおさまりましたが、今度は首のケイレンが始まりました。
 異様に首がこってるときの症状です。
 それも振動の激しさはこれまでにないレベルで、しゃっくり的な頻度で首をひくひく揺らしてます。
 揺れにともなって手も動いてしまうので、この文章の書きにくいこと。
 しかし、ポルトガル×フランスが見逃せるはずもなく、興奮を抑えられずにキーボードを打ってる次第。
 俺、そこまでして何になるのか。
 俺の体をどうしようというのか、W杯。

 さて、今年は45才なのになぜか厄年的な働きがあるらしく、4月に俺はパニック障害になっていたのである。
 まず去年、大好きな人形浄瑠璃を観ているときに発作が来て、いきなり汗をかき、意味もなく大声で叫び出したいような恐怖を感じた俺は、あわてて劇場を飛び出した。大夫以上に大声で叫ぶ客は迷惑だ。
 以来、観劇はいつでも外に出られるような端っこの席でしか行なわず、思いきり首を曲げて舞台を観る習慣がついてしまった。というか、観劇の回数自体、ぐっと減らさざるを得なかった。
 それが今年、2006年。意味のない恐怖は持続的になった。閉鎖されたスタジオなどが異常に恐くなり、電車では突然途中下車。うっかり急行に乗ったりすると狂うんじゃないかという激しい焦燥感が俺を襲ったのである。
 当時は舞台をやらないといけない時期でもあったので、俺は本当に弱った。人前に出る体ではなかったのである。幸い、長年おつきあいのある先輩方と一緒だったので、俺はなんとか踏ん張れた。「俺、舞台の途中で唐突に恐くなってソデに入っちゃうかもしれないけど、どうします?」と言ったら、大竹(まこと)さんは「いいよ、入れよ。いとうの好きなようにすればいいんだよ」と即答だし、確かにこれまで斉木(しげる)さんが平気で本番中の舞台から降りてトイレに駆け込んだりしてるありさまだから、俺も出ないわけにいかない。(中村)有志さんはじめメンバー全員がすごくソフトに遠くから見守ってくれるので、とにかく俺は甘えた。甘えに甘えた。きたろう師匠に至っては、「いとうとは麻雀しないようにする。ロン!って言うとパニックになっちゃうから」と我慢の日々を送った。
 ありがたいことに、メンバーは全公演中、楽屋にふとんを敷くよう手配してくれていたりして、俺は毎日本番直前までそこにだらだら寝ており、時間が来るとのっそり起きて薬を飲んでから客を笑わせに出かけた。自分が不自由なのに客を自由にしようとして集中するわけだから、つまりは芸人根性である。ふとん芸人だ。
 そういうわけで、なんとかかんとか二ヶ月ほど最低期をやり過ごすと、まあ薬飲んでりゃ一応過ごせるようにはなってきた。ただいつなんどきあの恐怖がよみがえるともしれない。さすがに俺もちょっとぶらぶら遊ぶ時期があってもいいんじゃないかと思うようになった。ぶらぶらしてないと体によくないのである。そうだ。そうに違いない。
 そういうことにして、俺はぶらぶらしている。怠けるのはずいぶん楽だ。仕事が全部ぶらぶらの延長である。すると、仕事の評判がかえってよかったりして、俺は少々複雑な気分だ。一生懸命な方の俺は一体何なのか。なめんなよ。

 で、ぶらぶらしてると痔になった。首がケイレンする。W杯の見過ぎである。ぶらぶらにもほどがある。
 そんな体でこんな長めの文を書いているのだから、俺も性懲りがない。
 と思ったら、今気づいたのだが、書いている間だけなぜかケイレンがおさまっている。ぴたりと止まる。
 どうも俺の体はそういうことになっているらしい。
 そうか、そういうことか。
 一人納得して今日は去る。