2014年深セン遠征『英雄伝説』⑮

【みんな大切な仲間だ】

日本に戻った翌日から練習に復帰した。
それは私が不当判定を糧にしてやる気になったからではない。
後輩の早坂太郎の練習相手のためだ。
現在の名古屋JKファクトリーのプロ選手は私を含めて４名しかいない。
対人練習は選手の試合のタイミングによって、結構苦労したりする。

「何か人のために動けば、自分にも何か良いことが起こるのではないか」

という打算的な考えに基づいている。
私はこう見えて計算高いのだ。
正直、結果次第では、今年の試合はすべてキャンセルするつもりでいる。
昨年末から体調も芳しくないし、少し休養が必要だと感じていたところもあってね。
そして、少し休養して心が復帰へと向かわなければ、このまま選手としてはフェードアウトしてもいい、とさえ思っている。
そのくらい今回の試合には失望していた。

「『１００戦やる』っていつも言っているじゃないか」

それは聞かないでおくれ。
１００戦というのはあくまでも目標であって、志半ばに気持ちが切れることもある。
今回の試合で７７戦というキリの良い数字になった。
これはこれで区切りはいいはずだ。

【最後の最後まで闘争心は全く衰えることなく77戦を戦い抜いた】

試合から１週間が経った。
いまだ結果は審議中だ。
でも、

「さっさと結果をハッキリしてくれ」

という気持ちは一切ない。
長引いてもいいから、しかるべき結果を出して頂ければ、何も文句は無い。

長引けば長引くほど、交渉に難航しているということなのだろうか。
私は、交渉役の岩熊さん、マネージャーを信じて待つのみ、である。
審議の内容はマネージャーを通じて逐一報告があった。

新たに得た情報としては３点だ。
５月２１日に正式に審議委員会が開催され、現場の検証などから話し合いが綿密に行なわれているということ。

ジャッジペーパーが公開され３者ともに３０－３０のドローだったこと。
これに関しては再三書くが、王座決定戦なのでドローは有り得ない。
どちらかを王者として決めるため、ドローならば必ず延長戦を行なわなければならない。
それを間違えて「シュー・イェンの防衛」とアナウンスしてしまったため、私は負けたと思ったのである。

また、試合時間が全ラウンド短く、全ラウンドインターバルが長かったことも判明した（妙にインターバルが長いな、とは試合中に感じていたが）。
内訳は１ラウンド２：３０。
２ラウンド２：４５。
３ラウンド２：３８。
インターバル１：３０。
であった。

こちらサイドの要望としては、「１・試合を再度審議し、佐藤嘉洋の王座獲得を認定する」「２・公式記録はドローのまま、佐藤を暫定王者に認定する」「３・試合自体をノーコンテストにする」の３段階に分けられた。
もちろん１の案が通れば一番良いに決まっているのだが、英雄伝説は何しろ国が関与している。

【試合から一週間後、気分転換に子供と今年初の海水浴】

交渉役の岩熊さんの鬼気迫るネゴシエートは連日続いていた。
こちらにも連絡が逐一届き、国家体育総局（スポーツ省に相当）との関係から判定結果が変わることはない、ということが伝えられた。
ここで判定結果に手を加えると、日中関係がより複雑なものになってしまうからだろうと思われる。

残るは２か３か。

そして、答えは５月３０日の金曜日に正式に出された。
試合が終わってから実に13日後のことであった。

2014年深セン遠征『英雄伝説』①

2014年深セン遠征『英雄伝説』⑬
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑭
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑮
2014年深セン遠征『英雄伝説』最終章

明るく生こまい
佐藤嘉洋

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