ケンジの話1 ~俺とアイダと…~
不思議な奴がいた。
走るのも俺よりずっと遅いし、頭だって俺の方がいい。
喧嘩なんか問題にならない位俺の方が強い。
でも、俺よりあいつは皆から慕われる存在で…。
だから俺はいつも嫉妬していたんだ…。
俺はそいつをアイダと呼び始めた。
読みがアイダじゃない事位知っているし、あだ名をつけたのも親愛を込めてではない。
何となくイラついて不意に「アイダ」と怒鳴ってみたら思いの外、本人も気に入ってくれたらしい。
周りもアイダと呼ぶようになっていって…。
俺がアイダと呼ぶようになってこいつは妙に俺になついちまったみたいだ。
…本当に変な奴だ。
呆れる。
こんなに無防備で懐に入ってくる奴だからみんなこいつに心を許すのか…なんて妙な納得をしてしまった事を覚えている。
いつの間にか嫉妬なんてちっぽけな気持ちは無くなっていたって訳だ。
何となくつるむうちに俺もアイダの家に行くようになったんだ。
うん。
悪い気はしない。