前回 からの続き。
携帯の画面に、武藤さんの名前を表示させる。
通話ボタンを押すだけで、武藤さんに繋がるのかと思うと緊張もするし、何を話したら良いのだろうかとも思う。
仕事中は『即断即決の人』と言われる私でも、プライベートでは決めあぐねる事柄も多々ある。それが当たり前か-----呟きながら、緊張紛らわしにタバコに火をつける。
「ふぅー・・・っ」
じりじりと燃えるタバコの先から、紫煙が舞う。
20歳を過ぎてから覚えたタバコは、すっかりクセになっており、この先よほどの事がない限り、禁煙は無理だろう。
壁に掛った時計を見ると、時刻は21時を過ぎようとしている。
電話をしないと言う選択もあるが、それではすぐりさんの顔も立たないだろう。
それに武藤さんが私に話し掛けてきたのだって、紹介者の安藤さんの顔を立てての事だろうし。それならば、おあいこではないかという結論に達し、私はやっと通話ボタンを押した。
数度目のコール音の後に「はい」と言う、事務的な声が鼓膜に響いた。
反射的に、仕事で電話をするような-----よそ行きの声で名前を告げ、すぐりさんから電話をするように言われた旨を伝えた。
「あぁ、それで」
抑揚のない声に気圧されてか、知らず返答に詰まる。
矢張り迷惑だったのだろうか、もう切った方が良いのだろうか。
迷いあぐねる私に、武藤さんは「そう言えば、由樹さんの吹奏楽以外の趣味は?」と聞かれたので、つい「趣味はー・・・囲碁です。二段なんですよ」と、答えてしまった。
数年前から、仕事で知り合った会社の社長さんにすすめられ、囲碁を習っている。
良い先生に付けたのと、性に合っていたのもあってか、わりかし早くに昇段できた。が、囲碁が趣味だと言うと大抵の男性は、オヤシ臭い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、ドン引きになる。
矢張りここは可愛く「趣味は~バードウォッチングです(意味無し)。小鳥のさえずりを聞くのがぁ、好きなの」とでも言っておくべきだったかと、早くも大後悔。
「えぇっ!そうなんですかっっ!!実は、僕も棋界に興味がありまして・・・。将棋の他にも囲碁もやってみたかったんですよ~」
・・・・・・・・思いがけず、共通項発見。
囲碁が趣味だと言ってドン引きしなかった男性に、それも囲碁にも興味があると言う男性に初めて巡り会えた瞬間でもあった。
驚きを隠せない私に、彼は最近の囲碁界の様子。
囲碁に関する本でどれが一番、オススメか等を語った。
すっかり気を良くした私と彼はその後、40分間ほど棋界の話で盛り上がった。
何となくではあるが、お互いの間に漂っていたぎこちなさ-----のようなものも解け、打ち解けた雰囲気になる。
「こんなに趣味が合う男性は初めてですよ」
「そ、そうですか・・・?」
「えぇ」
何気なく発した言葉に、武藤さんの声のトーンが落ちる。
なにか、誤解された----?
そう思わないでもないが、社交辞令でもこれ位は言うだろうと思い直す。
しかし予想に反して、武藤さんは咳払いをすると---------------------、言いよどむ事無くはっきりと私に告げた。
「僕は由樹さんのことを、恋愛対象としては見ていませんから」
続く
・・・自意識過剰なヤツめ!!と思ったことは、言うまでもなく汗。
引き続き、1クリックお願いいたします![]()