ゴッド・オブ・ウォー 降誕の刻印:レビュー | みらいマニアックス !

ゴッド・オブ・ウォー 降誕の刻印:レビュー

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このゲームを電車でプレイしてはいけない。駅を乗り過ごすのが確実だからだ。


ゲームのシステムはオーソドックスな3Dアクションだ。

主人公・クレイトスはアナログスライドで自由に走り回り、ボタン操作でジャンプし、剣を振り回し、壁を攀じ、敵を投げるといったなめらかで多彩なアクションを見せてくれる。

アクションの多彩さは、格ゲからの長い伝統を誇る和ゲーにも匹敵するほどで、プレイしていて実に気持ちが良い。キックやパンチのボタンがないのが不思議に思えるほどだ。

主人公クレイトスは最強の戦士であり、当然のように大変な力持ちだ。彼が渾身の力をふるうシーンは、動きに非常に説得力があってプレイヤーまで力を入れてしまうほどだ。例えば空を飛びまわって攻撃してくる敵・ハーピーは、まず捕まえてしまうことが有効だ。ハーピーをムズと掴んだクレイトスはハーピーを地面に押しひしぎ、左右の羽根を掴むと気合とともに引きちぎる。この演出は絶妙で、クレイトスさんに合わせてフンヌーと叫びたい衝動に駆られる。

本作は戦闘の繰り返しでストーリーが進むのだが、アクションが実に良くできているため、単調も退屈も感じない。

難易度のバランスも非常に巧妙だ。

連続する戦闘には程よいメリハリがつけられている。やっとのことで難敵を倒すと、そこからしばらくは簡単な雑魚戦が設けられたりして、難度の高い戦闘の連続にプレイヤーがうんざりしないよう工夫されている。敵も性格の異なる敵が多数用意されている。手ごろなザコ、単純アクションのくり返しで一掃できる敵、大型の迫力ある敵、等が上手く配置されている。

大型の敵はかなり強い。最初の対戦ではたいていのプレイヤーがあっさり惨殺されるだろう。だが何度も挑戦すれば必ず勝てるように作られている。攻撃の前後の動作にあからさまなスキがあり、これを的確に突くことが勝利のカギだからだ。モンハンの対龍戦闘とプレイの感覚がよく似ている。最初にはクック先生にさえ勝てない初心者も、最後には1落ちもせずにレイアを屠ることができるようになるが、それと同じことだ。

クレイトスの突出したキャラクター性や、PSPの水準を遥かに超えたビジュアルが語られがちな本作だが、本作の価値は、この骨太なアクションの優秀さに支えられている。これはもっと強調されてよい点だろう。

難易度は4段階にわかれているが、本当に難しいと思われるのは最上級「神」クラスのみだ。それ以下のクラスであれば、だれでも楽しんでプレイできるレベルだろう。

戦闘では投げハメとジャンプ投げやり連打という攻撃が非常に強い。また手軽に出せるジャストディフェンスがオールマイティなので、これらがきちんと使いこなせればほとんどの敵には負けることはない。ガード不能攻撃を出す一部の敵が複数登場する場合は厄介だが、処理の順番を間違えなければそれほど問題はない。敵を良く見て、攻撃、ガード、避けのタイミングを見極めよう。「神」クラスではパーフェクトに近い操作が求められるので、ここは習熟あるのみだ。


ストーリーはあまり前面には出てこない。ナレーションが要所要所で入り、粗筋として把握できるレベルだ。だがゲームとしてはそれで必要十分だし、ラストバトルの盛り上がりは、プレイヤーを大いにエキサイトさせるだろう。

ギリシア神話の基礎知識があれば、話は一層楽しめるだろう。例えばミダス王のエピソードを知っていれば、彼の哀れさ、クレイトスさんの容赦なさを一層深く味わえる。タナトス神が、アテナやアレスといったオリュンポスの神々よりもずっと旧い神であること知っていれば、彼のプレッシャーを一層生々しく感じることができる。(もちろん、知らなくても全然楽しめることは間違いない)

ギリシア神話好きであれば、お馴染みの面々や場所が次々と登場するので、その点でもお楽しみは十分だ。


もちろん、グラフィックは本作の重要な部分を占めている。

このグラフィックの凄さは一目見ればわかる。まるでPS3レベルのグラフィックがそのままPSPの小さなディスプレイに表示されているのだ。Digital Foundryはこれを指して「ちょっとした奇跡」と呼んでいるが、それも言い過ぎとは思われない。実際、後に本作はPS3でHD作品としてリマスターされるのだが、PSPを遥かに超えるPS3の処理能力をもってしても、これをフルHD×60FPSで再現することはできなかったのだから。

単に技術上の凄さだけではなく、舞台のディテールについての美術がとても細かく書かれていることも作品の説得力を増している。古代クレタや想像上の存在のアトランティスはもちろん、往時のスパルタ市街等は当然知るはずもないのだが、プレイするうちにいかにも本当にそうであったように思えてくる。ささいな話だが、クレタの門のレリーフにはちょっと感心したし、クレイトスさんの女の扱いにもリアリティを感じた。(現代と古代スパルタでは、女性の地位や、性についての考え方が現代社会とは全く異なる)

このリアリティこそが、欧米人のジャスティスなのではないか。彼らの目から見ればリアリティこそが最初に来るべきものなのだ。

だからこそハゲでマッチョで刺青のオヤジが主人公なのだ。もしもクレイトスさんが主人公でなければデイモス(彼の弟。兄と同様のマッチョ。但しハゲではなくヒゲ)が主人公だったろう。間違っても女子供がヒーローにはならない。それはリアルじゃないからだ。

(このようなリアリティへの執着は、自分も含めた日本人には完全には納得できないものなのかもしれない。台風とか病院とかに個人名をつける感覚に対して感じるのと同じようなものだ。結局のところ、そういった違いというものは存在すると思う。
もし日本人がデザインしたら、およそ似ても似つかないものが出来上がったろう。日本人プレイヤーは情緒的なリアリティを非常に重視する。スパルタ市街がリアルかどうかよりも、人間関係や心理描写に納得がいくかどうかが重視されたに違いない。付けくわえれば、キャラクターが美形かどうかも大事だろう。ことキャラクターの愛らしさを重視するという点で言えば、日本を超える国はおそらく存在しない。)

このグラフィックの素晴らしさは、本作の高い没入感の実現に大いに貢献している。そしてプレイしているうちにPSPの画面の大きさなどすっかり忘れて没頭してしまい、結局駅を乗り過ごすハメになるのだ。


数多いPSPの作品でも、おそらく最高峰クラスの一本だ。
未プレイの方はぜひプレイしてみていただきたい。時間を忘れて楽しめることだろう。