メモリー13:「悪者~でんじはのどうくつ#1~」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 “でんじはのどうくつ”の入口でコイルたちに見送られた後、ボクとチカの二人は、自分たちの背丈の何倍もの大きさの岩に囲まれて出来た………まるでトンネルのような狭き道を進んでいた。幸いここまで他のポケモンにも遭遇せず、その結果大きなバトルもすることもなく、順調に奥へと進むことができてる。


 「ふう~。やっぱりこのバッジのおかげなのか、昨日の冒険と違ってラクだね、チカ」
 「そうだね。このまま無事にコイルたちからの依頼を………、私たち“メモリーズ”の初めての仕事を成功できたら良いね」


 不思議なことに、昨日の“ちいさなもり”での冒険の始まりと違ってボクらはかなりの余裕を感じていた。確かに今日は正式な救助隊として、大事な仕事となってるのは間違いないのだが、そんなことさえも忘れるくらい気持ちがラクだった。


 多分昨日の冒険と異なり、不思議なダンジョンに挑む態勢がきちんと出来てる事が大きいのかも知れない。お互い首に巻いてる赤いスカーフに付いた小さいバッジ………、これにダンジョン特有の「自然に体力が削られる」事から、小さい身を護られてる安心感。それがボクたちの余裕を生んでるのかもしれない。


 …………と、その時だった。ボクの前に急に開けた場所が見えたのは。


 「かなりこの洞窟の中に進んでるってことなのかな?とにかく先に進んでみよう、チカ!」
 「うん!」


 後ろを振り返ってチカに声をかけるボク。お互いにもう一度気を引き締めて、その開けた場所へとボクたち“メモリーズ”は突入した。


 余談ではあるが、ボクたち二人は入口からこの場所に来るまでの間、不思議なダンジョンにて、救助隊の活動をするときの“約束”を決めていた。


 ①ダンジョン内ではチームリーダーであるボク(ユウキ)を先頭に、チカが後ろを歩く。但しバトルする際は臨機応変にメンバーのチカが周りをサポートする事が必要になるため、このフォーメーションとは必ずしも限らないものとする。

 ②基本的に自分勝手な単独行動はNG。常に一緒になって力を合わせて行動する。バッジに身を護られてるとは言え、先に何があるかわからないダンジョン内での無駄な体力、道具の消費を避けるため。作戦名“いっしょにいこう”。


 この2点は昨日の“ちいさなもり”での最深部での失敗を教訓に決めた。あのとき奇跡的にボクたちは何とかピンチを切り抜けたが、この先そうそう何度も上手くいく保証は全くない。何よりまだまだバトル経験も、救助隊としての経験も少ないボクたち。地道だし、時にはじれったいこともあるかもしれないが、リスクを少しでも軽減するって意味では必要になってくるに違いない。


 そんなボクたちが突入した場所、そこはゴツゴツした岩や荒れた地面からからわずかに草が生える程度の、洞窟ならではの厳しい環境だった。そしてどういう訳なのか太陽の光が射し込んでる訳でもないのに、下手をしたら洞窟の外よりも明るく感じるほど、とにかく明るかった。


 「スゴいね。お日さまがある訳じゃないのに。でもおかげで周りの様子も探りやすそうだね、ユウキ」
 「そ……そうだね、チカ」


 そんな奥地の様子を見てますます張り切るチカに対して、ボクは体の異変を感じていた。先ほどまで全く体調不良など感じなかったのに、この場所に突入してから急に息苦しくなり、更には風邪を引いたときみたくダルさまで覚えた。そして目眩までしてるのを感じた。


 (ハァ………ハァ………。一体どうしてなんだ?バッジの効果でダンジョンの悪影響からは護られてるはずなのに………)


 ボクは思わぬ事態に困惑していた。そして、もしかしたらチカも何かしらの異変を感じてるのかもしれないと、後ろを振り返る。


 「ねぇねぇどうしたのユウキ?なんだか変だよ?急に立ち止まったりして。早く先に進もうよ!」
 「え?ハハハ、なんでもないよー。さぁ、先に進もうか!」


 しかし彼女は不機嫌そうな表情を浮かべながら、ボクを急かす。その様子からはボクが感じてるような苦しそうな様子などは全く感じられなかった。


 (チカは………チカはなんとも無いみたいだな………。良かった………。でもそれじゃあなんで………なんでボクだけこんな苦しいんだ?)


 そんなチカの様子にひとまず安心したボクだったが、そうなるとますます自分の身に生じたこの“異変”が、一体なんなのかわからなくなる。


 (ハァ………ハァ………。と、とにかく前に進んで、コイルを見つけなきゃ………。しっかりしろボク!)


 なかなか言うことを聞いてくれない自らの体にゲキを飛ばし、なんとか動かすボク。気のせいかだんだんと体が重くなってるようにも思えた。


 ………と、そのときだった。


  ………ヒュッ!ゴツン!
 「キャッ!」
 「いてっ!?なんだなんだ!?」


 突然どこからか小さく硬い石が飛んできた。無論その事にボクとチカは気づけず、結果避けることも出来ず、もろに石が直撃してしまった。


 「これは………“ゴローンのいし”?」
 「チカ、何か知ってるの?」
 「うん。これは“ゴローンのいし”って言って、ゴローンって種族のポケモンの体を作ってる石に似てるからそう言われてるんだ。小さい子どもがオモチャにしたり、遠くにいるポケモン目掛けて投げる道具として、救助隊が使うこともあるんだよ」
 「そうなんだ。ってことはもしや……この近くにポケモンがいる!?」


 地面に転がってる石を拾って説明をするチカ。それを聞いたボクは周りをぐるっと見渡す。しかし、辺りはシーンと静まりかえっているだけで、特別他のポケモンがいるような気配は感じなかった。


 「そうだね、きっと。気を付けなきゃ!」


 “ゴローンのいし”を握ってるチカの表情も急に厳しくなった。赤いほっぺからはバチバチと電気がほとばしる音も聞こえる。………と、ここでボクたちは誰かの話し声がすることに気づいた。







 「やったなコラッタ!悪者に当たったぞ!」
 「まだまだ油断出来ないよポチエナ!やい、悪者!早くここから出ていけ!!じゃないとまた“ゴローンのいし”でやっつけてやるぞ」


 話をしているのはねずみポケモンと呼ばれる種族のコラッタ、それからかみつきポケモンと呼ばれる種族のポチエナだった。雰囲気や話し方から考えると、まだ幼い子供なのだろうとボクは思った。


 「わ………悪者って。ボクたち違うぞ!困ってるポケモンを助けに来たんだ!」
 『嘘つくな!“たいあたり”!』
 「わわっ!」


 この2匹の誤解を解こうとしたボクだったが、彼らは全く聞く耳を持たず2匹同時に、ボクの方へと勢いよく突っ込んできた。


  ゴォォォォ!!
 『うわっ!?』


 ボクは慌てて二匹に“ひのこ”を飛ばした!しかし、


 「このやろう!何するんだ!“かみつく”!!」
 「わわっ!」


 慌てて出した“ひのこ”だったので、パワーが足りなかったのか、二匹は更に怒りながら攻撃してきた。と、そのとき。


 「そうはさせない!」
 「!?」


 背後にいたチカがボクの前に出てきた。彼女はそのまま電撃をぶつけたのである。


  バチバチバチバチ!!
  


 『うーん………』


 ボクに襲い掛かってきた2匹は、まだ幼かったこともあってか、それほどバトルが得意じゃないと言うチカの“でんきショック”の一撃でも目を回して倒れた。


 「大丈夫、ユウキ?ケガはしなかった?」
 「え?あ………う、うん。助かったよ、ありがとうチカ」


 心配そうにボクに声をかけてくれるチカ。ボクはその表情に一瞬ドキッとなって恥ずかしくてカーッと熱くなってしてしまう。なんでだろう。チカの一つ一つの仕草が可愛く感じてしまう………。


 「良かった♪私、まだ技をコントロールするの慣れてないけど、ユウキと一緒なら大丈夫な気がするんだ。だってユウキは私と約束してくれたから。ユウキの力になる為にどんなことも頑張るよ。今はまだ出来てないかも知れないけど、ユウキをちゃんとしっかりサポート出来るように私、頑張るね♪」
 「あ………ありがとう」


 チカは飛びっきりの笑顔でこう言った。そこには昨日初めて出会った時の“おくびょう”な様子は全くなかった。本当に憧れてた救助隊として活動できるのが嬉しいのだろう。ボクはそんな彼女の姿に頼もしさ、安心感を感じていた。


 ………しかし、そうしてる間にもボクの身に起きてる“異変”は続いた。


 「ハァ………ハァ………ハァ………」


 ダンジョンの中を冒険すればするほど、ますます息苦しくなるボク。視界もぼんやりしたりしなかったりする。足取りも重いし、やっぱり何だかダルい。一体どうしてなのか原因がわからず、不安と焦りが募る。しかもこの“異変”は自分だけが感じていて、チカには全く降りかかってないという事実もボクを苦しめた。


 ………そんなボクに更に厄介な事がそこへ加わる。


    バチッ!!
 (うっ………くっ!!)


 時折体に激痛が走る。まるであちこち目に見えぬ相手からムチで叩かれてるかのように。後ろにいるチカに心配かけまいと必死に堪えるのが一苦労だ。


 (一体なぜボクだけがこんな目に遭うんだよ………。このままじゃ先に倒れちゃう。何もしてないってのに。なんだよ、こんなんじゃせっかく頑張ってくれてるチカの足手まといじゃないか!)


 どうにもならない“異変”へと募ってきた不安と焦りが、段々と冷静を奪っていく。苛立ちも感じ始めた。


 だが、そんな不安なボクを支えてくれる存在がすぐそばにいた。チカである。


 「どうしたのユウキ?やっぱなんだか変だよ?顔色も悪いように見えるし。一体どうしたの?」
 「チカ………」


 彼女はいつの間にかボクの隣にいた。不機嫌そうにボクの姿を上目遣いで覗いてる。ぎゅっとボクの手を握るその手に不思議と温かさを感じた。


 「な………なんでもないよ!大丈夫大丈夫!ボクは元気!ハハハ、どんどん先に進まなきゃね!」
 

 ボクは無理やり笑って“からげんき”を出して、チカに心配かけまいとした。しかし、


 「ウソつき」
 「え?」


 突然それまでの不機嫌そうな表情が一転、ぼそっと一言呟くと彼女は悲しそうな表情へと変わった。そして目が点になってるボクにそばに寄り添り、こんな風に優しく言った。


 「ユウキ。本当に辛くないの?さっきから後ろで見ててフラフラしてるように感じるし、息をするの苦しそうだし、何より“ヒトカゲ”にとって大切なしっぽの炎だって、この場所に来てからしっぽの先から小さな煙がブスブス見えたりして、不完全燃焼してるようだよ?本当に無茶してない?大丈夫?」
 「……………」


 ボクは自らに不甲斐なさを感じていた。自分なりにはちっともチカには“異変”がバレてないものだと感じていたのだが、彼女は全てを見破っていたのである。仮にこの場所に来てからの“異変”を伝えれば…………チカのことだ。もしかしたら何かしら原因を見つけてくれて、対処してくれるかもしれない。


 ………でも、この時ボクは本音を伝えることはしたくなかった。


 「大丈夫だよ!ちっとも辛くなんかないし、きっと洞窟の中は外と違って新鮮な空気が十分に吸えないときもあるから、しっぽの炎も不完全燃焼してるように見えるだけなんだよ!ゴメン、何度も心配かけちゃって」
 「ホントに?」
 「ホントだよ。多分ボクたち“ヒトカゲ”はまだ体が小さくてたくさん新鮮な空気が吸えないのに、しっぽの炎を燃やすのに人一倍新鮮な空気が必要だから、きっとアンバランスになるんじゃないのかなー?」
 「そうなの?それじゃ私がピチューだった頃に上手に電気を溜めることができなかったのと同じ理屈なのかな?」
 「多分ね」


 こんなの真っ赤な嘘だった。自分は記憶は失ってるものの、本来的には人間。昨日訳もわからず、“ヒトカゲ”になっただけで、本当は“ヒトカゲ”の事など全くわからないのである。でもこの時は本音を言いたくはなかった。強がりでもいい。懸命に嘘をつきたかった。なぜなら、


 (ボクだってチカに迷惑なんかかけたくない。心配かけたくない。チカは一つ一つちゃんと強くなろうとしている。ボクをサポートしようって頑張ってくれてる。なのにボクがチカをサポート出来なくてどうするんだ。余計な心配をかけさせて、不安にさせたらどうするんだ。絶対に負けるもんか!)


 ボクは自分を奮起させようとする。もう一度深呼吸をして、前へと進む。それを見て慌てて後をついてきたチカがアドバイスをする。


 「でも待ってよ、ユウキ!それじゃあ炎技も上手く出せないんじゃない!?技を使う時って凄いパワーが必要なんだよ!もしかしたらパワーの反動で力尽きちゃうかも知れないから、あんまり強い技は使うの控えた方が良いかもしれないよ!」


 そんな彼女にボクは笑顔で答えた。


 「ありがとう、でも大丈夫!ボク、頑張るから!“メモリーズ”としての初めての活動を成功出来るように頑張るから!しっぽの炎も今は小さな炎だけど大丈夫!ちゃんと頑張れるよ!」
 「そうなの?………うん、わかった!一緒に頑張っていこうね、ユウキ!」


 ボクの姿に笑顔を見せるチカ。一生懸命手助けしてくれるこの“パートナー”の為にも頑張らなきゃ。


 …………と、決心したその時だった。


 「そうはさせないぞ、悪者め!」
 「よくもさっきは俺たちを攻撃してくれたな!手加減したからっていい気になって!絶対にこらしめてやる!」
 「またお前たちか………」


 自分の耳に届いた声の方に振り返るボク。そこにいたのは先ほど出くわしたあの2匹だった。






 「全く………。キミたち、さっきからボクの話を聞いてる?ボクや一緒にいるピカチュウはキミたちの言うような“悪者”じゃないんだ」
 「私たちは救助隊なの。あなたたちもきっと噂で聞いたことがあるでしょう。この“でんじはのどうくつ”の中で困ってるポケモンがいる。そのポケモンを助けなきゃいけないの。だからお願い。ユウキと私を先に行かせて!」


 ボクとチカは再び姿を現した2匹のポケモンをなんとか説得しようとした。ところが………、


 「うるさい!そんなこと信用できるもんか!つい3日前にお前らと同じように救助隊だって言ってた3人組がこの場所を荒らしていったんだ!」
 「俺たちが必死に集めた宝物だって、たくさん集めたタネだって奪っていったし、みんなが使っていた遊び場所だって壊されたんだぞ!お前ら救助隊なんてみんな“悪者”だ!」
 「な、何するんだ!!や、やめろー!!」


 ところがその2匹………コラッタとポチエナは全く聞く耳を持ってはくれず、ボクらに襲い掛かってきた。ボクは腕をブルンブルンと大きく回して、すぐさま2匹を振り払った。ボクたちが救助隊とわかった瞬間、彼らの表情に怒りと憎しみが生まれたように見える。チラッとしか見えなかったので確信は無かったが、その目には若干うっすらと涙も浮かんでるようにも感じた。


 しばしボクと2匹は互いににらみ合う。緊張がその場に走る。


 …………と、ここで。


   スタスタスタ………
 (チカ?)


 それまでボクの後ろに回っていたチカが、隣にやって来た。そしてなんだか心配そうな表情をしたまま彼らにこうたずねた。


 「………お願い。私たちはこれ以上あなたたちに攻撃しないって約束するから…………その代わりもう少しだけ私たちに教えてくれないかな?嫌なことだから思い出したくないかもしれないけど…………さっき言っていた、あなたたちを3日前に襲った救助隊って………一体どんなポケモンたちだったのかを」


 
 ここまで聞いてボクは、そう言えば彼女が救助隊のリーダーを務めているエーフィの元で一緒に暮らしている身だと言うことを思い出した。まさかとは思うが、自らを支えてくれてるエーフィ率いる「モーニング」が、悪事を働いてるのでは無いのかと心配したのだろう。何せ「モーニング」もチームメンバーが3匹なのだから。


 しかし、そんな彼女の心配も、次のポチエナとコラッタの証言により杞憂に終わる。


 「どんなって………あのポケモンはゲンガー、アーボ、それにチャーレムだった」
 「宝物探しをしていたコラッタを捕まえて俺に、“自分たちの言うことを聞かなきゃ、コイツにひどい目に遭わせるぞ”って脅してきたんだ!それでコラッタを助けようと、アイツらの言うようにこの辺りに散らばってるアイテムを集めて渡したら、“これだけじゃ満足しないなー!お前らの分もよこせ!”って、俺たちが今まで集めたアイテムまで無理やり奪ってたんだ!」
 「そうだったんだ………」


 チカは安心した表情を見せたが、そのゲンガー、チャーレム、アーボらの救助隊の働いた悪事に悲しみを覚えた。ただでさえ自然災害の多発で、不安や恐怖感を感じてるポケモンが数多くいる現実。
 それなのに救助活動の道中に、阻んでくるポケモンがいるからと言って、次から次へとダンジョン内のポケモンへ危害を加えて更なる混乱を招いてる………となれば、そこを居住地としてる彼らから“救助隊”ということで侵略者とみなされ、襲撃を受ける可能性もある。


 その故に救助活動でのバトルは極力最小限にし、救出………依頼成功をしたら速やかな脱出を心掛けようと、チカからアドバイスも受けてる。それだけにコラッタとポチエナからの証言に、ボクとチカは複雑な想いを感じた。


 「お前たち救助隊なんて俺たちにとってみんな“悪者”だ!“悪者”を先には行かせないぞ!ここから追い出してやる!」
 「えっ!?待ってよ!私たちはあなたたちとはバトルしないって思って………」
 「知るもんか!“たいあたり”!!」
 

 チカの説得も及ばず、コラッタとポチエナがまたも襲いかかってきた。


 …………しかし、いくら彼らがボクたち“救助隊”が恨んでいようと、それで力の差が埋まることにはならない。


 「あーーもうっっ!!いつまでもグダグダうるさいぞ!救助隊に何の恨みがあるか知るもんか!言いがかりもいい加減にして、黙ってここを………通らせろ!!」
 「ユウキ!?やめて!」
 「うるさい!!ボクに構うな!」
 「キャ!」


 ボクは何も進展しない状況に、言い様の無いイライラが募っていた。チカはそんなボクを制するも、強引に振り切られて更に反動でその場に尻餅をつく。ボクはというと、勢いそのまま二匹へと飛びかかり、そのまま鋭く立てた爪で思い切り彼らを“きりさいた”!


  シュパッ!!シュパッ!!
 「うわぁ!」
 「ぐわっ!」
 「…………ッ!!」


 次の瞬間、チカは目の前で起きた出来事に、思わず両手で目を覆ってしまう。いくら自分たちを襲ってきたとは言え、相手
はまだ未熟な子供。そんなことお構い無く遠慮なく滅多打ちにしてるのは、元人間のヒトカゲ、ユウキ。…………そう、チカにとって昨日自らの念願の夢を叶えさせて、温かく支えてくれてる優しい存在が、非情とも言える無差別攻撃をしてるのだ。


 そのにわかには受け入れ難い事実が目の前で起きてる。その事が頭の中で過ると、彼女は震えが止まらなくなり、涙が出てきた。なぜこんな事態に急転したのかを必死に自問自答し、他に平和的な解決法が無かったのかと悔やむばかりだった。






 「………はぁ……はぁ……。わかったか。ボクたちだって必死なんだ。この先で不安や危険と隣り合わせなポケモンが待ってる。こんなところでぐずぐずしてられないんだ……。邪魔をされるなら、君たちのような相手でも手加減しないで蹴散らすだけだ………」


 ボクは目を回し傷だらけでボロボロになってる二匹にこう呟いた。出来ることならここまで彼らを傷つけたくはなかったが………今はこうするしかなかった。



 「行こう、チカ。先に行かなきゃ。コイルを助けに………」


 色々モヤモヤしてる部分はあるけども、ここで迷うわけにはいかない。ボクはまだ目を覆っているチカに手を差し出し、そして誘う。しかし、


 「イヤ………イヤ………」
 「え?」


 彼女はそれを拒むように首を左右に振り、続けてこう言った。


 「やっぱり………私の考えって甘いのかな?みんなが平和に暮らせる世の中にしたいから、なるべく他のポケモンとのバトルを避けるってことは………ダンジョンを進むのに邪魔な考え方なのかな?」
 「……………」


 ボクは返答に困ってしまった。というのも、自分も基本的には彼女と同調路線。必要以上のバトルを避けて平和的に解決したい。いくら誰かを助けるためとはいえ、それを「正義の盾」のようにかざし、無関係な他のポケモンを傷つけて悲しい目に遭わせようなど、これっぽっちも考えてない。


 でも、ボクなりに今回は本当にやむを得ない状況だった。彼らを説得しても、ボクら“救助隊”への認識が変化する様子は見られなかった。そして変わることも無かっただろう。仮にあのまま説得しようとしたら、相当な時間を費やしたに違いない。そうなればその分、このダンジョンの最奥部にいるコイルたちの仲間を助け出すのも遅れてしまう。そうすればボクらの“救助隊”としての意味を失ってしまう。それが嫌だった。でも………、




 「…………チカの考えは間違いじゃないよ。ゴメン、ついカーッとなってしまって。ボクが悪い。次から気を付けるよ」
 「………うん、お願いだよ?」


 またボクはそんな本音を隠した。だって“メモリーズ”はボクだけのチームじゃないから。 “救助隊”になりたかった彼女の夢も乗せているから。少なくとも今日の“でんじはのどうくつ”内では、彼女は自信もって、そして時折笑顔を見せながら冒険してる。そんな彼女の小さな“変化”を、ボクは無駄にしたくなかった。


 「とりあえず先に進もう。ボクたちの“メモリーズ”の初めての仕事を成功させるために………ね!」
 「うん。でも、ちょっとだけ待って欲しいんだ」


 潤んだ瞳を拭いながら再び笑顔になったチカ。彼女はそうやって言うと、未だ目を回してるコラッタとポチエナの元へと駆け寄った。そこで、


 「乱暴に攻撃してゴメンなさい。これ、良かったら食べてね?傷を治して元気になれるから。そして約束するね。あなたたちに酷いことをしたチームを探して、二度とこんなことさせないようにするから………」


 と、優しく声をかけて道具箱から“オレンのみ”を2つ取りだし、彼らのそばにそっと置いた。そして一歩、また一歩と下がりクルッと体の向きを直してボクの方に振り向く。


 「ユウキ、行こう。コイルたちの仲間を助けに」
 「うん、そうだね」


 手を差し出してきた彼女の様子を見て頷くボク。コラッタとポチエナの無念を晴らすと決めたボクらの救助活動はまだ始まったばかりだ。



    ……………メモリー14に続く。