ああ格差 | 行雲流水~へき地の一人病理医の日常

行雲流水~へき地の一人病理医の日常

兵庫県の赤穂市民病院に勤務する病理医です。学士編入学を経て医学部に入学し、2004年卒業。病理専門医、細胞診専門医です。

書店で見た週刊誌は正反対のことを言っていた。


ニューズウィーク2月21日号は「格差社会はいいことだ」

http://www.newsweekjapan.hankyu-com.co.jp/contents/index.html


東洋経済2月24日号は「貧困の罠」

http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/

ニューズウィークを読むと、ちょっとむかっと来た。金持ちが浪費すれば貧乏人が潤うというのが趣旨。おいおい、それで無保険者だらけを放置しているのかい。


一方東洋経済は無残な貧困の現状をルポ。


年金で生活できないから、東南アジアなど物価の安い国を点々する国際ホームレスがいるという話に衝撃をうけた。


このふたつはちょっとすれ違っているように思う。


もちろん誰も完全平等なんか求めていなくて、格差はインセンティブになるから否定できない。


だって、大学受験なんて究極の格差(偏差値)なんだし、そういうのは一生続く。


ニューズウィークの記事で面白いなと思ったのが、アメリカでは格差是正策は人気ないのだという。なぜなら、自分が大金持ちになるチャンスがあると思っているから。


最近の日本では、究極の貧乏だけれど、一発あてたる、なんて話は難しくなってきた。ITベンチャーの社長が東大卒なんてのは、その例だ。富めるものが富む。


日本では下克上ができにくいのだ。今までうまくやってきたのは、右肩あがりの経済だったから。


今は裕福層ががっちり利権を守る。ルールを作る側が自分の財産を減らそうとするわけない。ノブレスオブリージュもないから、寄付とかで貧困層へ還元しようとするヒトも少ない。


あっち側とこっち側の高い壁。


これだけ裕福なんだし、餓死する人もいないし、平等じゃん、という意見も多いが、東洋経済の記事を読むと、それも危うくなってきているようだ。医療が受けられない人が多数いる。


壁ができて、しかもセーフティネットがなくなって、アメリカより悪くなってきているのではないか。今の日本。


神野 直彦, 宮本 太郎
脱「格差社会」への戦略

「リベラル」(左派)から格差問題を扱った本。


既に日本は小さな政府なのに、これ以上小さくするのかとか、所得税の累進課税が緩んたために、国の税収が景気回復傾向なのに増えないとか、さまざまな問題を指摘する。


統計にそもそものらない貧困層が存在するという指摘は、格差の実感と統計の乖離を説明しうる。女性のアンペイドワークなども、きっちりと考えなければならない問題だ。


また、世代的な格差も明らかにし、人生前半の社会保障の薄さがフリーター問題を引き起こしていると解く。


教育の機会平等など、非常に考えさせられた。ここがしっかりしていないと、アメリカのような、自分が成り上がれる希望も失われる。


労働市場は乗り降り自由なバスでなければならない、という点は共感。