「髭が鼻の下にあるというのは

蒸れた靴下を常に顔に載せているような

不快感を伴う状態なんです、

清潔好きの君がこんなものを好むなんて

判断を誤っているとしか思えない」

と主張するわが夫(英国人)。

こんな彼になんとか

髭を剃らせない秘策はないものか。


ちなみに夫の髭、

職場ではおおむね好評なようです。

不快感を表明したのは一名だけで

(「その顔は職務規定違反じゃないか?」

と言われたらしい、どんな規定だ)、

他の人は皆様

そいつは似合うぜと賞賛してくれたそうな。

特に女性の同僚は全員

「剃るな。残せ。今日から髭でいけ」

と夫の説得に当たってくれたとのこと、

皆ありがとう。

しかし夫は聞く耳を持っちゃいない


「夫よ、はっきり言って

貴方は髭があると4割増ハンサムになるのよ、

ということは逆にここで髭を剃ると

外見上の点数が4割下がるのよ、

これは評価基準の問題なんですけどね」

「君は僕の外見ではなく

内面を好きなってくれたと思っていたんだけど?」

「そんなのは当たり前だろ、

しかし配偶者がより美しくなるのは

誰にとっても嬉しいことじゃないか!

わかったこうしよう、

貴方がその髭を守ってくれるなら、

私も二の腕と鼻の下の無駄毛の処理

もっとマメにすることを約束する!」

「・・・それは人として当然の

身だしなみレベルの話と思うが、違うのか?」


私の口車をもってしても

曲げることのできない、

そう、夫は鋼鉄の意志を持つ男。

こういう人が左翼思想に染まると

周囲は大変なことになるのだと思います。


それにしても夫の髭面は

洒落抜きで女性に対し好印象を与えるようで

仕事帰りにジムに行ったら

受付の女性が夫の顔を見るなり

「あらミスター○○!お久しぶりです!

しばらくお見かけしなかったうちに

ずいぶんと体を絞り込まれましたね、

それにそのお髭!

とてもとてもお似合いですわ!」


「僕、ジムの受付さんに

名前を覚えられているとは知らなかったよ」

と夫はにこにこしておりましたが、

個人的な意見としては

あの好意に満ちた挨拶は

君の髭に向けられたものなのではないか、と。

あの受付嬢がジム利用者に

あんな笑顔で話しかけるところ

私も貴方も初めて見ただろう、と。


しばし考え込んでいた夫、

ふと何かひらめいた様子で

「あっあのさっ、僕の髭、

どうも女の人に人気みたいだけどさっ、

もしこのまま伸ばし続けたら将来、

女の人から、う、浮気とか、

さ、誘われちゃうかもしれないじゃん!

君はさあ、そういうの平気なのっ?」

「馬鹿ねえ夫、私は貴方が

そんなことをする男じゃないって信じているし、

それにもし万が一貴方がそんなことをしたら

生まれてきたことを後悔するほど

恐ろしい目にあわせてやるって

いつも言っているでしょ?

私はけっこう有言実行の女よ?」


・・・家庭内の雰囲気が

スターリン統治時代のロシアのような

殺伐とした雰囲気になってきたのは気のせいか。

革命の方向性が誤っているのでしょうか。