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「へへへ。お母さんに内緒でこんな遠くまで来ちゃった。僕も“メモリーズ”みたく、みんなの“ヒーロー”になる練習をするぞ♪」
ここは“ポケットタウン”から見て遥か北側に位置する深々とした森。その中にボクたちが昨日“ちいさなもり”で助けたキャタピーちゃんが、ウキウキしてる様子で姿を現した。
………と、次の瞬間である!
「よーし!まずは“いとをはく”で悪いポケモンを退治する練習だ!えい!」
彼はキリッとした目付きに変わる。するとその口から白い糸を、自分よりもずっと大きい木に向かって放った!
ビュッ!ビューーーーッ!ビダッ!
勢いよく放たれた白い糸が木にぶつかる!その瞬間………一瞬ではあるが木が揺れ、空からはその木が持ち主であろう葉っぱが、何枚かユラユラと落下した。
「あっ!あっちからも悪いポケモン!えいっ!!」
ビュッ!ビューーーーーー!ビダッ!
キャタピーちゃんは背後に振り向くと、先ほど同様に口から白い糸を放つ。無論その糸は木にぶつかる……そしてまた葉っぱが何枚かが、再び空からユラユラと落下してきたのだった。
どうやらキャタピーちゃんの言う“練習”とは、自分よりずっと大きい木を悪者に見立てて退治する……ヒーローごっこみたいなものなのだろう。
「見たか!正義のヒーローに勝てない悪者なんていないのさ!どんな相手も必ず倒せるんだ!」
キャタピーちゃんがキリッとした目付きで、自分の他に誰もいない森の奥の方へ向かって決め台詞を放った………そのときだった!
「ビビビ!ダレカー!ダレカイナイカー!!!」
「だ……誰ですか?」
森の奥から響く聞き慣れない片言風の声に、キャタピーちゃんは一瞬動揺してしまう。間もなくして木々の葉と擦れながらなのかガサガサと音を立てながら、その声が徐々に近づいてくる。
「ビビビ!タスケテクレー!」
「わっ!?」
そしてその声の主………じしゃくポケモンと呼ばれる種族のコイルが、慌ただしく姿を表した。小さい体でありながら猛スピードで登場し、ついでに種族の特性である“ふゆう”の効果で空中に浮いてた為、キャタピーちゃんは一瞬その姿を見失いそうになったが、
「あの~………すみません。一体どうしたんですか?」
「キ……キミハダレダ?」
フッとコイルが急降下してきたタイミングを伺い、キャタピーちゃんが彼に声をかけてみた。その呼び掛けに気がついたコイルがキャタピーちゃんに近くによってきた。ただならぬ様子で「助けてくれ」と叫んでるのを見ると、何かこの森の奥で問題が起こってるのだろうか………?
その頃ボクの家の前では、チカがボクにこうやって尋ねてきた。
「ユウキ。まだ救助の依頼が届かないみたいなんだけど、このあとどうする?」
「うーん……そうだなぁ」
ボクは一瞬返答に困った。今の見た目は“ヒトカゲ”だけど、元々は人間。ポケモンでありながら、チカと違って冒険に必要な知識がある訳じゃない。その知識を増やすのが先決だろうけども、救助隊の活動をスムーズに行う意味では、急に自然災害が増えた理由も含めて、少しでもこの世界の事を知ることも必要だろう。もちろん出来ることなら少しでも早く、人間に戻る為の手がかりが欲しい。もうやらなきゃいけないことがありすぎて、どうしたら良いかわからないや。
「逆にチカは何かしたいことってあるの?何だかボクのことばっかり気にしてもらっていて、悪い気がするんだ。出来ることは限られてるかもしれないけど、ボクも仲間の為に、力になりたいんだ」
ボクはチカに聞いてみた。彼女にとっては誰かの力になることが嬉しいことかもしれないが、同じチームになったからにはボクばかりが、支えられてるような状況にはしたくない。少しでもボクから彼女の支えになるようなこともするべきだろう。
ボクの意見に対して彼女は少しの間黙っていた。その後少しだけ笑顔を見せたものの、何か無理をするかのように右手を出し、首を小さく左右に振りながらこう言った。
「ありがとう。でも良いよ、ユウキ。私のことは気にしなくても……。救助隊になりたいって思ってたことを協力してくれてるだけでも、すごくありがたいし………」
「でも、それじゃチカばっかりに負担がかかるじゃないか。チカが良くてもボクが納得できないよ」
ボクはこの時、自分は周りを振り回してしまうような困ったところがあるかもしれないと思った。人間時代の時からそうだったかはわからないけど、昨日から出てるこのまっすぐ過ぎるが故の融通のきかない頑固さ、何かしなきゃいけないって気持ちからの余計な親切心みたいなのから、そんな感情をボクに抱かせる。
………すると彼女は次のように答えた。
「う~ん……そこまでユウキが言うなら一つだけお願いがあるんだ。嫌がるかも知れないって思って黙っていたんだけど……良い?」
「別に構わないさ。で、一体どんなことなの?」
ボクは一瞬表情を曇らせ首を小さく傾げた。チカは何だか申し訳なさそうに話しているが、そんなに頼みにくい事ってなんだろう………と、頭の中で考えてると彼女はその内容を教えてくれた。
「うん。私からのお願いって言うのは、ユウキに“メモリーズ”のリーダーになってほしいな……って事なの。救助隊を登録してきたんだけど、そのときチームリーダーを決めて欲しいって言われたの」
「チームリーダー?もしかしてまだ“メモリーズ”は、正式な救助隊に必要なことが足りないってことなの?」
ボクはチカの言葉に疑問を感じたが、彼女は先ほどよりも首を左右に小刻みに何度も振りながら、慌てて否定した。
「ううん、違うの。“メモリーズ”はちゃんと登録出来たはずなんだ。“ポケモンニュース”の号外でちゃんと他の救助隊にも伝わってるし、第一こうして冒険に必要な道具が届いてるから、そこは安心して良いんだけど……。ダンジョンの中ではチームのメンバーをまとめたり、作戦を指示するリーダーが必要なんだ……。でも今の私にはそこまで出来る自信が無くて……どうしようかって迷っていたんだ」
話してるうちに段々とチカの表情が沈んで行く。さらにこんなことを彼女は言った。
「ゴメンね……。救助隊になるのが夢だったから、本当は私が中心になって頑張っていかなきゃいけないのに、昨日からユウキに頼りきって……」
「何言ってるのさ。ボクたちは同じ救助隊の仲間なんだよ。お互い出来ないことや不安なことを補っていければ、それでいいじゃないか。チカに不安なことがあるように、ボクだって不安なことたくさんあるんだし。その辺は一緒に力を合わせて頑張ろうよ!」
彼女の落ち込んだ姿を見て、ボクは励ましの言葉をかける。そして、
「良いよ。“メモリーズ”のリーダーになっても。良くわからないけども、きっと何とかなるだろうし。それでチカの助けになるんだったら喜んで頑張るよ」
「ありがとう…………」
と、ボクは胸元を叩いてチカの気持ちに応える意志を伝える。安心したのか彼女に再び笑顔が戻った。
こうしてまた一つ前に進みだしたボクらの救助隊、“メモリーズ”。………となると、早く本格的な救助活動をしたいなー……と、ボクが考え始めたそのときだった。
バサッ!バサッ!バサッ!
「おや?何だろう……」
突然チカが長い耳をピンと立てた。やや遅れて遠くからボクにも力強い音が聞こえる。この音は一体?
「ひょっとして……この音は……」
「ん?何か知ってるの、チカ」
チカは思い立ったように背後を振り返る。そしてこのように言った。
「もしかすると、色んな所にある救助隊に依頼の手紙や“ポケモンニュース”を届けるペリッパーさんたちかもしれない………」
「えっ?そしたらボクたちに救助の依頼が来るかもしれないってことなの!?」
チカの説明に“ヒトカゲ”のボクは、期待が膨らんで来たためか、しっぽを揺らしつつ目を輝かせる。………と、次の瞬間彼女が青空に向かって指さした。
「見て、ユウキ!ペリッパーだよ!こっちに向かって飛んできてるみたい!」
「ホント!?」
チカの言葉にますますテンションが上がるボク。よくよく耳にすると段々と音が大きくなっているではないか。と、次の瞬間である。
バサッ!!!
「わっ!!」
「キャッ!!」
突然ボクらの元にペリッパーが急降下してきた。ビックリしたボクたちは思わずその場に転がってしまう。
スコン!!
そんなボクたちのことなど特に気にすることもなく、ペリッパーがポストの中に何かを入れる。そしてそのまままた空高く飛び立ち、青空の中へ消えていったのである。
「ふぇ~………」
「ビックリしたね……」
その後しばらくしてから起き上がったボクとチカ。当然のことながら、既にペリッパーの姿はそこになく、それ以外特に変わった様子もない。
「もしかしたらこれは…………」
「うん、ボクもきっとそうだと思う」
チカが自分の背丈よりやや高いポストをまじまじと見つめる。恐らくチカの考えてることと自分の考えてることは同じだろう。彼女の呟きに小さくうなずくボク。
「ちょっとボク、ポストを調べてみるね!」
ボクはチカに告げると、すぐさまポストを開けて奥の方を手探りで調べる。すると、確かにそんな手応えを感じた。
「チカ、入ってる!手紙だよ!」
「ホントに!?もしかして救助の依頼かもしれない!ねえねえ、早く読んでみてよユウキ!」
「うん!」
彼女は目をキラキラと輝かせる。そんな彼女の希望もあり、ボクはポストの中から手紙を読んでみることにした。
《ビビビ!キミタチノコトハ、キャタピーチャンカラキイタ。タノム。タスケテクレ。コイルガピンチナノダ。ドウクツニフシギナデンジハガナガレタヒョウシニ……コイルトコイルガクッツイテシマッタノダ……。レアコイルトシテイキテイクニモ、イッピキタリナイシコノママデハチュウトハンパダ。オネガイダ。タスケテクレ。ビビビ。ーコイルノナカマヨリー》
そこまで読み上げると、ボクはやれやれと一息ついた。カタカナばかりの文章だったので、全文を音読するのに一苦労である。
対してチカはそわそわした様子で、ボクにこう尋ねた。
「どうするユウキ?行ってみる?」
彼女はボクの「よし!行こう!」って言葉を確信してるかのような表情だった。もちろん、ボクも同じ気持ちである。一刻も早く正式な救助隊として、この依頼をこなしたい。
(でも………これじゃきっとシナリオ的に読者さんたちに面白味無いだろうな。何だかすんなり行き過ぎてる感じがあるし。せっかくのポケダンの二次小説だし、ここは一つ………)
ボクは「No!」の返事をしてみるドッキリを敢行することにした。目をキラキラと輝かし、しっぽを小さく揺らすチカがどんなリアクションをするのか、反応を見ることにする。
「ねぇねぇユウキ?私の話、ちゃんと聞いてる?」
焦らすように拗ねた表情のチカが一歩ずつ迫ってくる。というか……いくらボクが元人間とは言え、種族が違うとは言え、女の子が近寄ってくるの……ちょっぴり恥ずかしいんですけど。ま、そんなことは良いや。
「イヤだ。ボク、本当は今日は救助隊の仕事したい気分じゃないし」
ボクは不機嫌そうな表情をし、プイっと彼女からそっぽを向いた。すると次の瞬間、跳び跳ねてビックリした様子のチカがこう言った。
「え!?どうして!?せっかくの初めての仕事だよ?ねぇ、ユウキ!一緒に行こうよ!」
「イヤだ。アレだったらチカが一人で行けば良いじゃん」
「えー!?どうして!?」
彼女のお願いをひたすら冷たく拒むボク。するとよほどショックだったのか、そのつぶらな瞳がだんだんとウルウルしてくる。
「さっきユウキ自分で言ってたのに。………私たち同じ仲間だから力を合わせていこうって……一体なんでそんなこと言うの?」
落ち込んだ様子でチカがボクに聞く。さすがにここまで真に受けられると可哀想だな……よし、ここら辺でドッキリは終わりだ。
「ハハハ……ウソだよ、チカ。ボクももちろんコイルたちを助けにいくよ!頑張っていこうね!……………って、アレ?」
ボクは満面の笑みを浮かべてチカにそう言う。当然ボクとしては「そう来なくっちゃ!頑張っていこうね、ユウキ!」って言葉を期待してたのだが…………明らかにチカの様子がおかしい。彼女の赤いほっぺたからバチッバチッと電気がほとばしる音が聞こえる。………もしかして………もしかすると………怒ってる?
「ユウキの……………バカーーーーーー!!!!!!!!」
「ぎゃああああああああ!!!!」
その後、“メモリーズ”の拠点(?)がある“ポケットタウン”から見て北部にある“でんじはのどうくつ”と呼ばれる…………コイルたちが助けを待ってる場所にたどり着くまで、ボクがひたすら謝まり続けたが、チカの機嫌が直るまでにはかなり時間を要したのだった……………。
「あっ、ユウキ!あそこの洞窟の入口にいるの………きっとコイルたちだよ!
「そうなの!?よし、お~い!コイルたち!“メモリーズ”だよ!救助に来たよ!」
急ぎ足で歩きながら、遠くを指差したチカ。その先に洞窟の中を心配そうに見つけるコイルたちがいたので、ボクは大声で彼らに呼び掛けた。
「オオ、メモリーズ!キテクレタカ。ビビビ!」
「コノドウクツニ………イチバンオクフカクニ、ワレワレノナカマガイルハズダ。タスケテクレ!ビビビ!」
ボクの声に気づいたコイルたちがこちらを振り向く。安堵の表情を浮かべたのも束の間、すぐにまた心配そうに洞窟の中を見つめる。
その様子を見てボクとチカは向かい合って、決意を固めるように二度大きくうなずいた。
「頑張っていこうね、ユウキ」
「うん。一刻も早くコイルたちの仲間を助けに行こう!」
そのままボクらは迷いなく洞窟内へと突入した。
「タノムゾ、“メモリーズ”………ビビビ」
こうしてボクたちの“メモリーズ”の、次なる記憶が始まったのである……。
……………メモリー13に続く。