夫(英国人)の冬用コートの裏地と

私の夏用コートを

ドライクリーニングに出そうと

街外れにある洗濯屋さんに行きました。



スコットランドひきこもり日記-お洒落じゃなくとも身ぎれいに


カウンターにいたのは

英国の職業婦人の見本、といった感じの

白髪をきれいにセットした頑丈そうな女性。

眼鏡の奥に良識と知性とウィットが輝いています。


「今ちょうど工場が休みなので

仕上がりは少し遅れるんですが」

「構いません、よろしくお願いします。

で、おいくらになりますか?」

「冬コートの裏地、ウールと

夏コート、これはポリと綿ですね。

あわせて11ポンド50ペンスです」


わかりました、とお財布を開け

お支払いをしようとしたら

「いえ、代金は仕上がり品と

引き換えになっております。

こちらの半券をお持ちになってください」


「そうですか、では支払いは後日。

たぶん僕の妻が受け取りに来ますので

・・・妻、そのときに

現金を持ってくるのを忘れないでね」

と夫がチケットを受け取りつつ

私に語りかけたところ

間髪いれずとはまさにこのこと、

とばかりにカウンターのご婦人が

「あら、そういうときは殿方のほうが

『では妻のために僕が受け取りに来ます』

言わなくちゃいけませんよ!」


・・・紳士の国の男性も大変ですね!


虚をつかれたらしい夫は目をぱちくりさせながら

「あー、うー」とか言ってしまっていて

(某大平総理のようでした)

これは妻として助け舟を出さねば!

と思った私は咳払いをひとつしたあと

カウンターの女性に向かって

「素晴らしいご指摘ありがとうございます。

『受け取りは夫が妻のために』、

これぞ英国の紳士、伝統の良識ですよね!

支払いが受け取り時、というときは特に!」


「ほっほっほ、わかっているじゃない!

紳士を働かせてあげるのが淑女の務めですよ!」

「いやいや、英国に住んでいてよかった、

と思うのはこういうときです。

じゃあ夫、受け取り日には遅れないようにね」

「奥さん、貴方が受け取りに来ちゃ駄目よ!

ちゃんとこちらの紳士に取りに来させるのよ!」


お店を出た後、夫は苦笑しながら

「本当にね!僕は女性には日々

教えていただくことばかりですよ!もう!」


「まあ安心しろよ、私も戦後の

フェミニズム教育を受けた身の上だ、

洗濯物の受け取りくらいやってやるさ」

「・・・どうもありがとう」

「フェミニストと結婚してよかったね、君」


ちなみに洗濯屋さんの並びに

英国軍のリクルート施設がありまして。


道路に面したガラス窓に

『国家のために働き、お金を稼ごう!

これぞ一挙両得、理想の人生!』

『未経験者でも大丈夫、

がっつり仕込んでさしあげます』

みたいな宣伝文句と一緒に

(上記の和訳には多少の誇張があります)

新兵の日給ですとか

将校になった際の時給ですとかが

貼り出されているのですよ。


「妻、そういえば君は

再就職先を探していましたね。

わが国の空軍とかどうですか?

訓練に参加した時点で

お給料がもらえるみたいですよ?

「体を鍛えつつお金が手に入るってのは

まさしく夢のようだがなあ、

私は平和主義者なんだよ!」

「でもこれは君の語学力が

役に立つ機会かもしれませんよ?

どこの国の軍隊も常に

外国語の熟練者は欲しいものですし!

「日本語熟練者を英軍が求める状態って

それは日英の政治的関係が

とてつもなく悪化したときなんじゃないか?

というか、そもそも私は

日本国籍を手放す気はないぜ?

英軍って外国人でも雇ったりするの?」


そんなことを言い合いつつ

けっこう真剣に

入隊3年目の将校の平均時給なんかを

確認しておりましたら

・・・建物の中にいた勧誘係らしい大男

(スコットランド兵らしくキルトを着用)に

こぼれんばかりの笑顔で手招きをされました・・・


あれ、手招きに応じていたら

私は今頃適性テストとかを

受けていたんでしょうか。


コートの仕上がりは8月になるそうです。



若い頃一度

某海上自衛隊の艦艇公開イベントに

参加したことがあるのですが、

食堂でカレーを食べていたら

(とても美味しかったです)

そばに座っていた見知らぬ将校さんに

「君、食べっぷりと姿勢がとてもいいね、

海上自衛隊は常に

優秀な人材を求めているんですよ」

と声をかけられたことがあり


ナンパかと思ったら勧誘でした、という


海上自衛官になったら

毎週金曜日にはカレーが食べられるよ、

と熱心な説得を受けていたら

隣のテーブルでやはりカレーを食べていた

陸上自衛隊の将校さんが

「いや、さっきから見ていたが、

僕はこのお嬢さんは陸自向きだと思う。

船はね、たまに乗るぶんにはいいけど、

これを職場にしちゃうと腰が悪くなるんだ、

女性にはやはり陸自がいいと思う、

というわけで貴方、背が高いけど

身長はヒールを脱いでどのくらい?」

「黙れ、お嬢さん駄目ですよ、

陸自はね、穴ばっかり掘らされて

体が汚れるから女性には辛いんです。

貴方は泥よりも波が似合うタイプ、

あと海自のほうが陸自より

断然制服が格好いいしね!」


ふたりの殿方に取り合いをされたのは

あれが人生最初で最後の経験でした・・・

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